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プレーバック:対カターレ富山戦(アローズ北陸版)@栃木SC通信

2008年5月23日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

※メンバーが大幅に入れ替わっているために参考にならない可能性大

一際、大きな拍手が送られた。選手紹介で堀田利明の名がアナウンスされた時に。観衆は知っていた。前節、FC京都1993の藤原敬二の79試合連続フルタイム出場の記録に並び、アローズ北陸戦で90分間ピッチに立ち続ければ、歴史に残る大記録が達成されることを。

心配された雨も降らず、蒸し暑い陽気の中、栃木市総合運動公園陸上競技場には過去最多となる3473人が足を運んだ。堀田の偉業と勝利を祝う舞台は整った。

辛勝したソニー仙台戦から入れ替わったのは吉田賢太郎のみ。代わりに横山聡が先発復帰し、シャドーの位置に収まった。その他のメンバーはGK原裕晃、4バックは左から高野修栄、谷池洋平、照井篤、北出勉、ダブルボランチに堀田、山田智也、左に石川裕之、右に小林成光、センターFWに山下芳輝が起用された。

“栃木SCキラー”北川佳男がロッソ熊本へ移籍するも、愛媛FCのJ2昇格の立役者、永冨裕也を獲得したアローズ北陸。主力メンバーは大幅に変わり、フォーメーションも4―4―2に変更されていた。

栃木SC5勝1分け、アローズ3勝3分けと無敗同士の対決となった一戦。左サイドバックの高野が果敢に前に出る。サイドで優位に立った栃木SCは、左を起点に攻撃を仕掛ける。オーバーラップから高野はシュートを放った。昨季2戦2敗と苦杯を舐めた相手に対して、入りは上々だった。

ところが、15分を過ぎると雲行きが怪しくなり始める。「入りは良かったが、イニシアチブを握られ、アローズのリズムで前半の中盤を支配された」と高橋監督。徐々に効果的だったサイドアタックは鳴りを潜め、対照的にアローズが今度は左サイドを軸に攻め立てた。じわりと圧を強める。ワンツーからPボックスに今井大悟が侵入、谷池と原の連係ミスから山本英之が詰め寄り、渡辺誠はループシュートとゴールに襲いかかる。GK原の好守で事無きを得るも、立て続けに好機を作られてしまった。

相手陣内でボールを奪うも、「ゴール前まで行くが崩すシーンがなかった」と山下が言った通り、横山聡、山田がゴールに迫るシーンもあったが、決定機にはならなかった。ボランチが厳しいマークにあい、ボールを散らせなかったことで拙攻を重ねることに。「相手に合わせてボールを蹴ってしまった。ビルドアップができていれば・・・」と堀田は嘆いた。その堀田。前半ロスタイムに左足に持ち替えてからミドルを打つも、シュートは僅かにクロスバーを越える。記録がかかった試合でのゴール。ドラマティックな展開を望んだ観衆からは大きな溜息が漏れた。

前半の終盤に山本の枠内を捕らえた反転シュートをGK原が弾き出して難を逃れ、後半に立て直しを図りたかった栃木SCであるが、横山聡が2枚目のイエローカードをもらい退場させられてしまう。「0―0で折り返して、後半勝負」(高橋監督)のプランが崩壊。この退場劇で平常心を欠くことに。

浮き足立ってしまい、アローズに押し込められる。「ひとり少ない中で、勝利にどう導くか」。考えた末に高橋監督は茅島史彦、永井健太と攻撃的なカードを切る。更に「違和感なく、信頼してDFを3枚にした」と4バックから3バックへと布陣の移行をもした。リスクを犯して攻撃重視にシフトする。しかし、数的有利のアローズに茅島、永井が使えるスペースを消去されてしまい、戸惑いを見せた3バックが安定感を保てなかったことから流れを変えられなかった。
 
打った手が効力を発揮しない悪循環。今井、石田のシュートは枠を反れ、命拾いするも、ついに耐えきれずに失点を喫する。CKの流れの中から警戒していた永冨にリバウンドを決められる。「クリアしてこぼれたところでラインが上がっているはずなのに、上がっていなかった。ひとり少ない時点でセットプレイから失点してはいけなかった。意思の疎通が足りなかった」と谷池は臍を噛んだ。
 
混乱していたところに失点が上乗せされたことで、敗色ムードは一気に高まる。だが、「うちは退場すると負けない。ネガティブにはならなかった」と最後まで諦めていなかった堀田の執念がゴールを引き寄せた。

インターセプトしたボールを山下へと繋ぎ、途中交代の西川がGKのファウルを誘い、PKを得る。これを「最初から狙っていた。思いきり蹴って外れたら仕方がない」と山下が左上段へ突き刺す。開幕戦のPK失敗があっただけに、「プレッシャーはあった」が数々の修羅場を潜り抜けてきただけのことはある。萎縮せずに右足を思いっきり振り抜くあたりは、経験の成せる技であり、ハートが強い証拠でもある。
 
土壇場での同点弾。スタンドは爆発した。逆転の機運は醸成され、盛り上がりは最高潮に達した。クイックスローから山下のポストプレイを利し、西川がフリーでシュート。決定的だったが、GKの正面を突いてしまう。その瞬間、テクニカルエリアで高橋監督は頭を抱えた。敗色が濃厚だった試合を引き分けに持ち込めたが、あとひと押しが足りなかった。引っくり返せずに、勝ち点2を取り損ない、首位を堅持することはできなかった。
 
勝利で新記録に華を添えたかった堀田は、懸命に足がつっても走りきった。同点ゴールの起点になりもした。体が悲鳴を上げても、勝利を追及したが、ほんの少し届かなかった。
 
ロスタイム4分が経過。終了の笛が鳴り響き、80試合フルタイム出場記録は達成された。こみ上げるものがあり、観客席を見た時には「ジーンときた」。肩の荷が下りたことで安堵の表情を浮かべるも、「今年はJに上がることが目標。それに貢献することが大事。ここで感動しないで、J2に上がり感動したい」と“鉄人”はすぐに気持ちを切り替えた。そして、「今日は引き分けてすいません。次のホームでは勝ちます」と勝利を約束した。

JFL前期第7節 栃木SC1―1アローズ北陸 @栃木市総合運動公園陸上競技場 観衆3473人

〈アローズ北陸〉GK藤川康司、DF谷田悠介、橋元圭一郎、柳沢宏太、高向隼人(→西野誠)、MF上園和明渡辺誠今井大悟松下和磨(→小林羊汰)、FW石田英之(→森本悠馬)、永冨裕也 ◆太字はカターレ富山所属選手◆

 

『我武者羅に』

特別、意識はしていなかったそうだ。「審判はフェアですから」。昨季、後期第11節、ホーム試合の出来事を問われた西川吉英は、さらりと応えた。
 
カウンターからスピードに乗った西川はドリブルで突進した。Pボックスの内側と外側の境目で倒される。絶好の位置でのファウル。あとはFK、あるいはPKの判断を主審が下すだけかに思われた。が、笛は鳴らない。そのままプレイは続行される。ボールを掻っ攫ったアローズ北陸は反転速攻を繰り出し、小林羊汰が決勝ゴールを叩き出した。

1―1の引き分けを善しとせず、あくまでも勝ち点3を手にするタメに、前に出たところを上手く逆手に取られた。見事な切れ味を見せた相手のカウンターを褒めるべきであるが、もしも、西川のドリブル突破がファウルと認定されていれば、勝利を掴めていた可能性もあった。過去を悔いても仕方がないが、忘れ難いワンシーンだった。
 
状況は酷似していた。スコアは0―1とリードされていたが、追いつき、追い越そうとする意識は、カウンターに沈んだ昨季の対戦時と変わらなかった。
 
試合終了間際、インターセプトした堀田利明から、ゴール前の山下芳輝へ縦パスが入る。山下のパスに鋭く反応したのは西川だった。背後へと抜け出す。果敢な飛び出しから窮地を救っていたGK藤川康司も前に出たが、西川の方が勝った。GK藤川はたまらずファウルを犯し、一発退場を宣告される。1年越しで西川はファールの判定を勝ち取った。獲得したPKを山下が豪快に蹴り込み、試合を振り出しに戻す。

「前に出るアグレッシブさがある。球際にも強い。最後にチャンスを作ってくれると信じていた」

ベンチにはエース吉田賢太郎も座っていたが、西川を起用した理由を高橋監督は、そう述べた。采配的中である。

ベンチから声がかかった際には0―0だった。高橋監督の元へと行った時には0―1になっていた。状況は暗転していたが、「なにがなんでもやってやろう」と心に強く誓う。後半28分、小林成光に代わり西川はピッチに立ち、「倒れないで自分でいきたかったが、シュートを打とうという気持ちがPKに繋がった」と決定的な仕事をした。「我武者羅に。自分のストロングポイントが出せた」。ロスタイムに絶好機をフイにし、勝利を収められなかったことから笑顔は見られなかったが、確かな充実感が伺えた。

サッカー人生を懸けてプロ契約を結んだ今季。トレーニングマッチの対鹿島アントラーズ戦、中央大学戦でゴールを決めた。リーグ戦開幕を前に結果を出したが、レギュラーの座を掴むには至らなかった。これまで7試合を消化して先発1、途中交代3とベンチを温める時間が長くなった。確約されていたポジションを失った。

腐ってしまってもおかしくはない。モチベーションを維持することは容易ではない。同ポジションの吉田賢太郎、横山聡は既にゴールを挙げており、焦りがないわけでもない。それでも、出場した試合ではアシストをマークするなど、必ず好機に絡んでいる。限られた時間の中で西川が期待に応えられているのは、「強い気持ちでやることしか考えていない。レギュラーでも控えでも変わらない」という確固たる信念があるからこそ。

ひとつしか用意されていない1.5列目の枠を3人で競い合う、ポジション争いは苛烈を極める。現在の序列を崩すことは容易いことではない。しかし、「チームもボクも1試合、1試合が勝負。機会があればアピールしたい」と西川は決して下を向くことない。むしろ、刺激的な環境で自分がどれだけ成長することができるのか、楽しもうとしているようにさえ映る。

厳しい生存競争に身を晒されたことで、西川はサッカー選手として一皮むけようとしている。吉田賢太郎も横山聡も安閑とはしていられないだろう。逆境を味わったものが、這い上がる折に発揮する力は尋常ではないからだ。

※対YKK AP戦は明日、アップします。

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