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第88回天皇杯全日本サッカー選手権大会3回戦 戦評:対ロアッソ熊本戦@栃木SC通信

2008年10月13日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

192.JPG2―3と敗れはしたものの、前節の対SAGAWA SHIGA FC戦の後半開始30分間に好感触を得た柱谷幸一監督。戦前、選手達に伝えた。

「自分達がいいゲームをスタートから、途中からではなく、スタートからやろう。1対1では絶対に勝つ。それを90分間、やり通そう」

ぼんやりとした試合の入り方は、開幕から改善されない栃木SCの悪癖のひとつである。連勝街道をひた走っていた頃は、不安定な立ち上がりを試合中に修正し、勝利を手にすることが出来ていた。だが、勢いに陰りが見え始め、6戦未勝利と絶不調に陥った途端、先取される展開を逆転することは容易ではなくなった。追いすがるのが精一杯で、追い越せない。次第に自信は失われ、消極的なプレーが目を引くようになる。勝ち運に見放された。

「リーグ戦では結果が出ていなかったが、天皇杯ということで開き直って戦えた」横山聡は、骨惜しみなくボールを追い、体を張った。3バックのセンターを任された山崎透は、ロアッソ熊本(以下、ロアッソ)のエース高橋泰とのファーストコンタクトを難なく制した。トップ下を務めた向慎一は、カウンターが発動すると真っ先にスペースへと飛び出した。岡田佑樹と斎藤雅也の両ワイドは激しい上下動を繰り返した。

カテゴリーが上の相手に自然とモチベーションは高まった。積極的に試合を運んだことで、手綱をロアッソに渡さなかった。立ち向かっていく姿勢が、欠落していた自信を取り戻させた。やる気に満ち満ちていた。球際で、1対1で引けを取ることはなかった。

4―4―2に対する3―5―2の優位性を発揮できたなど、勝因は幾つか挙がるが、この日の明暗を分けたのは、メンタルだった。2年連続してホームで完膚なきまでに叩きのめされたのは、ロアッソの方が勝ちたい気持ちが勝っていたからだった。次のラウンドに進めること、つまり勝利と同等に、低空飛行を続けていた栃木SCにとっての収穫はピッチに立った全員がファイトできたことだろう。

JFLでは順位が下の相手との対戦が控えている。残り7試合、優勝と昇格に向けて、挑みかかって行く気持ちを持続できるか、がキーになる。

「今日のキックオフ前の気持ちに持っていく」(柱谷監督)

最高位が4位の栃木SCは、まだ何も手にしていない。JFLの覇権を争う1チームに過ぎない。常に挑戦者として試合に臨むことが求められ、それが可能ならば易々と勝点を手放すことはなくなるはずである。


4―2―3―1と新機軸を打ち出したばかりの栃木SC。未完のフォーメーションは混乱を招き、勝点3を取り逃した。新システムを熟成させるには時間を要するのだが、柱谷監督は思い切った策を採った。さらに手を加えたのである。頑なに固執してきた4バックを捨て、3―5―2を敷いた。そこからは、なんとか悪しき流れを断ち切りたい、との切実な思いが透けて見えてくる。3バックは機能するのか、それとも下策に終わるのか。

前期を首位ターンしたことでJFLシード枠での天皇杯出場権を得る。栃木SCは3回戦から登場。相手は仇敵のロアッソだった。布陣はGK小針清允、DFは左から鷲田雅一、山崎、赤井秀行、中盤は底に落合正幸と佐藤悠介、左に斎藤、右に岡田、トップ下に向を並べ、上野優作と横山が2トップを組んだ。

2年でJFLを通過したロアッソは、ただいまJ2で15チーム中14位。チームが苦戦を強いられているからこそ、際立つのがJ2得点ランキング2位の17ゴールをマークしている高橋。過去4戦して栃木SCは1勝3敗と分が悪く、昨年の対戦時には高橋に痛い目にあっている。

相手のセンターバック2枚が屈強だったことで、上野へのボールの収まり具合は悪かったが、4―4―2に対する3―5―2の優位性を栃木SCは活かした。サイドに張り出した左の斎藤と右の岡田を効果的に使いこなす。落合と佐藤がボールを散らし、高位置の岡田と斎藤が果敢に仕掛けた。好機はこしらえられなかったが、伍して試合を進められたのは、サイドでイニシアチブを握れたからだった。

「栃木のやりたいサッカーにはまった」(ロアッソ・池谷友良監督)

引いてブロックを構築し、引っ掛けてからカウンターを打ち込む。組織的に守り、素早い攻守の切り替えからゴールを狙う展開も思惑通りだった。浅いラインを保った3バックは、ロアッソの危険な2トップに上手く対応した。要注意人物の高橋のポストプレーから飛び出した市村篤司に、ポストをなめるシュートを浴びたシーン以外、決定機を作らせなかった。栃木SCもゴールの匂いがしたのは一度だけ。岡田のスルーパスに佐藤が抜け出すも、利き足とは逆の右で放ったシュートは枠を反れる。押し込められることもなかったことから、急造の3バックは思いの外、機能したといえる。

斎藤の鋭いドリブル突破からのシュートで幕を開けた後半。栃木SCは徹底して自分達のサッカーを貫く。コンセプトがぶれることはなかった。6分、CKを上野が頭で合わせるがクロスバーに嫌われてしまう。先制機を逸すると、アンラッキーなカタチで失点を喫する。一旦はCKを跳ね返すが、セカンドボールを拾った宮崎大志郎のクロスはゴールへと向かう。GK小針が慌てて反応するも、ポストが邪魔したことで弾き切れず。ルーズボールを小森田友明にプッシュされてしまう。

芳しくないリーグ戦と同じく先手を奪われるも、山崎と鷲田が連続してCKからゴールを脅かし、追撃の狼煙を上げる。セットプレーで流れを掴んだ栃木SCは、斎藤に代わり入江利和を投入。この交代が奏功する。良質なクロスが左から間断なく供給された。圧を掛けられたロアッソはファウルで止めざるを得ない局面が増え、ついには宮崎が2枚目のイエローカードでピッチから追い出される。それからほどなく、栃木SCは試合を振り出しに戻した。FKのクリアボールをPボックス内で岡田が右足一閃。低空シュートがゴールに突き刺さった。

同点後、栃木SCは向の右クロスから横山がヘディングシュートも、ここはGK吉田智志が立ちはだかる。カードと思うに任せない試合運びに苛立ちを募らせ、平常心を欠いたロアッソは、山崎のミスから河野健一、小林陽介が立て続けにシュートを打つが、GK小針が阻止。数的優位の栃木SCは90分でロアッソを仕留め切れなかった。

試合は前後半15分ハーフの延長戦に突入。8人で2ラインを形成したロアッソに、栃木SCはストロングポイントとなった入江が好クロスを入れるが
、中央の守りを固められたことで崩しきれない。パワープレー要員として送り込まれた松田正俊に、岡田から絶好のクロスが届けられる絶好機も、フリーの松田のシュートはクロスバーをかすめ、枠内を捕えきれなかった。

雌雄が委ねられたPK戦。「自分の思った蹴り方で蹴ってこい。俺が責任を取るから」と指揮官に背を押された、先行の栃木SCは1番手の佐藤から横山、松田、岡田、落合が順当に決めたのに対し、ロアッソは3番手の小林が重圧に押し潰され、吹かしてしまい勝負あり。

7月19日の対流通経済大学戦以来、約3カ月ぶりの公式戦勝利を飾った瞬間、トリを務めた落合はGK小針の元へと駆け出した。そこには何時しか歓喜の黄色い輪が出来上がっていた。一昨年、東京ヴェルディ(当時東京ヴェルディ1969)を屠ってからクラブ史上2度目となるJ撃破を果たした。

「今日は勝つと思っていました」。会見場で笑いを誘うなど、久方ぶりの勝利に柱谷監督の口は滑らかだった。「久々の勝利は格別です」とは3バックの一角を担い、1対1での強みを発揮した赤井。満面の笑みを浮かべた同点弾の岡田は「久々に楽しく、嬉しく、笑顔になれました」と爽やかに話した。「ナーバスになっていたので、勝てたことで肩の荷が下りたと思う」。昨季、ヴェルディで7連敗を経験しながら結果的に昇格を成した佐藤は、リーグ戦4連敗にも動じることはなかったそうだが、試合を振り返る口ぶりからは、長らく遠ざかっていた勝利の味を噛み締め、安堵していることが窺えた。そして、4回戦の相手であるジュビロ磐田、憧憬の対象である名波浩との対戦に胸を高鳴らせていた。

第88回天皇杯全日本サッカー選手権大会3回戦 栃木SC1(PK5―3)1ロアッソ熊本 観衆3011人 @栃木県グリーンスタジアム

〈栃木SC〉交代:斎藤(→入江)、上野(→稲葉久人)、向(→松田)

〈ロアッソ熊本〉GK吉田智志、DF市村篤司、河端和哉、矢野大輔、車智鎬、MF宮崎大志郎、斎藤紀由(→河野健一)、山本翔平、小森田友明(→小林陽介)、FW木島良輔(→福王忠世)、高橋泰

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