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プレーバック:対TDK SC戦@栃木SC通信
2008年4月 5日 大塚秀毅 | この記事のページ | コメント(0) | トラックバック(0)
※メンバーが大幅に変わっているために参考にならない可能性大
秋田県仁賀保運動公園多目的広場は、ダグアウトを兼備している特異な構造のスタジアムだった。おそらく野球場としても使用可能なのだろう。そのメインスタンドからは風力発電用の風車が遠方に見える。日本海からの風を受け、ゆったりと回転を続けていた。
天皇杯3回戦、ベストメンバーのアビスパ福岡に挑むも弾き返された。0―4と完敗。実力差を見せつけられ、「興奮と感動」、栃木県をアピールするには至らなかった。惨敗に悔しさは残る。昨年のアップセット、奮闘が記憶に新しいから。が、残り8試合、J2昇格が懸かったリーグ戦だけに集中できる。プラスに解釈することもできるし、気持ちを切り替えなければ昇格圏内の4位以内に滑り込むことは困難だ。自らを窮地に追い込んでしまった栃木SCの陣容はGK原裕晃、DFは左から片野寛理、山崎透、谷池洋平、高野修栄、ダブルボランチは米田兼一郎と久保田勲が組み、左ワイドに小林成光、右ワイドに只木章広、2トップには上野優作と小原昇が指名された。
ここ数試合、立ち上がり好調な栃木SC。開始早々に放たれた久保田のミドルシュートを皮切りに、攻勢に立ちたかったが頻発したミスが自滅を招く。とにかく、パスが繋がらない。呼吸のズレが、粗雑なプレイが攻守交代の滑らかさを損なわせた。中盤で引っ掛かる場面が目に付く。サイドからの侵略が叶わないのは必然だった。
「中盤とFWの距離が空いてしまった。クサビを打ち込めなかった」(米田)
ポゼッションが難しいことからロングボールに頼るも、全体が間延びしてしまい、サポート意識が低くセカンドボールを拾えない。みすみすボールをTDK SC(TDK)に渡しているようなものだった。単調な攻撃だけが繰り返され、ゴールの匂いなど全く漂わなかった。
アバウトなボールを蹴り込むだけの栃木SCとは対照的だった。TDKは同じロングボールを使うにしても、ターゲットの松田正俊をしっかりと狙っていた。意図のあるボールと、そうでないボール。シンプルと単調の違いが次第に現れ始める。衛星のように松田の周囲を富樫豪が動き、池田昌広と松ヶ枝泰介の両ワイドが絡む。パターン化された攻撃だからこそ、迷いがない。ダイナミズムでは圧倒的に凌駕された。
拙攻を幾重にも重ねる。思い描くサッカーが展開できなかったが、栃木SCが先手を取った。FKのセカンドボールから片野の左クロスを谷池が頭で合わせた。ど派手なガッツポーズの連発は、この一戦の重要性を感じ取っていたからこそのものだった。
絶好の時間帯、前半ロスタイムのゴールは、低調だったパフォーマンスを向上させるには恰好の刺激となるはずだった。小休止後の後半戦。しかし、栃木SCは本来の姿を取り戻せない。僅か10分で失点を喫してしまう。
池田が体を張ってボールを確保した富樫とのコンビネーションからゴールを割る。厳しく人とボールに寄せるように柱谷幸一監督は指示を飛ばしていたが、前半から顕著だった寄せの甘さが被弾を浴びることになる。
富樫とハイボールを競り合うも、先に体勢を立て直され、アシストを許した山崎が振り返る。
「今日は主審のヘディングに対する基準が曖昧だった。ガツガツいけなかった部分があったが、取られてはいけなかった」
高安亮介、深澤幸次、横山聡を立て続けに投入。交代により久保田を左サイドバックに、中盤は米田がワンボランチ、高安と深沢をサイドに配し、小林をトップ下にシフト。リスクを背負ったが、栃木SCに練習生として参加したことがある小林宏之を中心としたTDK守備陣も粘りを発揮する。ようやく、米田がPボックス内でシュート、1対1を制した深沢の左クロスから横山聡がニアに飛び込む絶好機を生み出すも、GK正面を突く、クロスバーに嫌われるなど好機を潰す。結局、スコアを動かせないまま1―1でタイムアップ。勝ち点2を喪失した。4位アローズ北陸との差は絶望的な10にまで広がった。
「数字の上で可能性があるならば4位以内を目指す」と話した柱谷監督だが、一方で「これからはガリガリやれる選手、ポジションを取るというひたむきにやれる選手にチャンスを与える。中途半端なメンタルの選手は使えない」と来季に向けて動き出そうとするコメントを残した。それは、降伏宣言とも受け取れるニュアンスを含んだ発言だった。
秋田の寒風は現実を受け入れるには十分すぎるほど冷たく、人もボールも動かなかったサッカーを見せられたものにとっては、回り続けていた風車が恨めしくもあり羨ましかった。
JFL後期第10節 TDK SC1―1栃木SC @仁賀保運動公園多目的広場 観衆1215人
〈TDK SC〉GK小野聡人、DF小林宏之、阿部琢久哉、高橋臣徳、小沢征敏、MF高林佑樹(→成田卓也)、千野俊樹、松ヶ枝泰介(→佐藤和旗)、池田昌広、FW松田正俊、富樫豪(→木下真吾)
『自己改革』
名指しで批判することを厭わない。柱谷幸一監督の矛先は片野寛理に向けられた。
「片野のところで上手く繋げなかった。ハーフタイムに交代させようと思ったが、1点取れたのでやらせたが最後まで駄目だった」
柱谷新体制となってから左サイドバックのファーストチョイスは高野修栄から片野に変わった。フィジカルと守備には難があるも、大胆なオーバーラップを買われ先発に抜擢される。タッチライン沿いを駆け上がり、中盤の選手を追い越す。クロスの供給、切れ込んでからのシュート。求められる要素を満たす。
TDK SC戦では持ち味が活かされなかった。相手の脅威とは成り得ず。サイドの攻防で後手に回るシーンが目に付いた。周囲のフォローも足りなかったが、本来の出来から程遠かったのは事実。アシストを記録するものの、後半27分に引っ込められた。
期待をかけ、信頼を寄せているから言葉も自然と鋭くなる。「サイドバックの入れ替え」をも示唆し、バッサリと切り捨てた。
「(胸を叩き)ハートが弱い。多少、痛くても弱音は吐かない。見せない。そうではなければ使えない」
疲労から片野は足に張りを訴えていたという。普段とは異なる微妙な体の感覚のズレが、プレイに影響を及ぼしたのかもしれない。ケガの危険性はなるべく回避したい。選手の本音だろう。だが、柱谷監督からすれば痛めている箇所は誰にでもあり、試合当日まで言い続けるものではない、ということなのだろう。まだまだ甘い、と映ったに違いない。
片野が槍玉に挙がったが、チーム自体クオリティは恐ろしく低かった。押し並べて物足りなく、不甲斐なかった。
問題点を柱谷監督は、こんな風に感じ取っている。
「メンバーを固定するとレギュラー(の気持ち)が緩くなり、安心してしまう」
本来は責任感を持ち、チームを背負って立っているという自覚が芽生えるはずが、栃木SCの場合は異なる。レギュラーを確保した時点で充足感を得てしまう。飢餓感が一転して、満足感に変わってしまう。つまり、ポジションを掴むことが弊害になっているという。それが脆弱なメンタルに直結してしまっている。だから接戦をものにできず、劣勢を跳ね除け、挽回できない。
京都パープルサンガ(現・サンガFC)で昇格レースに身を置いたからこそ、過酷さ、そして必要不可欠なものが分かるのだろう。
「昇格争いは厳しい。戦術や個人の技術だけではなく精神的にタフでなければ、メンタル面で強くないと勝ち残れない」
スキルが少ないのは折り込み済み。キックの精度は一朝一夕に向上しない。それでも、気持ちの持ち方、メンタル面はひとり一人の意識が高ければ磨き上げられる。プロ契約を結んでいようと、カテゴリーがアマチュアであろうと関係ない。
決定的に欠けているのは“プロ意識”。「お金をもらい」サッカーをやれているという幸福感が勝り、サッカーで飯を食えている、生きているという矜持、次のステージへと進んでやるという野心が希薄になってしまっている。後の祭になる前に、契約を打ち切られる以前に気が付くか、付かないか。その差は大きい。人に言われて実行するよりも、自ら意識改革を図り、日々変化を感じることが最も身になる。
4位との勝ち点差は引っくり返すのが極めて苦しい10に開いた。だが、戦うことを、前進することを諦めてしまっては、これまでが無になる。例え昇格を逃したとしても、最後の最後まで足掻いたという跡を残さなければならない。
「ここでやらないと次がない。それが嫌なら仕事を持ち、安定した収入を得てサッカーを楽しんだ方がいい」(柱谷監督)
辛辣だが、しかし的を射ている。
『怖さ』
恵まれた体躯を活かした確実なポストプレイ、DFを背負っても体勢が崩れない力強さ、サイドに追い込まれ囲まれてもボールを取られないキープ力、ゴール方向への推進力のあるドリブル。TDK SCのストロングポイントにして、前線の起点であるターゲットマン・松田正俊の存在感は際立っていた。まさに、大黒柱だった。
柱谷監督は、こう評した。
「恐さがある。JFLのレベルだと強い。高さ、強さがあり、足元も上手い。ピッチに立った22人の中では抜けていた」
前半から栃木SCは15ゴールを叩き出している松田に手を焼いた。主審のジャッジが一定ではなく、タイトな守備が難しかったことを割り引いても、ファウルを犯してはFKを取られ過ぎた。対峙した谷池洋平は言う。「ポジショニングがよく、戦える選手だった」。自ら獲得したFKを蹴れるのも松田の魅力のひとつだろう。プレイスキッカーを任されているだけのことはあり、足元のスキルもしっかりしていた。
後半、劣勢の栃木SCは松田を更に勢い付かせてしまう。胸で、頭でチャンスメイクを許す。決定機を何本か演出された。終盤にはカウンターから持ち上がり、ロスタイムにはオフサイドとなるもスルーパスを通しもした。シュート数は両チームあわせて最多の4本をマーク。図抜けていた。
モンテディオ山形で監督に就任した際、柱谷監督は当時在籍していたFC東京から松田を引っ張った。京都パープルサンガ(現・京都サンガFC)に移ってからも山形から戦力外通告を受けたことで声を掛け、J1昇格を果たすために共闘。期待に応えるように松田は大事な場面でゴールを決め、J2からの脱却に貢献した。拾ってくれた恩に報いた。
既に京都時代の教え子である米田兼一郎、小原昇をレンタル移籍させている。来季、続投が決まったならば松田を再び呼び寄せる可能性は極めて高い。置かれている現在の環境はリサーチ済みである。関心の高さが伺える。
数字の上ではJ2昇格の芽は潰えていないが、現時点で4位に位置しているアローズ北陸は栃木SC同様に下位との対戦を残していることから、状況はかなり厳しい。敗因を述べるのは時期尚早かもしれないが、中位に甘んじている一因に元Jリーガーをかき集めることに固執してしまったことが挙げられる。昇格に最も近いロッソ熊本はエース高橋泰を擁しながら、北川佳男(元アローズ北陸)に小林陽介(元横河武蔵野FC)とJFLで実績を残し、ある程度の計算が成り立つゴールゲッターを補強した。緻密なスカウティングと、戦力補強に抜かりはない。ちなみにアローズ北陸のチーム得点王はJFLを経験している元愛媛FCの永冨裕也である。
最早、元J戦士というだけでは年々レベルが上がっているJFLでは、結果を出すことは容易ではなくなってきている。審判の判定も含め環境にアジャストするのに時間を擁しているうちにシーズンは終わってしまう。Jでのゴール数よりも、リーグ戦で対戦した「恐さのある」FWの方が市場価値は高いのではないだろうか。
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