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戦評:対FC刈谷戦@栃木SC通信

2008年12月 1日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

310.JPG栃木SCで指揮を執った1年半を振り返り、柱谷幸一監督は「1年目が凄く思い出される」と語った。高橋高前監督の後任として昨年7月、現場を預かることになった。当時、栃木SCはプロとアマが混在したチームだった。午前のトレーニングに参加できたのは、プロ契約を結んでいた選手に仕事の都合がつく選手を加えても20人に満たなかった。時間との戦いの中で戦力の見極めを行い、コンセプトを浸透させるために、日中に仕事を持った選手が集まれる夜のトレーニングにも顔を出した。申し訳程度の照明に土のグラウンドと粗悪な環境に戸惑ったことだろう。それでも、引き受けた以上はプロとして結果を残さなければならない。

積極的に動いた。改革を次々と実行する。人工芝(鹿沼市)のグラウンドを優先的に使えるよう交渉し、練習参加が困難だったアマ選手を複数人プロ契約させ、良質なトレーニングを入れた。しかし、プロチームにより近いカタチに体制作りを敢行するも、プロ意識を植え付けることは容易ではなかった。サッカーで飯を食うという矜持は芽生えず、重要な要素が決定的に欠けたことで頭を悩まされ続けた。最後まで意識は改善されることはなく、当然ながら結果は伴わなかった。J2昇格を逃す。

「2年目にオファーをもらった時にやるしかないと思った」

昇格条件のひとつである「4位以内」の目標を達するために、勝てるチームを作るために選手を大幅に入れ替える断を下す。「辛い決断だった」(柱谷監督)が、完全プロ化は紆余曲折を経て実を結んだ。当初掲げた「優勝」、「勝点83獲得」、「ホーム全勝」は成しえなかったが、最低限のノルマである「4位以内」は確定させた。さらに最終戦こそドローに終わったものの、クラブ史上最高となる「年間2位」でフィニッシュできた。

今季、無我夢中で開幕から突っ走ってこられたのは、昨季の苦労があったからこそだと柱谷監督は考える。苦しんだ経験は無駄ではなかった。辛苦を味わった昨季と同様に今季も事はスムーズに運ばなかった。口に出せないような我慢を強いられたことも多々あっただろう。だが、「それも高崎に勝ったことで4位以内に入り全て吹っ飛んだ」と晴れやかな表情で話し、「いい1年でした」と結んだ。

来季、J2へと舞台を移す栃木SCを率いることは、交渉が決裂したことにより叶わなくなった。が、試合前にサポーターが高らかに歌い上げる「県民の歌」に瞼の裏を湿らせ、「栃木が好きです」と公言する指揮官は、再び戻ってくることを固く誓った。

「柱さんのサッカーが栃木をJへ上げたことを忘れないでください」(石館靖樹)

ピッチ内のみならず、ピッチ外で残した功績は計り知れない。餞の言葉として贈られた「幸一栃木」に、感謝の思いはたっぷり詰まっていた。


開門前の入場ゲートには長蛇の列が出来上がっていた。JFLでの最後の試合に足を運んだ観衆の数は1万人を上回り、リーグ新記録となる13821人に達した。1万人超えは一昨年の開幕戦以来2度目となる快挙だった。JFLラストマッチに選抜された11人は以下の通り。GK小針清允、4バックは左から斎藤雅也、鷲田雅一、赤井秀行、岡田佑樹、中盤はボランチに鴨志田誉と落合正幸、左に佐藤悠介、右に小林成光、2トップは上野優作と横山聡。事前に契約満了を通達された鷲田、小林、上野、横山にとっては、栃木SCラストマッチでもあった。

最終戦の相手は前期、最も手を焼いたFC刈谷。引退を宣言したベテランFW伊藤智弘が3トップの一角を占めた。布陣は4―3―3。

序盤からアグレッシブに両サイドから攻め立てた栃木SCは、開始4分に絶好機を迎える。サイドをえぐった岡田が入れたクロスは一旦クリアされるも、落合がシュートを放つ。歓声はすぐに溜息に変わる。シュートは惜しくもクロスバーに弾かれた。

好機を逸した栃木SCは、時間の経過と共に動きに硬さが見られるようになる。殊に2トップ。「ボク、聡、マサミツとガチガチだった」と上野が言うように精彩を欠いた。原因は気持ちの空転だった。最終戦に懸ける思いがマイナスに働いた。パスが繋がらなくなり、呼吸も合わなくなる。事態は悪化の一途を辿った。救いだったのは特長であるロングボールの雨をFC刈谷が降らせることなく、慎重に試合を運んでくれたこと。前期のようなキックアンドラッシュで向かってこられていたら、とても跳ね返せるような力はなかった。「様子を見過ぎた」(浮氣哲郎監督)FC刈谷に助けられた45分間だった。

電光石火の一撃が炸裂する。岡田のロングパスを受けた佐藤がゴール正面からループシュート。GK石川扶の指先とクロスバーに当たったボールは、ゴールへと吸い込まれた。イマジネーション溢れたシュートが均衡を破る。後半開始21秒に先制した栃木SCであるが、すぐさまPKを献上。窮地に陥るもキッカーの伊藤は重圧に屈し、シュートは大きく枠を外れた。

難を逃れ、横山のクロスバー直撃のヘディングシュートを皮切りに、セットプレーから立て続けにゴールに迫った栃木SCだが上野、赤井、鷲田のシュートから追加点は生まれなかった。決定機を決め切れず、カウンターを浴びるシーンが多々見られ、同点とされてしまう。手薄になったゴール前に走り込んだ平林輝良寛に背後からのボールを左足で蹴り込まれる。後半21分、痛恨の被弾。

「決めてくれビームが出ていたが決められなかった」

唇を噛んだのは上野。現役を退くことを決めていたチーム最年長にボールを集めるが、繰り出したヘディングシュートは終ぞゴールネットを揺らせなかった。花道を飾れず、松田正俊と交代。その松田がPボックス内で粘り、ロスタイムに岡田が渾身のシュートを打つも枠外へ。2点目を奪えずに痛み分け。勝点差1の3位カターレ富山もドローに終わったことで、前節からの2位は変わらず。勝ち切れなかったものの、クラブ史上最高位で2008年を締め括った。

試合後に催されたセレモニーは昇格条件をクリアしたチームにおよそ似つかわしくない、しんみりしたものとなった。柱谷監督をはじめ挨拶をする選手の大半が言葉を詰まらせ、涙を流した。「JFL卒業式」は沈んだ空気に包まれた。その重苦しい雰囲気を「おかしい部分がある」と述べた上野だが、一方でこうも言うのである。

「サポーター、県民の皆さんに分かって欲しいのは、チームが成長するためにはこういうこともある」

プロクラブとして歩むことを決めた以上、毎年去る者が出てくるのは避けては通れない道。強くなるためには痛みを伴うこともある。その痛みに耐えること、覚悟を持つことも、今後は支える側に求められる。

「サポーターの応援なしに選手は動けません。サポーターが応援してくれるから一歩二歩と前に進める。これから栃木が強くなるためには皆さんの力が必要です。凄いパワーで栃木を応援してください」

栃木を一線から退く場に選び、これからも携わり盛り上げるために尽力すると明言した上野。サポーターの存在の大きさと有難味を知るからこそ、厚い支持を呼び掛けた。選手と体制が変わろうとも。

JFL後期第17節 栃木SC1―1FC刈谷 観衆13821人 @栃木県グリーンスタジアム

〈栃木SC〉交代:横山(→稲葉久人)、小林(向慎一)、上野(→松田)

〈FC刈谷〉GK石川扶、DF松田勉、田上裕、石川高大、諸江健太、MF日下大資(→宮田知洋)、平林輝良寛、西原拓巳(→酒井康平)、FW原賀啓輔、伊藤智弘、高橋良太  

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