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プレーバック:対SAGAWA SHIGA FC(旧・佐川急便SC)戦@栃木SC通信
2008年5月31日 大塚秀毅 | この記事のページ | コメント(0) | トラックバック(0)
※メンバーが大幅に入れ替わっているために参考にならない可能性大
試合中に見せる険しい表情はそこにはなかった。堀田利明は満面の笑みを浮かべた。前期第7節、対アローズ北陸戦終了後、JFL新記録となる80試合フルタイム出場記録を樹立(現在も記録更新中)。そのセレモニーが約1ヶ月遅れで執り行われた。プレゼンターの甥っ子は恥ずかしそうに花束を渡し、受け取った堀田の顔は自然とほころんだ。雨上がり、快晴の空の下、和やかな、温かい空気が試合前のスタジアムを包んだ。
4月8日のアルテ高崎戦以来、栃木SCはホームゲームでの勝ち星から見放されている。栃木市ではアローズとドロー、足利ではFC岐阜、ロッソ熊本に敗れた。久しぶりに戻ってきた県グリーンスタジアム(宇都宮)で勝ちに飢えているサポーター達に白星を届けるべく首位・佐川急便SC戦に挑んだ。
「ホームゲームだし、シュート数が少ないからアグレッシブなサッカーをしようと前に人数を置いた」と4バックから3バックへシフトした意図を説明した高橋高監督。後半途中から使用することはあったものの、スタートから今季初となる3―6―1の布陣はGK原裕晃、3バックに山崎透、谷池洋平、照井篤、ダブルボランチには堀田と種倉寛、左ワイドに片野寛理、右ワイドに小林成光、2シャドーに西川吉英と横山聡が配され、ワントップには山下芳輝が入った。種倉は今季初先発、山崎は通算100試合出場のメモリアルゲームとなった。
昨季、2位の佐川急便東京SC(佐川東京)と3位の佐川急便大阪SC(佐川大阪)が合併し誕生したのが佐川急便SC。得点王を獲得した佐川東京の大久保哲哉は柏レイソルに移籍したものの、その穴を御給匠、嶋田正吾、堀健人の3人がきっちりと埋め、11試合消化時点でのゴール数は29と爆発的な攻撃力を誇り、加えて失点7はリーグ2位タイと攻守両面で安定した数字を残している。ゼロからの立ち上げたに等しいチーム状態ながら見事なまでに融合に成功。トップを快走している。フォーメーションは4―4―2を採用した。
立ち上がり10分は互角の展開。12分に佐川急便はサイドチェンジから中村元が、栃木SCはカウンターから横山聡が共に絶好機を迎えるも、両チームのGKが美技を披露したことでゴールには至らなかった。
「高い位置からプレスを掛け、ボールを奪い、栃木のセカンドボールを拾うように。中盤の運動量は多くなるが走り負けないようにしよう」(中口雅史監督)
栃木SC3バックの面子が昨季と同じだったことから(実際には横山寛真が谷池に変わっていた)佐川急便の戦略に大幅な変更はなかった。長身の御給は堅実なポストプレイを心掛け、その周囲を衛星のように小柄な中村が動き回り、堀と嶋田の両サイドハーフは3バックのウイークポイントである両端のスペースに幾度も侵入した。攻勢に立つとスピード豊かなサイドアタックを繰り出し、次々にクロスを上げる。縦パス一本に飛び出した中村の折り返しを嶋田がフィニッシュに結び付けるなど持ち味を発揮した。
そして、前半22分、バイタルエリアで種倉からボールを掻っ攫うと、すぐさま右にはたき中村のクロスを御給がヘディングで合わせて先制。得意のカタチからあっさりと先手を取った。「失点に結び付いたのは自分のミス。チームに迷惑をかけた」と沈痛な面持ちの種倉。続けて「3―6―1にしたことで中盤の6枚でボールを引き出してサイドチェンジや効果的なパスを送りたかった。(自分達が)引いてもボールを引き出して展開できればよかったが、相手のプレスもあり回らなかった。試合勘が足りず、出場しただけで仕事をしていない。申し訳ない」と口をついて出てくるのは反省の言葉ばかりだった。
負ければ勝ち点が10に広がる正念場の一戦。「職人」の異名をもつ種倉の妙技と経験に懸けた起用だったのだろうが、本人も言っているように“試合慣れ”していなかったことで低調なパフォーマンスに終始した。もちろん高橋監督はある程度の計算が成り立つがゆえに選出したのだろうが、取りこぼせない試合で使うには“今季初スタメン”はリスクが大き過ぎた。閉塞感を打破するどころか、悪循環の一因となってしまうことに。
ダブルボランチが組み立てに加われなかったことで、序盤はワンクッション入れて供給されていた背後へのボールもDFラインから一発狙いの単調なものになってしまう。オフサイドに引っ掛かるも、鋭く裏を突く攻撃は嫌らしかっただけに、ボールを蹴ってしまったことは自らの首を締める行為だった。守備組織を整えた佐川急便に、手の内が分かりきったロングボールが通用するはずがない。中盤は省略され、全く試合を作れない。FKからPボックス内で西川が胸トラップからボレーシュート、堀田が直接ゴールを狙うも相手を慌てさせられなかった。
ハーフタイムに高橋監督は「前半の失点を忘れて前3枚は流動的に、高い位置に起点を作り、フィニッシュに繋げよう」と指示を伝え送り出した。しかし、ピッチをワイドに利用し、クサビを打ち込んでからサイドに起点を設けたのは皮肉にも佐川急便だった。サイドでのイニシアチブを握られたことで、両ワイドの片野と小林は押し込められ、守備に追われた。「サイドバックが縦を切り、サイドハーフがケアにきた。ボランチのフォローが足りなく、DFにボールを戻してしまった」と小林が言えば、片野も「山崎からボールを引き出せず、もう一つ早いタイミングでボールをもらえれば前に行けた。DFにとっては出し難い状態だったかもしれないが、信じて出してもらいたかった。ボールを受けられればなんとかできた」と複雑な心境を吐露した。イメージの共有が図れなかったことで、3―6―1のストロングポイントであるサイドアタックは鳴りを潜めた。
絶えず動きながらボールを受け、中央とサイドの2方向から攻撃を仕掛けた佐川急便は、守り方も巧みだった。局面、局面で数的優位を作り出しては前を向かせることなく、行く手を阻んだ。特に山下への密着マークは徹底していた。ボールを収めさせないように必ず体をへばりつけては自由を奪った。惜しみない前線からのプレスも止むことなく、苦し紛れのロングボールを誘発させた。攻撃面ばかりがクローズアップされるが、守備力も高かった。
起爆剤として高秀賢史(横山聡アウト)、金子剛(小林アウト)、茅島史彦(片野アウト)を投入するが、全体が噛み合っていないことから流れを変えられなかった。逆に途中投入の竹谷英之に2度も右サイドからクロスを入れられ御給、嶋田にゴールを脅かされるなど、3バックはPボックス内での間一髪のクリアを余儀無くされた。ようやく、ロスタイムに茅島のチャンスメイクから金子がゴールに迫るも、ヘディングシュートは枠を捉え損ね、ニアサイドへの低いグラウンダーのボールは触るだけでよかったのだが「軌道を変えようとしたが上手くいかなかった」(金子)。
逸機したことによる大きな溜息をかき消すように終了のホイッスルは吹かれた。前半の先制点がそのまま決勝点になり、佐川急便が逃げ切った。勝ち点3を上乗せし、がっちりと首位をキープした。栃木SCはホーム3連敗。「ホームで負けることは、アウェーで負けることと全然、違う。J昇格へ向けて県全体に水を差してしまった」とゲームキャプテンの西川はうな垂れた。とうとう勝ち点差は二桁の10にまで開いてしまった。絶望的というには早計かもしれないが、優勝するには限りなく困難な状況に追い込まれた。既に脱落したと言っても過言ではないかもしれない。
「どうにもならないという気持ちはなかったが、チャンスを生かせなかった」。試合を振り返っての高橋監督の弁である。確かに蹂躙されたロッソ戦ほどの深い傷跡は残らなかった。精神的なダメージは思ったほどではない。それほど打ちひしがれることもなかったのではないか。それは、「個々よりもチームがバラバラにならずにやれているか、やれていないか。僅かな差かもしれないが、そこが大きい」と片野が話したことに起因しているのではないか。ゴールの匂いは皆無に等しかったが、それでもなんとかなるのではないか、と微かな期待を持てたのは個の力量の優劣が小さかったからだろう。ただし、個で圧倒されなかった代わりに、組織、チームとしての差をまざまざと見せつけられたが。既存の選手と新加入選手を高レベルでミックスさせて今季に臨む、という克服すべき課題は一緒であったが、チームとして体を成していた佐川急便に比べて、栃木SCは熟成具合が目に見えて劣っていた。
「センターFW、ボランチ、30番(久保田勲)といい選手がいるので、後期は嫌な予感がする」。スコアは0―1と僅差ながら内容では完勝した敵将の世辞は、社交辞令以外の何物でもなく、余裕の現れだった。
JFL前期第12節 栃木SC0―1佐川急便SC @栃木県グリーンスタジアム 観衆2449人
〈佐川急便SC〉GK森田耕一郎、DF旗手真也、冨山卓也、影山貴志、高橋延仁、MF堀健人、加納慎二郎、山根伸泉、嶋田正吾、FW中村元(→竹谷英之)、御給匠
『逆行』
首肯はしない。当然である。認めてしまうことで全てが崩壊してしまう恐れがある。指揮官の一言は多大なる影響力を持つ。波及効果は小さくない。いたずらにチームを動揺させてはいけないとの配慮もあるのだろう。
「蹴るサッカーは狙っていない」
ここ最近、高橋監督が会見で用いる常套句である。
意図とメッセージ性に乏しいロングボールを闇雲に蹴ってしまっている現状を肯定することは決してない。
しかし、単調なロングボールを主体としたサッカーに終始していることは、火を見るよりも明らかである。ダイレクトに言葉にはしないが、高橋監督も苦しい胸の内を間接的に打ち明けている。
改善すべき点、やりたいこと、打開策が次々と言語化された。
「シュートを積極的に打っていこうとしたが、もっと高い位置にボールを運ぶ回数が増えないと決定的なシーンを作れない」「サイドの高い所に起点を置き、相手がプレスに来たら裏にシャドーが飛び出すことができればシュートシーンが作れる」「背後とサイドのいずれか一辺倒になるのではなく、相手のライン形成、高さを見極めてやっていく必要がある。前が3枚の時には連動した動きが出ないと高い位置に起点が作れない」
志向しているのはパスを回すことでボールポゼッションを高め、サイドに起点を設けると同時に、センターFW山下芳輝のポストプレイを活かして中央から攻め崩すこと。これは当コラムでもくどいほど書いてきた。やろうとしていることは明確である。指針にブレはない。ところが、「言うは易く行うは難し」ということわざがあるように、頭に思い描いていることを具現することは簡単ではない。高橋監督は自らの理想と突きつけられた現実があまりにもかけ離れてしまっていることにジレンマを抱えている。思うに任せず目指しているサッカーが実現できないことにストレスを感じてもいる。
DFラインからビルドアップし、フィニッシュまで持って行く。これが理想とするカタチのひとつ。「DF3枚とボランチ2枚で高い位置にボールを運んで起点を作りたかった」(高橋監督)。GK原裕晃がキャッチしたボールを蹴ることなく、スローイングで間近の選手にフィードするシーンが好例だろう。低い位置から組み立てを図ろうとしていることが容易に理解できる。
では、現実はどうなのだろうか。遡ること2年前、3―4―3のフォーメーションを敷き若林学(現・大宮アルディージャ)が在籍していた頃のサッカー、いわゆるロングボールを単純に放り込み出たとこ勝負のリアクションサッカーに陥ってしまっている。つまり、前進するどころか逆行してしまっているのである。
「長いボールでいままでは抜けていたが、これからは難しくなる」。完敗したロッソ戦後に谷池洋平は、そう話した。「DFラインから前線へのボールは単調過ぎる」とは佐川急便SC戦後の片野寛理。代表して谷池、片野のコメントを引いたが他の選手も同様の考えを持っていることは想像に難くない。
ロングボールを蹴り込むだけでは厳しい、と。
そもそも、ワントップの山下芳輝は上背があるわけでも、ターゲットマンでもない。空中戦に長けているともいえない。素人目にも一目瞭然である。にもかかわらず、ボールは中盤の選手の頭上を通過していくばかり。勝ち切れない苛立ちから「得点力不足」「決定力不足」を嘆き、「3バックに戻した方が得策だ」、「4バックを継続すべき」などといった声も聞こえてくる。議論は大切だ。が、問題の根源はそれらにあるのではない。今季のチーム立ち上げ時に掲げたアクションサッカーができていないことこそが、足踏みの最大の要因である。
相手が存在するからこそ試合が成立するのがサッカーである。紅白戦でいくら思うような展開できても、実戦では想定外の出来事が起こり得る。その際に面食らうことなくケース・バイ・ケースで最善の選択をしなければならない。だから、一概にロングボールを蹴ることが間違いであるとはいえない場面にも出くわすだろう。それが、その時の最も効果的な攻撃手段であるならば、躊躇うことなく使うべきだ。だが、そうでない場合には、余裕があるにもかかわらずパスを繋ぐことなく蹴ってしまうことは最悪の決断となり、自滅への階段を登る行為に等しくなる。
佐川急便戦では「消極的なサッカーよりも攻撃的なサッカーの方が栃木のサッカーにマッチしている」(高橋監督)との考えから従来の4―5―1ではなく3―6―1にスイッチした。スピーディに、アグレッシブに、いい守備からいい攻撃を仕掛ける。特長である両サイドを活かし、イニシアチブを握りゴールを挙げるはずが、逆に混乱を生み出してしまった。そうなると、切れ味鋭いカウンターも打てるはずがない。
「チームメイト、戦術、システム。どれが悪いのか。正直、分からない」
小林成光は包み隠さずに困惑を口にした。深みにはまっていることが手に取るように分かる。まさに、迷走。
フォーメーションを変更しようと、メンバーを多少いじろうと、劇的な変化どころか、負のスパイラルから抜け出す望みは薄い。微調整ぐらいでは最早、どん底に近い状態を快方に向かわせることは困難だ。
チープな表現になってしまうが、リスクを冒す勇気がひとつのカンフル剤になるのではないか。結果はもちろん重要であるが、今は失われている自信を取り戻すことが先決。どこか他人任せのおとなしいサッカーを続けているようでは先行きは暗い。ビジョンは確立されている。実行に移すには何をすればいいのか、何をすべきなのか。再考する必要がある。そして、ひとり一人がアクションを起こしていかなければ。ピッチ内でも外でも。
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