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プレーバック:対佐川印刷SC戦@栃木SC通信
2008年7月 4日 大塚秀毅 | この記事のページ | コメント(0) | トラックバック(0)
悔恨の情に駆られないはずはない。ひとつのゲームの終わりが、次の戦いのスタートを意味するにしても。気持ちを切り替える作業が他人と比べて早くとも。どうしたって、連勝が5で止まり、勝点を2つ喪失したダメージは残る。それも勝利に手を掛けていた試合終了目前に失ったのだから、ショックは小さくない。采配に関する柱谷幸一監督のニュアンスは、言葉を吐き出す毎に変化した。「全部勝ったら面白くない」。そうは言うものの、未練が透けて見えた。
後半ロスタイム直前、自陣Pボックス内における競り合いで左サイドバックの斎藤雅也が倒れる。今週、斎藤は打撲により別メニューで調整をしていた。足に不安を抱えながらピッチに立っていたことになる。残されたカードは1枚。痛んだ斎藤を下げ、赤井秀行を投入する。時間帯、戦況を考えても理に適ったカードの切り方だった。が、無常にも赤井が入ったサイドから同点弾を浴びてしまう。突破を許したのはフレッシュな赤井ではなく、疲労が見て取れた佐藤悠介だった。
実は斎藤のコンディションと同様に気掛かりだったのが佐藤の状態だった。久保田勲を左ワイドに。選択肢として頭にはあったが、佐藤は全12ゴール中9ゴールに絡んでいる。また、状況は2―1とリードしており、相手は1人少なかった。有利な条件が判断を躊躇わせたのかもしれない。途中で引っ込める決断は容易ではなかった。だが、代えるタイミングを逸したことが追い付かれる一因となってしまう。
「悠介のところに勲を入れる。それ以外に選択肢はなかった」
佐藤のポジションに赤井を据えることで守備的になることを恐れた。一方で、こうも言っている。
「(佐藤が)振り切られたことを考えると、勲で対応していれば・・・・・・、赤井でもよかったのかもしれない」
選択肢を狭めることなく、柔軟な発想を持っていれば、失点は防げたかもしれない。その思いは強い。
難局を守備陣が耐え凌ぎ、数少ない好機を尽くゴールへ結び付け、アウェー2戦2勝。勝点3を得てきた必勝パターンは崩壊した。
昨季、4位以内。つまり、成績面におけるJ2昇格の条件が消滅したのが、後期第15節の佐川印刷SC戦の敗戦(1―2)だった。過去3年間の対戦成績も1勝3敗2分けと分が悪い。メンバーを大幅に入れ替えたことで苦手意識も払拭したかったのだが、思うに任せない。栃木SCの布陣はGK小針清允、4バックは左から斎藤、鷲田雅一、川鍋良祐、岡田佑樹、落合正幸と向慎一がダブルボランチを組み、左ワイドに佐藤、右ワイドに小林成光、上野優作と石舘靖樹の2トップで臨んだ。
前節、初勝利を挙げた佐川印刷。昨季まで栃木SCに在籍していた片野寛理が4―4―2の右サイドバックで先発した。
全体をコンパクトにすることを心掛ける。中盤とDFラインの乖離を是正した栃木SC。前の試合の反省を生かす。やや蹴り合いに応じてしまった嫌いはあるものの、アウェーならばリスクを軽減すべきであり、戦い方としては間違っていなかった。背後に2トップを走らせてきた佐川印刷の攻撃にも動じない。ただし、守備に安定感はあったが、引き気味に構えたことで攻撃を犠牲にした。陣形を崩せず。互いに決め手を欠き、拮抗した展開が続く。
小林、石舘がPボックス内に侵入するなど、時折、期待感を抱かせるが決定機は演出できなかった。閉塞感が漂う中、石舘が倒されPKを獲得。これを佐藤が冷静に突き刺し、先制する。前節の対TDK SC戦と符合するゴールシーンだった。
「前半は慌てていた。ボールを回せるから高い位置で勝負できる」(片野)
ハーフタイムに微調整を施した佐川印刷。後半3分、試合を振り出しに戻す。野澤健一の右クロスをGK小針が弾くも、詰めていた町中大輔が押し込んだ。岡田の決死のカバーリングは実らなかった。
立ち上がり早々に失点を喫するも、すぐに突き放した。小林と向で右サイドを攻略。ファーサイドで上がってきたクロスを待ち構えていたのは佐藤だった。左足のダイレクトボレーはネットを激しく揺らした。佐藤がボレーを放ったのは2度目だった。後半1分、石舘のクロスを叩いていた。惜しくも枠を反れたが、感覚は掴んでいた。「逆サイドがフリーになる場面が多く、見えていた」とはアシストした向。綻びを突いた。
2点を取られても萎えない佐川印刷はバランスを度外視し、前傾姿勢を貫く。圧を掛けてきた。その攻撃を弾き返し、カウンターからリードを広げる。青写真は出来上がっていた。GK小針が好守を連発。クロスバーの助けを借りて危機を脱する。栃木SCには運も味方した。
ところが、である。前に厚みをもたらし、闘志を露にした佐川印刷の勢いは衰えを知らなかった。町中が2枚目のイエローカードで退場しても。じわりじわりと押し込められ劣性に回る。自陣に釘付けにされ、ロスタイムに被弾した。猪狩佑貴がゴールラインぎりぎりから上げた右クロスを、途中出場の大坪博和がダイビングヘッド。ラストワンプレーで勝点3は1に成り下がる。堪えきれなかった。
「2―1で攻め手が見つからない。守り切れたらいいな」(上野)
防戦一方でも攻撃的な姿勢を保持し続けていれば、反撃の機を伺う素振りでも見せてさえいれば、結果はまた違っていたかもしれない。粘りが持ち味のチームが精神的に守りに入ってしまっては、その強味が滲み出ないのは道理。闘争心で凌駕されるようでは、勝機は手繰れない。
連勝の重圧を問われるときっぱり否定した柱谷監督。しかし、「硬くなって勝ちたい気持ちが強過ぎた。それがゲーム内容に影響していた」と認め、自身もリーグ戦で必須の守備力を磨くためにとはいえ、「守備に対するトレーニング、指示が多かった」と反省の弁。
「もう少し伸び伸びと。攻撃的に。前向きに。攻撃力を発揮できるようにしたい」
勝点2の遺失を「攻撃的なサッカーをやれるいい機会」とポジティブに捉え、転機にしようと目論んでいる。逃がした魚は大きいが、転んでもただで起きるつもりは毛頭ない。
JFL前期第6節 佐川印刷SC2―2栃木SC 観衆359人 @京都府山城総合運動公園太陽が丘陸上競技場
〈佐川印刷SC〉GK川本良二、DF遊佐仁、松岡真吾、金井龍生、片野寛理、MF野澤健一、村尾雅人、東純一郎(→大坪博和)、猪狩佑貴、FW中井義樹(→奈良崎千喜)、町中大輔
〈栃木SC〉交代:小林(→高安亮介)、石舘(→横山聡)、斎藤(→赤井)
『危機感を希薄にさせた安心感』
ロングボールの雨霰。絶え間なく降り注ぐ。ホームゲームで1点のビハインドを背負う。当然ながら佐川印刷SCは常套手段であるパワープレーを仕掛けてきた。何度、跳ね返してもPボックスをターゲットにボールが蹴り込まれて来る。これを上手い具合にいなし切れなかった。数的優位にもかかわらず後手に回り、圧倒される。
「一人退場してから逆に『一人少ないんじゃないか』と感じるくらい、最後は押し込まれた」
川鍋良祐はそんな感覚を覚えた。
「いいカタチで押し込まれ、結果的に最悪のカタチになってしまった。少しずつでもラインを押し上げてゲームを作らないと苦しい」 (川鍋)
逃げ切る態勢は整えられ、プランも出来上がっていた。ダブルボランチの1枚、落合正幸を4バックの前に配置。強固なブロックを構築し、猛攻を弾き返す。相手が前線に人数を割いてきたぶんだけ後ろは薄くなり、カウンターは発動し易い、はずだった。
が、佐川印刷のシンプルな攻撃は予想以上の効力を発揮した。矢継ぎ早に繰り返されたことで、何時の間にかスタミナは削り取られていた。一人ひとりの運動量は低下し、ゴールを意識した動きは乏しくなる。推進力が働かない。DFラインは下がりきったまま。放り込まれてくるボールをクリアする。そのことだけで手一杯になってしまう。前掛かりを逆手に取る堅守速攻のプランは脆くも崩れ、好機すら作り出せない始末。
それでも、我慢の時間帯を抜け出せた。一時的に佐川印刷の攻撃はトーンダウンする。流れを変える機会を与えられるも、栃木SCには力が残っていなかった。形勢を逆転できない。
耐えに耐えて漕ぎ着けたロスタイム。最後のワンプレー、痛恨の一撃を食らう。スコアを2―2に戻された。向慎一は述懐する。
「ここのところキープして試合が終わることが多かった。ロスタイムにこのまま終われるという雰囲気がなかったといえば、嘘になる」
落合が付け加える。
「10人になってから安心しきってしまった。一人ひとりの活動量が不足し、『ここでやらなければ』と思えなかった」
危機感が希薄になり、芽生えてはいけない安心感が劇的なゴールの呼び水となってしまった。
「あと、ワンプレーでしたねぇ」。大きな溜め息をつき、上野優作は続ける。「押し込まれたら、押し込まれたなりのゲーム運びがある」。それは例えばバランスを取りながら機を窺う、例えば奪ったボールを長い時間キープする、例えば相手陣内で試合を進める。つまり、ポゼッションを高めていれば相手に付け入る隙を与えることはなく、攻撃される回数を減らすことも可能だった。しかし、マイボールを大事にせず、単純に蹴り返すことで相手に譲り渡してしまい、嵩に掛かって攻め込まれた。結果的に自分で自分の首を絞めてしまう。絶対優位を勝点3として結実させられなかった。
「失点の原因はひとつではない」と柱谷幸一監督は考えている。例え話を引き合いに出し、語る。
「例えば危険な地域では、鍵がひとつでは足りない。3つかけておく。1つ、2つ外れても3つ目で止める。あの時間帯、あの地域でプレーさせたこと、クロスへの対応。どこかひとつでも鍵がかかっていれば破られることはなかった」
突き詰めればリスクマネジメントが拙かったということになる。刻一刻と変化していく事態への対応力が不十分だった。そして、11対10のメリットが、守り切れるだろうと心に隙を生み出し、何時しかデメリットへと摩り替わっていた。
危殆に瀕しているような心構えは、試合終了の笛が鳴り響くまで、常に持ち続けなければならない。同様のケースに直面した際、2度と足をすくわれないために。
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