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プレーバック:対TDK SC戦@栃木SC通信

2008年10月25日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

リーグ戦5試合目、スコアをタイに戻されたのは初めての経験だった。これまでの4試合で喫した失点は僅かに1。それも3―0と勝敗が決した状況と時間帯で与えたものであり、大勢に影響を及ぼすことはなかった。

後半15分、オウンゴールにより1点を失う。石舘靖樹の脳裏には、こんなことが浮かんだという。

「やばいな。ついに、この時が来たか」

連勝が4で止まる。勝点2を喪失するかもしれない。負の感情が芽生えたものの、佐藤悠介の一言が萎えそうな気持ちを奮い立たせた。

「点を取るチャンスは必ずある」

我に返った石舘。労を厭わずにボールを追っ掛け回した。点を取ること以外でFWに求められる仕事を律儀なまでにこなす。

「前からガンガン行かないと。プレスは掛からない」

 

その姿勢と思いは結実する。同点とされてから3分後、PKを誘った。懸命のフォアチェックが勝機を手繰る。シュート数は数えるほどだったが、諦めず、愚直に、試合開始から行っていたフォアチェックを怠らなかったことで勝点3に貢献できた。

連勝が途切れることはなく、首位から陥落することもなかった。

栃木SCはガイナーレ鳥取との「J2準加盟」クラブ同士による雨中決戦を辛くも制す。勝利を得るも始終ストレスの溜まる展開だっただけに、ホームではアグレッシブにゴールを狙いたいところ。布陣はGK小針清允、4バックは左から斎藤雅也、鷲田雅一、川鍋良祐、岡田佑樹、中盤は落合正幸と向慎一のダブルボランチ、左ワイドに佐藤、右ワイドに小林成光が配され、2トップに起用されたのは出場停止明けの上野優作と石舘。

松田正俊(現・栃木SC)、小林宏之(現・大分トリニータ)と攻守の核が抜けたTDKも、フォーメーションは4―4―2。

出足が鈍い。ホーム、アウェーにかかわらず開幕から改善されていない点である。相手の出方を窺っているのか。佐藤に問うた。

「様子見で前掛かりに来た相手に対して守れていれば問題ないが、うちにはそんな余裕はない」

「ホームで最初の5分、10分。相手に圧力を掛ける」。チーム内での約束事である。遵守されていなかった。旺盛に、前線からボールにアプローチすることは出来ていたが、DFラインが追随してこなかった。ギャップが生じる。相手の2トップ、ワイドにバイタルエリアへと容易に侵入される。左ワイドの池田昌広には危険な香りのするボールを供給された。

不安定な立ち上がりも、先手を取ったのは栃木SCだった。向がドリブルで持ち上がり、上野とのワンツーから裏に抜けようとしたところを倒される。獲得したFK、もちろんキッカーは佐藤。自信のある位置、Pボックスのすぐ外側から左足を振り抜き、ネットを揺らした。「止まっているボールを蹴るから簡単でしょ、とは言い辛いが・・・・・・」。笑いを誘った。

先制するが、しかしスローインから隙を突かれて池田に良質なクロスを上げられ、クサビをさばかれては背後を取られ、FKからニアサイドに飛び込まれるなど、ゴールを脅かされる。斎藤、岡田の両サイドバックが内に絞り、カバーしたことで事なきを得るも、準備不足が不必要な汗をかかせた。佐藤は言う。「1点を取ってから変に落ち着いてしまった。1、2点取る。畳み掛ける気持ちが必要」。栃木SCは向が中・長距離からシュートを放つが、クロスバーとGK小野聡人の好守に阻まれる。追加点とはいかなかった。

「ブロックを作り、連動した守備をしよう」

ハーフタイムに柱谷幸一監督が指示を出すも、後半早々に危機を招く。左サイドをあっさりと崩され、木下真吾にゴールを割られそうになる。ここは間一髪で鷲田がスライディングで難を逃れた。

拙い入り方だったが、4―4―2の綺麗なラインを構築したことで、幾分か落ち着きを取り戻す。高い位置でボールを奪えるようになり、ショートカウンターが効果的に決まり始める。ようやく、攻撃のカタチが見出せるようになったところで自滅した。左クロスを川鍋が滑りながらクリアに入ったボールは自陣ゴールへと吸い込まれる。試合を振り出しに戻された。

不用意な失点に流れが傾くかに思われた。だが、すぐさま取り返す。右の小林からふわりとしたボールがPボックス内へ送り込まれる。ゴールラインを割りそうなボールに食らいついたのは石舘。必死のチェイスが奏功する。相手ともつれるように倒れ込む。些かシミュレーション気味だったが、主審はPKを宣告した。これをきっちり佐藤が沈め、TDKを突き放した。

その後は効率のいいカウンターと途中交代した高安亮介のサイドアタックを軸に攻め立て、終盤にGK小針が処理の難しいボールを弾き出し、2―1で逃げ切りに成功した。

「個人の能力が高く、力のあるチーム。一番、警戒していたセットプレー2本でやられた」と、TDK・佐々木寿生監督は振り返った。対する柱谷監督は「悠介のFK、セットプレーはうちの大きな武器。優作の高さとキープ力、ダテのスピード、悠介の左足と攻撃面で武器があるので、苦しいゲームでも辛抱すれば必ず点を取れるカタチが作れる」と、接戦をものにできた要因を述べた。

僅差のゲーム、雌雄を決したのは強烈な個の力を有しているか否か、だった。

 

「ゲーム内容を上げて、点を取れるようにしたい」

会見に臨んだ柱谷監督。5連勝にも歯切れは悪かった。結果に内容が伴わない事態に焦燥感がうっすらと滲んだ。

JFL前期第5節 栃木SC2―1TDK SC 観衆4865人 @栃木県グリーンスタジアム

〈栃木SC〉交代:小林(→高安亮介)、石舘(→横山聡)、佐藤(→久保田勲)

〈TDK SC〉GK小野聡人、DF高橋臣徳、岩瀬浩介、千野俊樹、朝比奈伸、MF池田昌広(→藤原昭)、高林佑樹、成田卓也、佐藤和旗(→加賀潤)、FW松田英樹、木下真吾(→三浦俊輔)

 

『アンカーとしても守れるように』

2トップの高さ、速さ、連動性。栃木SCの強味を生かすには、周囲のサポートは不可欠である。とりわけ2列目がトップにあてたボールを拾えると、一気にゴールへの推進力は増す。

だからこそ、メンバーの選抜基準は明確である。最後尾でボールをポゼッションするよりも、前に前にボールを運ぶことで、それぞれの身上を存分に出せる選手がスタメンに名を連ねている。

「どんどん前に出て行こう。今まで後ろ向きのプレーが多かったので。アグレッシブに前へ」

攻撃面での優位性を発揮するために。果敢に中盤の底から、繰り返し飛び出したのは向慎一だった。「これまで持ち味を出し切れていなかったが、いい部分が出た」と向。向の特長とは。柱谷幸一監督の言葉を借りれば、「2トップの後ろで動ける」「読みの鋭さ」「素早いサポート」ということになる。前線の上野優作、石舘靖樹と連動しながらプレスを掛け、意欲的にセカンドボールを確保するために奔走した。ボールにも人にも粘り強く、食らい付いた。ボール狩りを行い、カウンターの芽を摘んだ。防護壁となる。ただし、前掛かりのプレーは、DFラインの押し上げが図れなかったことで、バイタルエリアを空けてしまう弊害をも生じさせてしまう。若干、前への意識が強すぎたのかもしれない。

しかし、ゴールを意識したプレーは、先制弾となる佐藤悠介のFKの足掛かりとなった。ハーフライン付近でボールを持つ。迷うことなく前方に開けたスペースへドリブルで猛突進。その勢いに気圧されたのか、相手はファウルで止めざるを得なかった。自ら得たFKだけに、「本当は蹴りたかった」と本音がポロリ。結局は佐藤に譲ることになるが、壁に対してフェイントを数回入れることでプレッシャーを掛け続け、集中力を殺いだ。隠れた好プレーである。

「他の中盤の選手は(ゴールを)取っている。交代出場の(久保田)勲さんも。自分も狙っている」

 

ゴールが全てではない。頭ではわかっている。「FKで貢献できた」ことに満足もしていた。ところが、自然と向の体はゴールを欲し、反応した。前半36分、GKがクリアし損ねたボールから躊躇いなく右足を振った。小林成光がフリーだと知ったのは後のことだった。視野は一点のみを捉えていた。抑えの利いたロングシュートは無人のゴールへ向かうも、クロスバーに嫌われてしまう。44分にも矢のようなミドルを放ったが、今度はGKに阻まれてしまった。

「惜しかった。感触は良かっただけに、決めたかった」

唇を噛んだ。

役割が変わる。落合正幸が後半、前に出たことで後ろに控えた。アンカーを担うことに。どちらかといえば向が前に構え、落合が後ろからフォローする縦関係の方が、チームとしての機能性は高い。長所を前面に押し出すには「黙っていても味方がカバーしてくれる」ぶんだけ前に行った方がいい。だが、「現状に満足したくない」向は言う。

「意識して飛び込み過ぎないように。アンカーとして守れるようになれば、オチさんが出て行ける。プレーの幅が広がる」

前後を固定することなく臨機応変にポジションを入れ替えることができるならば、個人としてもチームとしても引き出しが多くなる。そのためには、「シンはアンカーとして判断力、守備力を上げなければならない」と柱谷監督は補足点を指摘した。

常々、柱谷監督は「シンのところが安定すれば、チームは更に安定する」と話す。期待感は小さくない。例えば、3―0で前半45分を終えた対三菱水島FC戦(5―0で勝利)。低調なパフォーマンスと目に映った向にカミナリを落とし、敢えて交代させずに90分間使い続けた。若い選手のプレーに波があることは織り込み済みである。指導し、修正を施すことで成長することも知っているからこそ、フル出場させた。三菱水島戦、残りの45分間、指揮官から一定の評価を受ける動きをした。

一足飛びにプレー内容が向上しているわけではないが、着実に進歩は遂げている。攻守のバランスを保ちつつ、自分の色を反映させられるように。もがき苦しみながらひとつずつ階段を上がっていく。

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