ホーム > コラム 『The Cut(仮)』 > 『芽生えてはいけない安心感』@栃木SC通信

『芽生えてはいけない安心感』@栃木SC通信

2008年4月14日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

yusaku.JPG

ロングボールの雨霰。絶え間なく降り注ぐ。ホームゲームで1点のビハインドを背負う。当然ながら佐川印刷SCは常套手段であるパワープレーを仕掛けてきた。何度、跳ね返してもPボックスをターゲットにボールが蹴り込まれて来る。これを上手い具合にいなし切れなかった。数的優位にもかかわらず後手に回り、圧倒される。

「一人退場してから逆に『一人少ないんじゃないか』と感じるくらい、最後は押し込まれた」

川鍋良祐はそんな感覚を覚えた。

「いいカタチで押し込まれ、結果的に最悪のカタチになってしまった。少しずつでもラインを押し上げてゲームを作らないと苦しい」

逃げ切る態勢は整えられ、プランも出来上がっていた。ダブルボランチの1枚、落合正幸を4バックの前に配置。強固なブロックを構築し、猛攻を弾き返す。相手が前線に人数を割いてきたぶんだけ後ろは薄くなり、カウンターは発動し易い、はずだった。

が、佐川印刷のシンプルな攻撃は予想以上の効力を発揮した。矢継ぎ早に繰り返されたことで、何時の間にかスタミナは削り取られていた。一人ひとりの運動量は低下し、ゴールを意識した動きは乏しくなる。推進力が働かない。DFラインは下がりきったまま。放り込まれてくるボールをクリアする。そのことだけで手一杯になってしまう。前掛かりを逆手に取る堅守速攻のプランは脆くも崩れ、好機すら作り出せない始末。

それでも、我慢の時間帯を抜け出せた。一時的に佐川印刷の攻撃はトーンダウンする。流れを変える機会を与えられるも、栃木SCには力が残っていなかった。形勢を逆転できない。

耐えに耐えて漕ぎ着けたロスタイム。最後のワンプレー、痛恨の一撃を食らう。スコアを2―2に戻された。向慎一は述懐する。

「ここのところキープして試合が終わることが多かった。ロスタイムにこのまま終われるという雰囲気がなかったといえば、嘘になる」

落合が付け加える。

「10人になってから安心しきってしまった。一人ひとりの活動量が不足し、『ここでやらなければ』と思えなかった」

危機感が希薄になり、芽生えてはいけない安心感が劇的なゴールの呼び水となってしまった。

「あと、ワンプレーでしたねぇ」。大きな溜め息をつき、上野優作は続ける。「押し込まれたら、押し込まれたなりのゲーム運びがある」。それは例えばバランスを取りながら機を窺う、例えば奪ったボールを長い時間キープする、例えば相手陣内で試合を進める。つまり、ポゼッションを高めていれば相手に付け入る隙を与えることはなく、攻撃される回数を減らすことも可能だった。しかし、マイボールを大事にせず、単純に蹴り返すことで相手に譲り渡してしまい、嵩に掛かって攻め込まれた。結果的に自分で自分の首を絞めてしまう。絶対優位を勝点3として結実させられなかった。

「失点の原因はひとつではない」と柱谷幸一監督は考えている。例え話を引き合いに出し、語る。

「例えば危険な地域では、鍵がひとつでは足りない。3つかけておく。1つ、2つ外れても3つ目で止める。あの時間帯、あの地域でプレーさせたこと、クロスへの対応。どこかひとつでも鍵がかかっていれば破られることはなかった」

突き詰めればリスクマネジメントが拙かったということになる。刻一刻と変化していく事態への対応力が不十分だった。そして、11対10のメリットが、守り切れるだろうと心に隙を生み出し、何時しかデメリットへと摩り替わっていた。

危殆に瀕しているような心構えは、試合終了の笛が鳴り響くまで、常に持ち続けなければならない。同様のケースに直面した際、2度と足をすくわれないために。 

トラックバック(0)

このブログ記事を参照しているブログ一覧: 『芽生えてはいけない安心感』@栃木SC通信

このブログ記事に対するトラックバックURL:

コメントする