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プレーバック:対ファジアーノ岡山戦@栃木SC通信
2008年11月22日 大塚秀毅 | この記事のページ | コメント(0) | トラックバック(0)
1月のファーストミーティングで柱谷幸一監督が今季の理念として掲げたのは3つ。結果、内容、フェアプレーである。とりわけ強調したのが結果。所属選手全員がプロ契約を結んだことで、「プロである以上、当たり前」と話し、突きつけた要求が「ホーム全勝」だった。勝負に徹するシーズンに相応しい、退転の決意が如実に表れている目標である。勝ち続ければクラブの財政基盤を安定させるのに不可欠な観客動員にも結び付く。だからこそ、スタジアムへ再び足を運んでもらうために、栃木のサッカー熱を上げるために、カタルシスを得られるゲーム内容と同等に勝利が必要とされることを声高に訴えた。
前期に組まれたホームゲーム9試合を、栃木SCは見事に全勝で終える。傷ひとつない、綺麗な白星が並んだ。指揮官の過酷なノルマを半分クリアした。
整えられた環境、熱狂的なサポーターの応援など、枚挙にいとまがないほどのプラス要素が集中力を高め、試合への入り方を滑らかにする。対照的にアウェーでは比較的リーグの中で恵まれた状況がマイナスに作用し、勝点が伸び悩む一因となっているのだが。
「負けたり引き分けたりした後に今季は必ず勝つからね。それが大きいよ」
コールリーダーのシゲルさんは、昨季との違いをそう語る。
選手達の中には芽生えつつある。敗戦を喫する、或いはドローで勝点を取り逃しても、ホームに戻れば立て直しが図れるという強い思いが。キャプテンの佐藤悠介は、現況をこんな風に感じ取っている。
「ホームで負けていないことで自信が出てきている」
いつかは途切れるかもしれない連勝に怯え、プレッシャーに押し潰されることなどない。根城に帰れば自分達は負けないという心理。その働きは思考をポジティブにし、気持ちの切り替えを促進している。ホームゲームでの勝利に対する強い意識が「ホーム力」を培い、優勝争いを繰り広げられている好循環を生んでいる。
久方ぶりのアウェーでの勝利と引き換えに、中盤のオーガナイザー落合正幸と右サイドで職人芸を披露していた岡田佑樹が揃って出場停止と、代えの効かない選手を2人も欠く事態を招く。佐藤の3試合出場停止に匹敵すると言っても過言ではない。前節、奪取した首位のまま折り返すには、乗り越えなければならない難しい試合に直面した。栃木SCの布陣はGK小針清允、DFは左から斎藤雅也、鷲田雅一、川鍋良祐、赤井秀行、中盤は底に向慎一と鴨志田誉、左ワイドに佐藤、右ワイドに高安亮介が据えられ、上野優作と横山聡が2トップを組んだ。5人もの大卒新人が先発起用され、最終ラインには鷲田を除き“北京五輪世代”が3人も名を連ねた。
さて、6月15日は栃木県民の日であり、クラブが株式会社化して1周年のメモリアルデーでもある。「県民の歌を1万人で大合唱」と大々的な告知を刊行。そのかいもあり1万人には達しなかったが、開幕戦の6338人を超える7253人が集う。恥ずかしい試合はできない。
異例の地域リーグ所属時代に「J2準加盟」の権利を得たのが、ファジアーノ岡山(以下、ファジアーノ)である。中国リーグ、全国地域リーグ決勝をトップ通過した実力に偽りなし。HondaFCを開幕で食すとカターレ富山、SAGAWA SHIGA FCも撃破した。一時は首位に立つほどの快進撃も、昨季の下位チーム相手に苦戦を強いられ、ズルズルと順位を下げた。どうやらチームの体質として強敵には高いモチベーションで挑めるが、その反面ちからが劣ると自己判断した相手には手を焼くようだ。
対戦前の順位では栃木SCが勝る。つまり、ファジアーノが闘志を剝き出しにする材料は整っていた。スタートダッシュに成功。左サイドを軸に攻撃を仕掛け、持ち味のひとつであるセットプレーの流れから、中盤に下がった喜山康平がヘディングシュートを放つ。ゴールを脅かされ、拙い立ち上がりの栃木SCも、特長であるセットプレーから上野が競り勝つなど応戦した。序盤はセットプレーの攻防が続いたが、徐々に互いの2トップを2CBが抑え込んだことで、試合は拮抗した展開となる。
サイドに上手く蓋をされ、手詰まりに陥っていた栃木SCであるが、開眼した高安が果敢にシュートを打つと活気が生じる。縦だけではなく内側へルートを開拓したことが奏功。圧を掛け、DF陣を揺さぶる。全体の動きも軽快になる。前線から骨惜しみない横山聡のフォアチェックが守備組織を強固にし、ファジアーノは打つ手がなくなる。
手綱を握ったはずだったが、41分に朝比奈祐作に至近距離から決定的なシュートを浴びる。ここはGK小針が腕一本で叩き落とすビックセーブで凌ぐも、44分にFKとカウンターから冷や汗をかかされるなど、相手に盛り返される後味の悪さを残した。
後半の立ち上がりもファジアーノのリズムで試合は進んだ。前を向いてのプレーを許してしまう。しかし、前傾姿勢になった相手の逆手を取り、スペースを利するボールと動きが目を引くようになると栃木SCは攻勢に出る。12分、鷲田から高安へと良質なロングフィードが届けられる。高安は迷わない。1対1を制し、PKを勝ち取る。これをGK李彰剛の間合いを外し、佐藤が左隅にきっちり沈める。
先制後も前半はミスの目立った向と鴨志田のダブルボランチがゴールに迫るなど、追加点を狙いに行く。畳み掛けてリードを拡げようとするも、単純なミスが重なったことでファジアーノに息を吹き返されてしまう。怒涛の反撃を守備陣が身を挺して脱するが、持ちこたえられなかった。29分に喜山の左クロスから小林康剛にヘディングシュートをぶち込まれて同点とされる。失点直前、栃木SCは5人で攻め込んでいた。カウンターを打ち込むも、防がれると戻りが遅れる。鴨志田がディレイさせるも、味方は帰陣してこない。人数は足りていたが、バランスが崩れていたのも事実。一瞬、切れた集中力が仇となる。
後半の頭には既に疲労の色が濃かったという高安を下げて稲葉久人を投入。松田正俊を送り出してパワープレーの選択肢も用意されていたが、柱谷監督は稲葉に賭けた。この交代は吉と出た。
ドリブルで中へカットイン。左の佐藤にボールを預け、自身はゴール前へ。絶妙のタイミングでマーカーを振り切った佐藤のクロスを頭で叩いたのは稲葉だった。県民の日に地元、小山市出身のルーキーがゴールを決めたことでスタンドは爆発。手拍子は足が止まり始めていた選手を叱咤し、陣形を久保田勲と深澤幸次を入れて中盤に厚みをもたせる4―1―4―1(4―5―1)へシフトさせたことでセカンドボールが拾えるようになり、2次攻撃を阻んだ。ニューウェーブ北九州戦では5バックで逃げ切ったが、今回は中盤を肉厚にしたことで準加盟ダービーを勝ち切った。大観衆に勝利をプレゼントできたことに加え、ホームでの不敗が継続されたことに選手と柱谷監督は安堵の表情を浮かべた。
頬を緩めたのも束の間、引き締め直した柱谷監督は言った。
「得ているものはひとつもない。しっかり勝って前期を締め括りたい」
まさにその通りである。16試合を消化した時点で首位に居るだけに過ぎない。次節、対アルテ高崎戦に勝利することで初めて天皇杯のシード権が得られる(ドローなどケチな考えは持っていないだろう)。栃木県のサッカー界のためにも首位ターンを叶え、枠をひとつ増やしたい。
JFL前期第16節 栃木SC2―1ファジアーノ岡山 観衆7253人 @栃木県グリーンスタジアム
〈栃木SC〉交代:高安(→稲葉)、向(→久保田)、横山聡(→深澤)
〈ファジアーノ岡山〉GK李彰剛、DF尾崎雄二(→大島翼)、伊藤琢矢、木村允彦、野本安啓、MF妹尾隆佑(→小林優希)、小野雄平、喜山康平、川原周剛、FW朝比奈祐作(→玉林睦実)、小林康剛
『苦境を乗り越え果たされたボトムアップ』
大卒新人が5人もスタートから起用されることに対して不安は感じなかったそうだ。むしろ、頼もしかったとチーム最年長の34歳、上野優作は言う。
「大卒の5人で勝手に盛り上がっていましたからね。心配はしていなかった」
続けて初先発の赤井秀行を、こう評した。
「ヒデはいいプレーをしていた」
栃木SCでのJFLデビューはアウェーでの対佐川印刷SC戦、後半のロスタイム(流通経済大学でリーグ戦は経験済み)。守備固めで投入された赤井は、左サイドバック(以下、SB)に配された。左右のSBに加え、センターバック(以下、CB)も可能なポリバレントな選手である。1点を守り切る状況でピッチに立つも、自らの持ち場から同点被弾のクロスを上げられてしまう。応対したのは佐藤悠介であったが、悔しさは残ったはずである。その後、ベンチには辿り着くも、僅か数メートル、眼前のタッチラインを越えることは困難を極めた。攻守に卒がなく、抜群の安定感を誇る岡田佑樹が同ポジションに君臨していたからである。挽回の好機はなかなか得られなかった。
右SBのファーストチョイス、岡田が累積警告により出場停止となった。やっと巡ってきた先発機会。心の準備は既に岡田が3枚目のカードをもらった時点から出来ていた。特長である1対1の強さ、CBとの連係を意識して試合に臨む。
「弱気にならずに強気で向かって行こう」
序盤からファジアーノ岡山(以下、ファジアーノ)は赤井のサイドから攻略を図る。このゲームの鍵はサイドの攻防にあった。そのことを赤井はしっかりと認識して試合に入っていた。
「サイドにボールを散らしてくるので1対1では負けないように」
気負いはあった。が、浮き足立った時間は長くなかった。強みである対人プレーでは飛び込まず、自分の間合いに引き込んでから足を出し、進撃を阻む。後手を踏むことはなかった。持ち味の守備力は遺憾なく発揮され、守備組織の強度を強めた。カバーリングも冴え渡る。
「高安さん(亮介)が前にいたので、攻撃は高安さんがやってくれる。後ろで穴を埋める」仕事に徹したが、前半19分にはスペースがあると見定めるやドリブルで持ち上がる。最終的に高安の際どいシュートを引き出した。敵陣深くまで侵入する回数は皆無に等しく、攻撃参加は数えるほど、赤井曰く「攻撃ではちょっとミスが多かった」ものの、スピードもあるだけにえぐってからのクロスも今後は期待が持てる。
シーズン前にはフィットできなかったことで「追試」を科された。失点の大半は赤井のサイドからだった。対ファジアーノ戦も結果的に赤井のところから供給されたクロスが同点弾に繋がるも、「十何試合目で初先発。あれだけやれたのはトレーニングをしっかりやっていた証拠」と、柱谷幸一監督は高評価を与えた。岡田を右ワイドに、赤井をそのひとつ下で組ませる考えがあることも口にした。
岡田が復帰すれば取って代わられる。それでも、勝利に貢献できたこと、手応えを得られたことに充足感を抱いた。
「勝てて嬉しい。一安心」
赤井の笑顔が弾けた。
3度ピッチに立つも出場時間は、たったの29分。上野、横山聡、松田正俊に石舘靖樹の4人をローテーションするFWの位置に、稲葉久人の居場所はなかった。交代出場するも、ポジションはいずれも右ワイド。スタミナの切れた高安に代わり、後半34分に送り出された位置は今度も右ワイドだった。相手のSBが攻撃的だったこともあり、「守備から入るように」との指示を受ける。守備に神経を割きつつも、しかしスコアが1―1だったことで、こんな言葉も掛けられる。「相手のSBの裏を狙え。左からいいボールが来るから準備はしておけ」。
「直感ですかね。ここにくるだろうと」
背後を取るスピードと嗅覚で勝負するプレイヤーと自己を語る稲葉。ゴールの匂いを敏感に嗅ぎ取った。佐藤悠介のピンポイントクロスを頭で突き刺す。ワイドの選手がPボックス内でヘディングシュートを決めるカタチはトレーニングから繰り返されていた。
「金曜日の紅白戦でも決めていましたから」
ゴールはトレーニングの賜物であるが、ゴールを決められる位置に走り込むことは容易ではない。生まれ持った才能のひとつだろう。
「いいポジションにいた」
FW出身の柱谷監督も手放しで褒め称えた。
今まで派手に映る外見とは異なり、稲葉は試合に出てもどこか控え目だった。覇気に乏しく、泥臭さは影を潜めた。そのギャップの真相を本人が明かした。
「これまで試合に出ていても遠慮があり、空回りの原因になっていた」
試合に入り込めていなかった。「周りに迷惑をかけていた」。そこで、一念発起する。1週間前から心に決めていた。フレッシュな状態で入るのだから皆よりも動き回ろう、貪欲さを意識したプレーをしようと。ゴールの切っ掛けは、自らが作り出した。前を向き、アグレッシブにドリブルを仕掛けた。思い切りのよさが佐藤にボールを託してから状況を傍観するのではなく、ゴール前に飛び込んでいく姿勢として結実した。攻撃的な選手は強引なくらいが程よい。高安がゴールにより脱皮したように、稲葉も結果を残したことでブレイクスルーする確率は低くない。
佐藤の不在時には石舘と鴨志田誉が特性を生かして難局を乗り切る一助となった。落合正幸と岡田を失ったファジアーノ戦も苦しいメンバー構成となったが、向慎一、赤井、稲葉とピチピチした若手が奮起し、勝点3を呼び込んだ。ただし、“背骨”となるGK小針清允、鷲田、佐藤、上野のベテラン勢の存在と、町田秀三、阪倉裕二コーチの熱血指導を忘れてはいけないと柱谷監督は付け加えた。
「ボクが何かをしなければいけないチームはよくない。皆が逞しくなっている」
現在のチーム状況を佐藤は、そう見ている。
開幕から固定メンバーで戦ってきたことで、一時はバイオリズムが落ち込んだ時期もあったが、主力が抜けるという逆境を乗り越えたことでチーム力は養われた。つまり、選手層は厚みを増し、全体の底上げが図れた。各ポジションに先発しても一定レベルのパフォーマンスができる、バックアッパーが控えていることは勝利が得難くなる今後へ向けて心強い。
昨季、続投が決まってから柱谷監督は常々大学生、しかもトップレベルでプレーする選手の質の高さを強調。資金面の問題もあるが大量に獲得する方向性を示していた。精力的に動きオフに行ったチーム編成が間違いではなかったことが、若手の台頭により証明されている。
若手とベテランの融合は緩やかに成され、強者になるための階段をまたひとつ上った。
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