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戦評:対FC琉球戦@栃木SC通信

2008年6月30日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

okinawa2.JPG交代後、間もなくのことだった。右サイドから中へと切り込みシュートを放つ。アグレッシブなプレーも、シュート精度には乏しかった。

「スキル、両足のキックの精度が足りない」

以前、柱谷幸一監督は稲葉久人の短所を、そう口にした。一方で、高安亮介に匹敵するスピードと高さを長所に挙げていた。

後半18分に登場した稲葉は、僅か10分足らずで大仕事をやってのける。左サイドの佐藤悠介から供給されたクロスをニアサイドに走り込み頭で合わせた。プロ初ゴールに続き、2ゴール目も足ではなく頭から生み出された。

「ヘディングは得意ではないが、ゴール前での入り方は意識している」

自らの特長を「ゴール前での嗅覚」と言い切る稲葉。この日もストライカーという人種にしか察知できない匂いを敏感に嗅ぎ取った。GKとDFの間にボールが蹴り込まれると読み切る。「当てるだけでした。悠介さんに感謝です」と謙遜しながらも、「上手く間を突けた。狙い通り」。湧き上がってくる感情を抑えきれず、頬は緩んだままだった。

ファジアーノ岡山戦で決勝弾を叩き出し、喝采を浴びた。続くアウェーのアルテ高崎戦でも活躍が期待され、出場時間も増えたが存在感は薄かった。持ち味を発揮できなかった。そのことを本人も自覚していた。

「ホームでは点を取ったが、次のアウェーでの動きは悪かった。アウェーでも結果を出したかった」

出場6試合目でようやく本職のFWで起用され、結果を残した。「試合に出られるならば、どちらでも(右ワイドとFW)構わない」とは言うものの、水を得た魚のように溌剌とプレーできているのは本来の位置、ゴールに近い場所である。

初ゴールによりこれまで遠慮がちだったプレーと訣別。間隔を空けることなく次のゴールを手に出来たことで自信は一層深まった。

殊勲を立てた稲葉は饒舌だった。

「ボクは暑さ、夏に強い。暑くても結構、走れます。暑さは好きですね」

ピッチ外でも猛烈にアピールを行った。

チームは完全プロ化し、トレーニングは夜間から昼間に移行された。例年のような夏場に失速する事態は、おそらく回避できるだろう。が、ベテランが中核を成していることから、パフォーマンスが落ちる可能性は低くない。それだけに、“夏男”を公言して憚らない稲葉の調子が上向いてきたことは頼もしい。2枚看板の横山聡と松田正俊が鳴りを潜めているという点でも。


前期首位ターン、天皇杯のJFLシード権を獲得しても、柱谷監督の表情は硬かった。何も成していない。前後期の区切りをつけることで、気持ちが弛緩することを極端に嫌った。緊張感は選手にも伝わり、後期を白星でスタートさせる一因となった。4―4―2のスタメンは以下の通り。GK小針清允、DFは左から赤井秀行、鷲田雅一、川鍋良祐、岡田佑樹、MFはボランチに落合正幸と鴨志田誉、左ワイドに佐藤、右ワイドに高安亮介、FWは上野優作と石舘靖樹。負傷した斎藤雅也に代わり急遽、赤井が左サイドで起用された。

前期の残り2試合を連勝で飾ったFC琉球(以下、琉球)は、トゥルシエ総監督もベンチ入り。山下芳輝(元栃木SC)をワントップに据えた変則的な3―3―3―1で臨んだ。

いかに無駄な動きを減らし、長い距離を走ることを避けるか。

肌に刺さるような日差しは気温を32度まで上昇させ、湿気をはらんだ海風により湿度は70%を超えた。酷暑に対抗するために、栃木SCは省エネサッカーを貫徹した。前線からボールを追わず、ラインを深くし、自陣で引っ掛けてから前に出る策を採った。

受身の姿勢を取ったことで我慢の時間帯が続く。山下がサイドに流れ起点を構築。Pボックス内にパスを入れられるシーンが目に付くが、DF陣は慌てることなく弾き返す。納谷伊織、國仲厚助、鎌田安啓のトリプルボランチに中盤を支配され、ポゼッションで凌駕されても動じなかった。ゲームをコントロールされても、最後の部分で跳ね返せれば問題ない。山下への寄せの甘さは頂けなかったが、意思統一が図られていたことは小さくなかった。浮き足立つことなくゲームプランを粛々と遂行する。

守備に軸足を置いたことで栃木SCの攻撃回数は数えるほどだった。CKから上野の際どいヘディングシュートと、石舘のGKライス・エンボリの正面を突くミドルシュートの計2本に終わる。それでも、琉球を無失点に封じ込め、体力の消耗を最小限に抑えられたことが、後半に繋がる。

前半の終盤に鎌田と山下に連続してゴールに迫られ肝を冷やすも、GK小針の好守と正確性を欠いたシュートに救われた栃木SC。錆び付かない、豊富な選択肢を有する山下のポストプレーに手を焼くが、次第に運動量で琉球を圧倒し、反撃に打って出る。デュド・ミヌングの投入、4バックへの移行が裏目に出た琉球とは対照的だった。

立ち上がりから先のことなど考えず、上下動を盛んに繰り返した石舘と高安が立て続けにゴールに襲い掛かる。「セーブするつもりはなかった。突破できるところは突破する」と高安。ドリブル勝負を仕掛けたことで、対面のDFのスタミナを奪い、ピッチから追い出す逞しさを見せた。手綱を引き寄せたところで、「相手のCBがへばっていた」と見て取った柱谷監督。フレッシュな稲葉をピッチに送り出す。

意図的に使用頻度を高めたサイドチェンジは効果的であり、ゴールを呼び込んだ。右から左へ滑らかにボールは運ばれ、佐藤が上げたクロスを稲葉が頭で突き刺した。後半26分、先制点にして決勝点が生まれる。

サイドに張り気味だったデュドが内側に入り、背後を狙うようになると2度も窮地を招く。しかし、GK小針の好判断と気持ちを切らさなかった守備陣の奮闘がゴールを許さない。サッカーをするには過酷な状況下でも萎えることなく最後まで戦い抜き、柱谷監督就任1周年を勝利で飾った。

「今日は悠介と稲葉だけではなく、全員で勝ち切った。後期初戦ということでモチベーションを上げにくかったが、集中力を切らさずにプレーしてくれた」

相手に付き合うことなく、自分達の思惑通りにゲームを押し進められたことで、柱谷監督は選手の労をねぎらった。

「これで波に乗れる。中断期間前の後期8節まで突っ走る」(柱谷監督)

連勝を5から更に伸ばし、勝点を積み上げてから一呼吸入れる腹積もりでいる。それまで小休止するつもりは毛頭ない。

JFL後期第1節 FC琉球0―1栃木SC 観衆3104人 @北谷公園陸上競技場

〈FC琉球〉GKライス・エンボリ、三好拓児、久保篤史(→秦賢二)、MF納谷伊織、國仲厚助、鎌田安啓(→森戸壮介)、澤口雅彦、林田光佑(→デュド・ミヌング)、FW山下芳輝

〈栃木SC〉交代:石舘(→稲葉)、上野(→松田)、高安(向慎一)

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