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戦評:対三菱水島FC戦@栃木SC通信

2008年11月10日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

mm1.JPG野球でいえばワンポイントリリーフのような起用法だった。

後半30分、MF小林成光の代わりにピッチに立ったのはDFの照井篤だった。この交代から数分間、栃木SCの選手は照井の収まる場所が見出せずに混乱した。照井がボランチの位置、アンカーとして構えかと思えば、DFラインにも参加するなど、中途半端なポジションを取ったからである。慌ててベンチに近かった赤井秀行が指示を仰ぐ。交代の意図をピッチの選手に伝えたことで事態は収束した。

「ゲーム前にテル(照井)には190センチのやつが出てくるから、競った時には『マーク役につけるからな』と伝えていた」

どうやら柱谷幸一監督と照井の間では、密かに約束が交わされていたようである。それが選手全員に行き届いていなかったことで、一時的にあたふたしたのである。

さて、照井に課された仕事は、ひとつだった。後半20分に登場、三菱水島FC(以下、三菱水島)のFW森前健を密着マークすること。三菱水島は地上戦ではなく空中戦に早々と切り替えた。それに対して栃木SCは残り15分を2点のアドバンテージを有しながら、失点が相手を勢いづかせることを、勝利に見放され続けた4ヶ月間で痛感したことで守りを強固にした。照井に張り付かれた森前は、思うように仕事をさせてもらなかった。三菱水島が打った手は水泡に帰し、栃木SCが講じた策は奏功した。

「テルが競ることで攻撃の勢いを潰せた」

采配が見事に的中した、柱谷監督は誇らしげに語った。一方で、同じ轍は踏めない。そんな思いがあったのも確かだろう。

後期第11節の対ニューウェーブ北九州戦。点差こそ異なるが1―0とリードした状況で、パワープレーを敢行してくる相手の策略に対応しきれず。高さに屈した。勝点3を土壇場で取り逃した。

「あの時はなんとか守り切れると思っていたが、結果的にやられてしまった」

当時を振り返った柱谷監督の言葉からは悔恨の念が感じ取れる。失敗を次に活かさなければ成長が望めないのは、選手も指揮官も一緒である。だからこそ、動いた。中盤を削り、DFを投入するという“一人一殺”の大胆な選手起用は、勝利を強く手元に引き寄せた。

形振りなど構っていられない。昇格レースも佳境に入り、いよいよ柱谷監督のスイッチも入ってきたようである。腹が据わったことは小さくない。


残り4試合、4位以内を確保するために熾烈な争いが繰り広げられている。2位に位置する栃木SCと5位ガイナーレ鳥取の勝点差は僅かに4、さらに6位横河武蔵野FCとの差は5と、シビアな事態に変わりはない。生きるか死ぬかのサバイバルレースへ向けて、柱谷監督は選手に伝えた。「今日からトーナメントのつもりで戦おう」。1回戦の相手は最下位の三菱水島。スタメンはGK小針清允、DF3人は赤井、山崎透、田村仁崇、中盤の構成は底に落合正幸と鴨志田誉、左に入江利和、右に小林、松田正俊の1トップ下に佐藤悠介と向慎一が並んだ。主力の上野優作、横山聡、鷲田雅一は怪我により遠征メンバーからも外れた。

順位表で一番下の三菱水島だが前節は横河と1―1のドローを演じ、優勝を成し遂げることになるHondaFCにも善戦(1―2の敗戦)するなど侮れない存在である。

負けが許されない試合、佐藤はこんな思いを抱いたという。

「チーム全員、残っている選手も『俺達のぶんまで(戦ってほしい)』と思っている。それがベテランで、中心となってやってきた優作さん、聡、ワシ。本当に出られなく悔しいと思う。その分までボクが思いを背負ってやる」

並々ならぬ決意で臨んだ佐藤がカウンターから飛び出してゴールを脅かすなど、栃木SCは前線の松田をターゲットに、ロングボールを当ててから左を軸に組み立てる。ボールを回せるシーンでも前に蹴ってしまう、些か前に急ぐ嫌いが窺えたのは、芳しくないグラウンドコンディションを考慮してのことだった。「ボクのところに当てていいカタチができていた。続けていこう」(松田)。ことに田村から松田に供給される良質なボールは効果的だった。

縦にすっぽりとボールが収まり、田平謙に冷やりとするバウンドシュートを浴びる。奪ってから縦関係の2トップに早めにボールを集めた三菱水島は意欲的にシュートを打ち込んできた。FKから落合のクイックリスタートに佐藤が鋭く反応。GK折見健治との1対1を決め切れなくなったあたりから風向きが徐々に変わり始める。絶好機を逸し、切り替えの部分でのパスが雑になり、右の小林の機能性が低かったことが原因に挙がる。ペースを掴んだ三菱水島はバイタルエリアに潜り込み、果敢にゴールへのチャレンジを続けた。栃木SCは一時的に劣勢に回るも、「守備ができたことでリズムが持って来られた」(柱谷監督)。苦しい時間帯を耐え凌いだことは小さくなかった。前半43分、先制点を奪う。入江の左クロスをニアサイドで向が競り、ルーズになったボールを小林がお辞儀をするように頭で叩き込んだ。

突如として最後尾から走り込んできた赤井。鴨志田とのワンツーでゴールに迫るもシュートは力なくGKへ。追加点とはいかず、45分を折り返す。ゴールは割れなかったものの、赤井が1試合に1度は挑むオーバーラップはスカッと爽快。今後も怯むことなく向かっていって欲しいものである。

2点目を得たのは後半早々の4分だった。入江のスローインを起点に佐藤がゴールライン際から上げた浮き球は待ち構えていた松田の元へ。「押し込むだけでした」と松田。謙遜ではなく、まさしくその通りのゴールだった。

4位を確保するために、最後の最後で得失点差も重要なファクターとなる可能性もある。少しでもゴールを積み上げておきたい。波に乗りゴールに襲いかかる栃木SCは、FKから落合が技ありのバックヘッド、裏を突いた佐藤が左足一閃。だが、GKの好守とポストに阻止された。逆にPボックス内で田村が山下聡也に振り切られシュートを放たれるも、上に外れて命拾い。相手のミスにより窮地を脱してから程なく、3点目が生まれる。左から入江がドリブル突破で嬉しい初ゴールをマーク。疲労が見えた三菱水島に対し、ゴールに気を良くした入江の仕掛けは、厄介極りないものだったに違いない。

試合を決定づけた栃木SCは続々と好機を作り出す。加点を狙いつつ、戦列を離れていた石舘靖樹と高安亮介を実戦復帰させるなどの試運転も試みる。高安は感触を確かめるようにプレーしながらも2対1の局面では縦に突っかけ、ロスタイムに石舘は松田に絶好のお膳立てをしてもらってからシュートを繰り出すが枠を捕えきれなかった。ゴールを加えることは叶わなかったが、残り3戦に向けて石舘と高安が使える目処が立ったことは収穫だった。

「引き分けや(試合を)落としていたら正直、どうしようかなと思った。それだけ後がない状況での勝ちだった」

9戦未勝利と逼迫した状況下、最下位相手に必勝の重圧に苛まれながら、それでも零封で勝ち切った。「久々に美味しいビールを飲んでもらえれば。小さい子供は駄目ですけど」。溜飲が下がる久方ぶりの勝利に、佐藤の口からは冗談も飛び出し、笑顔も見られた。しかし、次なる戦いに話が及ぶと、一転して顔は引き締まり、こう続けた。「順位が下の相手(アルテ高崎)だが難しいゲームになる。でも一人一人が役割を全うすれば結果は付いてくる。栃木に関わる全ての人の力を借りたい」。

改めて共闘を訴えかけた。なぜなら三菱水島戦の最大の勝因が選手、スタッフ、サポーターが一枚岩となり、勝点3を強く欲したからに他ならないからである。

トーナメント1回戦を勝ち上がった。2回戦はホームにアルテ高崎を迎える。鳥取と横河の結果次第では、次節にも4位以内が確定するが、選手の頭には全勝しかない。優勝はHondaFCにさらわれてしまったが、次に高い頂、2位でのフィニッシュを果たすべく、油断せずに次戦へ備える。

JFL後期第14節 三菱水島FC0―3栃木SC 観衆334人 @福山市竹ヶ端運動公園陸上競技場

〈三菱水島FC〉GK折見健治、DF川口正人、坂口遥、萩生田真也、三宅一徳、MF山下聡也、田丸誠(→徐暁飛)、田平謙、曽根祐一、FW中川心平(→森前健)、奥山卓廊(→尾後貫淳)

〈栃木SC〉交代:向(→石舘)、小林(→照井)、佐藤(→高安)
  

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