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戦評:対アルテ高崎戦@栃木SC通信

2008年11月17日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

at1.JPG90分で勝ちゲームを作る。今季、栃木SCが掲げてきたテーマのひとつである。佐藤悠介は常々、口にする。「90分通してスコアが多い方が勝ち」。前後半を上手くマネジメントし、最終的に勝ち切る。小差でも構わない。兎に角、終了のホイッスルが鳴り響いた時点で、1点でも上回っていればいい。

しかし、勝てば「年間順位4位以内確定」が懸った大事な試合では、出来る限り早い時間帯でのゴールが望まれた。どうしたって硬くなる試合、早々に均衡を破ることで平静を取り戻し、優位に試合を運びたいと考える。

戦前に山崎透は、こんなことを思っていた。「こういう状態(4位以内が決まる試合)だから、0―0でいけば焦りが出る」。経験豊富な選手がピッチに立っていることの心強さを感じる一方で、山崎自身は「今までに感じたことがないほどのプレッシャー」に晒され、「個人的には力が入っていた」という。だからこそ、前半6分に佐藤が先制点を奪ってくれたことで、「気持ちの上で楽になった」と話す。

最後尾から戦況を見詰めていたGK小針清允も、「早い時間帯に取れたことはよかった」と、先制点の重みを口にした。それは強い思いが空回りした選手が少なからず存在した、と感じ取っていたからである。

チームメイトをリラックスさせ、主導権を握ることになる一撃を叩き込んだ佐藤は言う。

「何かを勝ち取るのは大変だと改めて感じた」

昨季、東京ヴェルディでも苛烈な昇格争いに身を置いた。カテゴリーは違っても、周囲からの期待など背負うものの大きさはそれほど変わらない。当然ながら重圧も同等に掛かる。だが、開幕戦の先制弾にはじまり、前期首位ターンを決めた決勝弾、加えて4位以内を決定付ける試合での2発(1点目と6点目)、と節目では必ず結果を残してきた。

「悠介の存在は大きかった。左足は図抜けている」

柱谷幸一監督は賛辞を惜しまない。困難な事態に直面しても、いや厳しい局面だからこそ左足は強烈なまでの存在感を示し、閃光を放った。


前日、4位争いを繰り広げる5位・ガイナーレ鳥取、6位・横河武蔵野FCが揃って敗戦を喫した。これにより栃木SCは勝点3を得ることで自力での4位確保が達せられる環境を整えてもらった。この機を逸するわけにはいかない。現状を認識させた後、柱谷監督は選手に伝えた。「チャンスを持ってきたのは自分達の力。ただし、チャンスは手を出して掴まなければいけない」と。対戦相手の布陣を考慮し、前節の3―6―1から4―2―3―1へフォーメーションをいじる。スタメンはGK小針、4バックは左から田村仁崇、山崎、照井篤、赤井秀行、守備的な中盤に鴨志田誉と落合正幸、松田正俊の1トップ下に入江利和、佐藤、小林成光の3人が並んだ。

8連敗中のアルテ高崎(以下、高崎)は4―3―3を選択。16位と低空飛行を続けるも、前期は栃木SCを苦しめただけに(3―2)、侮るわけにはいかない。

雨は止むも、薄いもやのかかったスタジアム。ピッチは水を含み、スリッピーだった。

序盤から前傾姿勢をとったのは栃木SC。入りはいつも以上に滑らかで、佐藤のスルーパスから松田がGKと1対1のシーンを迎える。ここは阻止されるも、驚くほどあっさりとゴールを割る。松田がボールをキープし、落合を経由したボールは中央で待ち構えていた佐藤の元へと届けられる。ゴール正面からFKと同じような動作で左足を振った佐藤のシュートは綺麗にネットに収まった。

先手を取った栃木SC。前線で際立った松田が追加点を奪う。自陣から少し出たところから田村が供給した対角線のクロスを走り込みながら頭で合わせた。「ボールを持ったら俺を見ろ」(松田)。松田の動き出しにピタリと合わせた田村のキックの精度。呼吸は抜群だった。

浅いラインを敷き、Pボックス内へボールを盛んに入れてきた高崎だが、相手のロングボール対策として起用された照井と山崎の高さが勝る。高崎の攻撃を封じ、好機を生み出しながら決め切れなかった栃木SCは27分、ゴール前の混戦を田中靖大に制され、詰め寄られる。1点を失ってから大きな展開が減ったものの、極端に高いラインの裏を突く当初の狙い通り、鴨志田が落合のパスに飛び出す。GK斯波薫の空振りというアシストもあり、鴨志田は嬉しいプロ初ゴールをマークする。その後、佐藤と松田がゴールに襲いかかるも、前半は3点止まりだった。

エンドが変わっても栃木SCは優勢に試合を運び、佐藤が立て続けにゴールに迫る。高崎も失点で戦意が殺がれることはなく、イケイケのサッカーは継続された。玉砕覚悟の戦術にはまりこまないために加点したい栃木SCは、落合と鴨志田がセカンドボールを拾いまくり、素早い攻守の切り替えから広大なスペースを活かし、立て続けにゴールを挙げた。

入江がドリブルで突っかけて放ったシュートのこぼれ球を松田がプッシュ。5分と経たずに入江のクロスからまたしても松田がハットトリックを完成させる。点差を広げるも攻撃の手を緩めない栃木SCは、交代出場の高安亮介がサイドを猛然と駆け上がり、スタンドを湧かせる。照井の緩慢なプレーから冷やりとさせられるものの、ゴールショーを閉めたのは佐藤。途中出場の石舘靖樹が獲得したPKを冷静に沈める。

ロスタイム3分が過ぎ去り、ついに「歴史的瞬間」は訪れた。勝利を手中に収め、「J2昇格」条件のひとつである、4位以内をクリアしてみせた。生まれ育った地元での歓喜の時を、「こういう瞬間は一生に一度しかない。立ち会えて嬉しい」と入江は述懐した。

試合後のセレモニーで「お待たせしました」と発した新井賢太郎社長は、3年間の苦しみから脱した喜びと共に、教員チームからスタートしたクラブの歴史に触れた。キャプテン佐藤はクラブ存続の危機に瀕しながらも乗り越えてきた関係者に感謝の意を述べた。アマチュア時代、プロとアマチュア混在の時代、そして完全プロ化の時代を知る選手会長の山崎は、「これまで共に闘ってきた仲間達のぶんまで頑張ろうと思った。会えば『頑張れ』と声をかけてくれる。なんとか試合に出て昇格に貢献したいと。最後に出られてよかった」と、栃木SCの歴史を背負って戦えたことを誇らしげに語った。

劣悪な環境下でプロを擁する、或いはプロと同等に優遇されてサッカーに取り組めるチームに対抗心を抱き、挑みかかってきた栃木SC。時を経て優勝を公言できるまでになり、挑戦を受ける側に立場を変え、来季はいよいよ日本最高峰のリーグへ参入するまでに至った。1年でJFLを通過したチームにすれば、歩みは遅く見えるかもしれない。だが、「J」など非現実的だった時代を考えれば、長足の進歩を遂げたといえる。このクラブはもっと大きくなれるし、強くもなれるポテンシャルを多分に秘めている。

数年前、誰が「Jクラブ」と名乗れるようになることを想像できただろうか。栃木SCは今後も成長曲線を描き続ける。

JFL後期第15節 栃木SC6―1アルテ高崎 観衆4490人 @栃木県グリーンスタジアム

〈栃木SC〉交代:小林(→高安)、松田(→石舘)、入江(→稲葉)

〈アルテ高崎〉GK斯波薫、DF杉山琢也(→田中翔太)、今井雅貴、阿久澤剛、床井伸太郎、MF里見仁義、工藤光俊(→山田裕也)、大谷昌司、秋葉勇志、白山貴俊(→神谷恭平)、FW田中靖大  

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