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『現実との折り合いをつけながら』@栃木SC通信

2008年7月 9日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

タッチ数の少ないパス回しは相手を寄せ付けなかった。そこには確かな“美”が存在した。

岡田佑樹が打ち込んだクサビを上野優作が処理。サイドへと叩かれたボールを受けた高安亮介が駆け上がり、供給したクロスに石舘靖樹が右足ダイレクトで合わせる。スピーディかつ連動したプレーはゴールとして結実しなかったが、先制パンチとしては十分であり、娯楽性に富んでいた。

対佐川印刷SC(以下、佐川印刷)戦、キーマンに指名されたのは上野だった。スタートからのパートナーである石舘、右ワイドの高安、途中出場した稲葉久人と、スピードを特長とする選手達を活かすには、上野がボールをしっかり前線で収めることが求められた。

「攻撃のポイントである上野にボールが入り、展開することができた」(柱谷幸一監督)

これまではロングボールを蹴り込むケースが多かった。しかし、佐川印刷戦では上下の使い分けが出来ていた。相手CBに強さと高さがあったこと、バイタルエリアが緩かったことで、序盤から栃木SCはコンビネーションを駆使し、フィニッシュまで持ち込んだ。

とりわけ目を引いたのがグラウンダーのパスだった。石舘がニアサイドに飛び込んだ前半2分のシーン以外にも、6分には落合正幸のクサビから石舘が上野との壁パスを使い左足を振り、14分には高安→石舘→佐藤と流れるようにボールが渡り最後はオーバーラップした赤井秀行が内側に切れ込みシュートを放つ、岡田から佐藤を経由したボールから石舘のGKを強襲するシュートは19分に生み出された。過去18戦を振り返っても、これだけボールが選手間を走ったことはなかった。試合の入り方こそ悪かったものの、攻撃面に関して言えば追求している理想のカタチが作り出せていた。

「紅白戦からいいイメージを継続できた」と話す上野は続ける。「珍しくボクからいいパスが何本かありましたよね。引いてボールをもらってからターン。あそこ(バイタルエリア)で受けられるとチャンスが増えますよね。怖がらずに受けるようにしたい」。

前期のカターレ富山戦後に上野は「(バイタルエリアに)ワンクッションあれば、違う展開ができる」と述べていた。相手が警戒すべきエリアへの注意を怠ったとはいえ、見逃すことなく上野を筆頭に佐藤、石舘が顔を出すことで攻撃は多彩なものとなった。タメが出来れば幅は広がる。「的を絞らせない栃木は強い」。敵将は兜を脱いだ。

細かなパス交換を軸に守備網を切り裂く。時代の潮流に乗った攻撃を繰り返せた。ワクワク感を提供するに至るも、柱谷監督の要求は高かった。厳しい注文がつけられた。

「もっとやれると思う」

中盤、DFラインからトップに入れるボールが少ない。もう少し大胆にスペースと足元へパスを出すことで起点が構築でき、さらにダイナミックな攻撃を仕掛けられたと指揮官は感じたようだ。それゆえ、先の発言に及んだ。

パス成功率、ポゼッションの高さは勝利と密接な関係性を持つとは限らない。加えて今季の栃木SCは優勝、そして昇格という目標を是が非でも果たさなければならない。プライオリティは結果に置かれる。些かの退屈さと引き換えに勝点を手にすることを選択せざるを得ないのである。

だがそれでも、観衆を魅了する作業は放棄できない。土曜日のナイトゲーム、天気予報は雨、テレビではライブ放送とスタジアムに足を伸ばすのを躊躇わせる要素はふんだんに存在した(観衆は3000人を超えた。立派な数字だが寂しさも伴ったのは事実)。そこにホーム連勝の陰に隠れた内容の乏しさが含まれていないとは言い切れないだろう。ボールを止めるという一つの動作だけを見ても昨季とスキルに格段の違いがある今季のチームが、内容でも観衆を満足させるだけのサッカーが出来ないとは思えないのである。

勝ち続けるだけでは満たされない感情もあるのではないか。だかこそ、現実との折り合いをつけながら魅せるサッカーを期待せずにはいられない。このチームは「もっとやれる」。心底、そう思う。

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