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『実り多き遠征』@栃木SC通信

2008年6月30日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

okinawa5.JPG決断は下された。

玉のような汗が黙っていても噴き出してくる気候条件。疲労はいつも以上に早く体を蝕む。体温の上昇は脳に熱をこもらせ正確な判断を困難にする。

前線から相手を追い回せば、足が鈍るのは目に見えていた。 そこで、ラインを深く保ち、背後のスペースを消去することを選んだ。目の前でボールを動かされているぶんには構わない。ただし、個々が受け持つゾーンに相手が入ってきたら厳しく潰しに行く。例えばサイドバックにはオーバーラップを仕掛けるなど持ち場を放棄するリスクを避けさせた。マークを受け渡しながら守ることで体力の消耗を出来る限り軽減させる。攻撃参加したことで息が上がり、戻りきれずに穴を空けることを嫌ったのである。赤井秀行と岡田佑樹の両サイドバックは守りに比重を置いた。高位置に顔を出した回数は数えるほどだった。内へ絞り込みセンターバックのカバーに回るなど、専守防衛に徹する。

全体が間延びし、バランスを欠き、足を攣るなど先に悲鳴を上げたのは、地の利があるはずのFC琉球(以下、琉球)だった。自信たっぷりに柱谷幸一監督は勝因を語る。

「ここまでいい準備をしてきた。トレーニングの成果により体力が落ちなかった」

栃木では体感できない沖縄の暑さと湿度。出来ることは自ずと限られてくる。それを見越し、みっちりトレーニングを積んだ。練りこんだ戦術、守備の約束事は見事なまでにはまった。90分間コンパクトな守備ブロックは破綻することなく、球際で激しく体を寄せたことでコースを切るなど決定的なシュートを許さず、連続失点を4試合で止めることにも成功する。

序盤からリズムよくボールを回す琉球に対し、栃木SCは焦れずに我慢できた。入念な下準備がなされていたからであり、落合正幸曰く「ボールの取りどころがはっきりしていた」ことが小さくない。落合と鴨志田誉が位置する、ボランチラインで引っ掛けてから、いい状態でボールを持てた時だけ攻撃に人数を割く。ポゼッションよりもカウンターに的を絞った。

「攻め込まれていたというよりも、攻めさせていた」

佐藤悠介は前半をそう振り返る。フィニッシュに持ち込まれる回数の多さには苦言を呈しつつも、概ね内容には満足そうだった。前節、オブラートに包むことなく「何もない」と吐き捨て、会場を後にした口振りとは明らかに異なっていた。普段は味わうことのない、味わいたくもない状況で、「柔軟に頭を使いながら戦った」結果の勝利に手応えを掴みもした。佐藤は続ける。「こういう状況のゲームの対処としてはよかった」。今後に繋がる確かなものを手に入れられた充実感が窺えた。

それは指揮官も同じだった。

「栃木もこれから暑くなる。ゾーンでブロックを作って守れた、この試合をベースにしたい」

自分達のストロングポイントを前面に押し出すだけのサッカーに、相手の長所を引き出しながら体力を削いでいき、粘り強く戦うことで一瞬の隙を見逃さずに仕留める戦い方が加わった。思い出されるのは昨季の対FC岐阜戦。綺麗な3ラインが進撃を阻み、効率よく2ゴールを叩き出しての完勝だった。ニューウェーブ北九州戦では5バックを、ファジアーノ岡山戦ではあ4―1―4―1を試みるなど、少しずつ使えるオプションは増えてきている。多様性は育まれ、夏場を乗り切る下ごしらえと、終盤に向けた備蓄は滞りがない。

勝ち越しているとはいえ内容が芳しくないアウェーで、勝率を高めるには打って付けの試合運びを可能にする、
大きなヒントを獲得できた。南国で得たものは勝点3だけに止まらなかった。実り多き遠征となった。

『前期17試合から見えたこと』@栃木SC通信

2008年6月23日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

arte2.JPG沈思黙考した末に口を開いた。

「どれも厳しいゲームだった。ベストゲームはない」

前期のベストゲームとワーストゲームは。そう問われた際の柱谷幸一監督の応答である。ホームで1―0と勝利したHondaFC戦を挙げると思っていたが、予想はものの見事に外れた。

敢えて印象に残る試合を口にしなかったのは、こんな理由からである。

「競っているゲームが多い。1点差で取ってきたが、どっちに転んでもおかしくはないゲームがあった」

勝ち星13の内、実に10が1点差と僅差である。豊富な戦力を有しても、容易に勝ち抜けるリーグではないことを、数字は如実に物語る。

それでも、シーソーゲームをものにしてきたことで、「しぶとさ」が生じたことはプラスであったと考えている。対アルテ高崎(以下、アルテ)戦も小差のゲームを勝ち切れた自信があったからこそ、気持ちを切らさずに勝利を追求し、最終的に手に入れられた。激闘を潜り抜けてきたことで、開幕時よりメンタル面は相当タフになってきている。

石舘靖樹は言う。

「負けた試合がプラスに働いている。3―2で勝ち切れるのは、代償は大きかったかもしれないが、勉強したことが実になっているからだと思う」

柱谷監督は、「チーム戦術、コンセプトが攻守において全員に浸透している」ことも収穫とした。チームとしてやるべきこと、ベースが確立され、刷り込まれていることは殊の外、大きい。負傷離脱、出場停止によりリザーブだった選手が先発しても遜色ないプレーを披露したことが、それを証明している。鴨志田誉は今や確たる地位を築いている。高安亮介はゴールにより長足の進歩を遂げた。赤井秀行は守備力の高さを見せ付けた。田村仁崇は鷲田雅一と川鍋良祐を脅かす存在へと成長している。危機を好機に変換できるのは、しっかりとした約束事と規律がチーム内に存在し、選手が理解しているからである。主力が欠けても代わりの選手が一定レベルの役割を果たす。ボトムアップが図れ、薄かった選手層に厚みが加わった。

「内容を上げて結果を残さなければ後期は苦しむ」

楽観的な言葉は聞かれない。悲観的ではないものの、「気持ちを緩めない」ことなどの重要性を柱谷監督は説く。後期に入り、2順目ともなれば相手も手の内を読んでくることは明白。苦戦は前期の比ではなくなるだろう。そこで、問われるのが「対応力」である。スカウティングとは異なる戦略で臨んできた相手に対し、策略にはまり込む前にいかに手を打てるか。動じて後手を踏む時間帯、劣勢に回る機会を減らせる柔軟な姿勢と発想が必須になる。

そして、個の力量を高めることもまた不可欠である。アルテにセットプレーから2つもゴールを献上したのは、「跳ね返す力が足りない」から。それはCBの2人だけではなく、Pボックス内に入っていた選手全員に該当する。先ずは1対1で負けない。セットプレーのみならず、流れの中でも。この大前提はファーストミーティングから口を酸っぱくして指揮官が訴えてきたことである。

再び石舘。

「セットプレーから2度も失点したことで後期の勉強になればいい。『セットプレーからは失点しない』と、いい方向に考える。払った授業料は高いですが、強くなれば経験が積めればいい」

どこまでもポジティブである。攻撃的な資質を見抜いた柱谷監督。FWへのコンバートは前期最大のヒットだろう。

17試合を消化してもアバウトにボールを蹴り込み、セカンドボールから2次、3次攻撃を仕掛けてくる相手への戸惑いは消えない。そろそろJFLの水に慣れてもいい頃なのだが・・・。ポゼッションしてイニシアチブを握ろうと目論むチームは、ほんの一握りである。チーム最大の泣き所が解決できれば安定した試合運びが可能となり、手詰まりに陥った相手を支配することは、そう難しくはない。結果に内容が伴えば、完勝が増えれば、風格は備わるはずである。試合前から相手を飲み込んでしまえば、勝率はより一層高まる。

詰めなければならない細かな点は多々あるが、今後へ向けて大雑把な要求をするならば、守備では組織的な要素に個の強さが
、攻撃では前へボールを入れることで発揮される強みにポゼッション力が欲しい。   

『緩やかに成された融合』@栃木SC通信

2008年6月16日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

  
283.JPG大卒新人が5人もスタートから起用されることに対して不安は感じなかったそうだ。むしろ、頼もしかったとチーム最年長の34歳、上野優作は言う。

「大卒の5人で勝手に盛り上がっていましたからね。心配はしていなかった」

続けて初先発の赤井秀行を、こう評した。

「ヒデはいいプレーをしていた」

栃木SCでのJFLデビューはアウェーでの対佐川印刷SC戦、後半のロスタイム(流通経済大学でリーグ戦は経験済み)。守備固めで投入された赤井は、左サイドバック(以下、SB)に配された。左右のSBに加え、センターバック(以下、CB)も可能なポリバレントな選手である。1点を守り切る状況でピッチに立つも、自らの持ち場から同点被弾のクロスを上げられてしまう。応対したのは佐藤悠介であったが、悔しさは残ったはずである。その後、ベンチには辿り着くも、僅か数メートル、眼前のタッチラインを越えることは困難を極めた。攻守に卒がなく、抜群の安定感を誇る岡田佑樹が同ポジションに君臨していたからである。挽回の好機はなかなか得られなかった。

右SBのファーストチョイス、岡田が累積警告により出場停止となった。やっと巡ってきた先発機会。心の準備は既に岡田が3枚目のカードをもらった時点から出来ていた。特長である1対1の強さ、CBとの連係を意識して試合に臨む。

「弱気にならずに強気で向かって行こう」

序盤からファジアーノ岡山(以下、ファジアーノ)は赤井のサイドから攻略を図る。このゲームの鍵はサイドの攻防にあった。そのことを赤井はしっかりと認識して試合に入っていた。

「サイドにボールを散らしてくるので1対1では負けないように」

気負いはあった。が、浮き足立った時間は長くなかった。強みである対人プレーでは飛び込まず、自分の間合いに引き込んでから足を出し、進撃を阻む。後手を踏むことはなかった。持ち味の守備力は遺憾なく発揮され、守備組織の強度を強めた。カバーリングも冴え渡る。

「高安さん(亮介)が前にいたので、攻撃は高安さんがやってくれる。後ろで穴を埋める」仕事に徹したが、前半19分にはスペースがあると見定めるやドリブルで持ち上がる。最終的に高安の際どいシュートを引き出した。敵陣深くまで侵入する回数は皆無に等しく、攻撃参加は数えるほど、赤井曰く「攻撃ではちょっとミスが多かった」ものの、スピードもあるだけにえぐってからのクロスも今後は期待が持てる。

シーズン前にはフィットできなかったことで「追試」を科された。失点の大半は赤井のサイドからだった。対ファジアーノ戦も結果的に赤井のところから供給されたクロスが同点弾に繋がるも、「十何試合目で初先発。あれだけやれたのはトレーニングをしっかりやっていた証拠」と、柱谷幸一監督は高評価を与えた。岡田を右ワイドに、赤井をそのひとつ下で組ませる考えがあることも口にした。

岡田が復帰すれば取って代わられる。それでも、勝利に貢献できたこと、手応えを得られたことに充足感を抱いた。

「勝てて嬉しい。一安心」

赤井の笑顔が弾けた。

3度ピッチに立つも出場時間は、たったの29分。上野、横山聡、松田正俊に石舘靖樹の4人をローテーションするFWの位置に、稲葉久人の居場所はなかった。交代出場するも、ポジションはいずれも右ワイド。スタミナの切れた高安に代わり、後半34分に送り出された位置は今度も右ワイドだった。相手のSBが攻撃的だったこともあり、「守備から入るように」との指示を受ける。守備に神経を割きつつも、しかしスコアが1―1だったことで、こんな言葉も掛けられる。「相手のSBの裏を狙え。左からいいボールが来るから準備はしておけ」。

「直感ですかね。ここにくるだろうと」

背後を取るスピードと嗅覚で勝負するプレイヤーと自己を語る稲葉。ゴールの匂いを敏感に嗅ぎ取った。佐藤悠介のピンポイントクロスを頭で突き刺す。ワイドの選手がPボックス内でヘディングシュートを決めるカタチはトレーニングから繰り返されていた。

「金曜日の紅白戦でも決めていましたから」

ゴールはトレーニングの賜物であるが、ゴールを決められる位置に走り込むことは容易ではない。生まれ持った才能のひとつだろう。

「いいポジションにした」

FW出身の柱谷監督も手放しで褒め称えた。

今まで派手に映る外見とは異なり、稲葉は試合に出てもどこか控え目だった。覇気に乏しく、泥臭さは影を潜めた。そのギャップの真相を本人が明かした。

「これまで試合に出ていても遠慮があり、空回りの原因になっていた」

試合に入り込めていなかった。「周りに迷惑をかけていた」。そこで、一念発起する。1週間前から心に決めていた。フレッシュな状態で入るのだから皆よりも動き回ろう、貪欲さを意識したプレーをしようと。ゴールの切っ掛けは、自らが作り出した。前を向き、アグレッシブにドリブルを仕掛けた。思い切りのよさが佐藤にボールを託してから状況を傍観するのではなく、ゴール前に飛び込んでいく姿勢として結実した。攻撃的な選手は強引なくらいが程よい。高安がゴールにより脱皮したように、稲葉も結果を残したことでブレイクスルーする確率は低くない。

佐藤の不在時には石舘と鴨志田誉が特性を生かして難局を乗り切る一助となった。落合正幸と岡田を失ったファジアーノ戦も苦しいメンバー構成となったが、向慎一、赤井、稲葉とピチピチした若手が奮起し、勝点3を呼び込んだ。ただし、“背骨”となるGK小針清允、鷲田、佐藤、上野のベテラン勢の存在と、町田秀三、阪倉裕二コーチの熱血指導を忘れてはいけないと柱谷監督は付け加えた。

「ボクが何かをしなければいけないチームはよくない。皆が逞しくなっている」

現在のチーム状況を佐藤は、そう見ている。

開幕から固定メンバーで戦ってきたことで、一時はバイオリズムが落ち込んだ時期もあったが、主力が抜けるという逆境を乗り越えたことでチーム力は養われた。つまり、選手層は厚みを増し、全体の底上げが図れた。各ポジションに先発しても一定レベルのパフォーマンスができる、バックアッパーが控えていることは勝利が得難くなる今後へ向けて心強い。

昨季、続投が決まってから柱谷監督は常々大学生、しかもトップレベルでプレーする選手の質の高さを強調。資金面の問題もあるが大量に獲得する方向性を示していた。精力的に動きオフに行ったチーム編成が間違いではなかったことが、若手の台頭により証明されている。

若手とベテランの融合は緩やかに成され、強者になるための階段をまたひとつ上った。
  

『修正が図れた後半45分』@栃木SC通信

2008年6月 9日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

kyu.JPGJFLで戦うことの過酷さを柱谷幸一監督は改めて実感した。ニューウェーブ北九州戦(以下、ニューウェーブ)に限って言えば、劣悪なピッチコンディションが挙げられる。未整備の、普段とは異なる環境に順応することの難しさ。契約を結ぶ際、選手にはスタジアムとジャッジの厳しさを説明したが、整えられた状況でプレーしてきたことで、こびりついた感覚は容易に剥がれないのだろう。不慣れな部分がプレーに及ぼす影響は少なからずあり、アウェーで好成績を収められない要素のひとつになっている。指揮官は感じている。精神的な物足りなさを。

立ち上がりに脆弱さが顔を出した。

複数の事情が重なり集中力が保てない状態で試合に入ってしまう。神経が研ぎ澄まされていないから対応力は自然と落ちる。初先発、センターバック(以下、CB)に配された田村仁崇は述懐する。

「前半、最初の10分間で早く修正できればよかった」

序盤からPボックスにボールを集中させたニューウェーブの攻撃に後手を踏み続けた。石舘靖樹が先制点を奪っても、すぐさま追い付かれた。高安亮介のゴールで突き放しても、再び取り返された。自分達のペースで試合を運ぶことができず、ズルズルと劣勢の時間帯を引き摺ってしまったことが一因だろう。

「うちのCBが弱かった。情けない」(柱谷監督)

相手が2トップに素早くボールを入れ、DFが跳ね返したルーズボールから再度、攻撃を仕掛けてくることは分かりきっていた。だが、最終ラインが下がり気味だったことで蹴り込まれてきたボールをボランチラインよりも前へクリアできず、ボランチも前掛かりになっていたことでセカンドボールを拾えずに拾われた。反発力の乏しさとバイタルエリアの締めの甘さが波状攻撃を許してしまう。

「もうちょっと前に厳しく行けた。インターセプトやヘディングなど。ラインが下がったことで中途半端なクリアばかりだった」

田村の口を衝いて出るのは反省の弁ばかり。

ニューウェーブがポゼッションを放棄し、ロングボールを放り込み、圧力を掛けてくることは予想外だったという。しかし、置かれている状況は同じ。栃木SCもトレーニングを積んだポゼッションが困難だと判断し、作戦を切り替えたのだから、相手の手の内もある程度は読めたはず。前半45分が乱打戦になってしまったのは相手の出方を読み切り、適応する力が欠けていたからに他ならない。少し予想の範囲を超えただけで浮き足立つようでは心許ない。

「後ろがもたない」

そう見て取った柱谷監督。ハーフタイムに埋めきれなかったバイタルエリアへ落合正幸を残し、アンカー気味に構えるように伝える。更に落合が競った後にCBの2枚がカバーリングに入れるポジションを取ること、CBが競りに行ったらサイドバックがフォローに回り、落合がセカンドボールを拾うことも付け加えた。

結果的に守備組織の再構築は成功した。セカンドボールを先に奪い取ったことでニューウェーブは打つ手がなくなり、急激に失速した。シュート数は数えるほど、好機は皆無だった。

後半は守備の修正が図れ、勢いを断ち切るに至る。が、それは指示を仰いでのことだった。自分達で試合を構築する力の低さを如実に物語る。一方で、ポジティブに捉えれば水漏れ箇所をしっかりと修繕し、無失点に抑え込めたとも言える。

自発的に問題を解決できる力が備わっていないところが、「うちのチームは強くない」という佐藤悠介の発言に繋がるのだろう。相手が何を狙っているのかをいち早く察知し、対処していかなければ、思い通りに試合を展開できない。力強さは滲み出てこないし、恐ろしさを植え付けられないのは、言わずもがなである。 

『自己改革』@栃木SC通信

2008年6月 2日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

taka1.JPG昨季、柱谷幸一監督に才能を見出され、徐々に出場時間を増やし、ついには憧憬の対象である只木章広(現・ヴェルフェたかはら那須)からポジションを奪い去る。オフには幼き頃からの夢のひとつ、プロ契約を勝ち取りもした。様々なものを貪るように欲する思いは、アグレッシブなプレースタイルからひしひしと伝わってきた。その残像が鮮明に記憶されているからだろうか。殻を脱しきれない、足踏みをしているような停滞感が今季の開幕時から拭い去れなかったのは。対戦相手から要注意人物にリストアップされ、警戒をされているにしても。

高安亮介は思い悩んでいるのではないか。サッカーを心の底から楽しめていないのではないか。そんな疑問がむくむくと頭をもたげた。

「やらされている。プレーが受身になり、周りに合わせていた」

果敢に持ち味であるスピードを生かし、タッチライン沿いを駆け上がり、クロスを供給するも正確さに欠けた。技術的な問題もあるが、精神面が及ぼす影響は小さくなかったという。心に巣食うある思いが躍動感を損なわせ、決定的な仕事を果たすことを阻んだ。高安は偽らざる心情を吐露した。

「(小林)成光さんがいないから、自分が使われているんじゃないか」

右ワイドの位置を争うライバルは、開幕から好調をキープ。独特の、緩急をつけたドリブルは攻撃に絶妙なアクセントを加えた。アシストにゴールをマークするなど結果を残しもした。その小林が悪質なタックルを受け、戦線離脱することになる。故障した箇所のリハビリを終え、入れ替わるように先発起用されたのが高安だった。

サバイバルを勝ち抜いたわけではない。「代役」、「穴埋め」。そんな言葉が頭にこびりつき離れず、何時しか呪詛となり体を縛り付け、本来の特長を殺いでしまった。ライバル意識は足かせとしかならなかった。

「自分のいいプレーができなかったのは、そこに繋がっている」

競争原理はマイナスに働いた。ゴリゴリ対面のマーカーにドリブルを仕掛けるアタッカーが、ネガティブな感情を抱いてプレーしていては、結果がついてくるはずがない。

そこで、自己改革を断行した。対抗意識を燃やすことに神経を割くのではなく、己を見詰め直した。行き着いた思いは、シンプルなものだった。

「やってやろう」

心の中で起こった僅かな気持ちの変化が、プレーにも現れた。ポジティブに現状を、物事を捉えられるようになったことで脱皮が図れた。これまでシュートを打つ機会が巡ってきてもパス、或いはクロスを選択してきた。だが、前向きになったことが奏功し、優先順位の低かったシュートを打ち切れた。アシスト役が一転、フィニッシャーに変貌したのは前半19分のことだった。佐藤悠介からサイドチェンジのボールが届けられる。トラップでマーカーを外し、躊躇うことなく右足を振った。「気持ちを行動に移した」ことで、JFL初ゴールを2年目にして手にする。

「自分が決めてやると思わなければボールが出てこない」

痛感したのは挑んでいく姿勢の重要性だった。

後ろ向きの感情と決別する突破口となったゴールが、高安に自信を芽生えさせた。前半終了間際には左クロスからヘディングシュートを繰り出す。後半に入ると縦方向へのドリブルに、内側へ切れ込んでいく動きが加わる。カットインから左足でシュートを放ち、ゴールを脅かしもした。シュート3本は佐藤と並びチーム最多タイ。

「縦だけではなく中へ入ってシュート、ワンツー。スルーパスが出せるようになれば、レベルの高いプレーが出来る」

柱谷監督はプレーの幅が拡がる動きを見せた高安の成長を見て取った。圧倒的なスピードに付け加えられたゴールへの強い意識。引き出しが増えたことで、今まで以上に対峙するDFは対応に窮することになるだろう。危険度はより一層、高まった。

「何かを言われてやるよりも、自分の意思でやることが大切」

時間を要したがメンタル面の課題を克服できた。新たな武器を獲得もした。しかし、飢餓感を失わない。

一皮剥けた高安は決意を語る。

「ハシラさんのファーストチョイスになりたい」
  

『乏しいバリエーション』@栃木SC通信

2008年5月26日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

ochi3.JPG攻撃回数はカターレ富山(以下、カターレ)と比べても劣っていたわけではなかった。右ワイドの高安亮介を起点にサイドアタックを仕掛けられていた。好機を演出できるカタチに持ち込めていたことは事実であるが、攻め切れたとの印象が希薄であるのは、やはりシュートで攻撃を完結させられなかったからだろう。柱谷幸一監督は「クロス、ラストパス、シュートの正確性とパワー不足」を原因に挙げた。攻撃を結べなかったことは小さくなかった。

多少アバウトなボールからでもフィニッシュにまで至ってしまう。これまで質量の隔たりとは無関係に対戦相手から与えられた脅威は、ゴールを強く意識した姿勢があったからに他ならない。翻って栃木SCにはシュートを打ち切れないことから怖さ、迫力、圧迫感が感じ取れなかった。ゴールを目指す意欲が著しく欠落していた。

こんなシーンがあった。深澤幸次の右クロスをファーサイドで待ち受けていたのは稲葉久人。ゴールを得るための選択肢はたんまりとあった。ダイレクトでヘディングシュートを放つ。一旦、胸でトラップしてから縦に突っかけて自らシュート、あるいはゴールライン深くまでえぐってからのセンタリング。Pボックス内ではエゴイスチックに振舞ってもいい。FWならば。稲葉が出した答えは、内側に位置していた松田正俊へのパスだった。間違いとは言い切れない。松田のシュートが決まっていれば賢明な判断と解釈されたことだろう。しかし、松田はもたついたことでシュートのタイミングを逸し、DFに阻止されてしまった。勝負しなかったことが裏目に出た一例である。

「ゴール前で消極的に映るシーンがあった」と振り返る向慎一は、「シュートが少なかった。もっとミドルを狙っていれば」と唇を噛んだ。鴨志田誉も同じような思いを抱いていた。「ボクやシン(向)がミドルを狙い、FWは多少強引にでも打つ必要がある」。そうすれば、シュート3本という不甲斐ない数字は残らず、勝点3を得られたかもしれないとの思いは強い。綺麗に打ってゴールを決めてやろう。そんな気持ちが大胆さとアグレッシブさを殺いだ。

キャプテンマークを巻いた落合正幸は言う。

「チャンスメイクで終わっている。シュートで終わっていない。スリッピーなグラウンドコンディションだからこそ、遠目からでも打てば何かが起こるかもしれない」

言葉は熱を帯び、鋭くなる。

「局面で『ボールを持っている選手がやってやる。イニシアチブを握ってやる』と思わないと。アタッキングエリアで遠慮していても仕方がない」

クロスを上げ切る。シュートを打ち切る。「やり切る」ことが出来なかったがために、焦燥感は次第に強まり、安易な方法に逃げてしまった。悪癖が露呈する。「狙ったわけではなく、苦し紛れに蹴り込んでしまう」(鴨志田)攻撃面の課題が。

「ツインタワーへ放り込まれた際のトレーニングをした」

そう話したのは、カターレのDFリーダー濱野勇気。2トップに照準を定め、前へとボールを入れてくることは想定済みだった。CBを組んだ金明輝と共に上野と松田に制空権を譲らなかった。栃木SCにとって前線へのボールの収まり具合が、好不調のバロメーターとなる。ストロングポイントを潰されてしまっては、思うようにサッカーを展開することは難しい。対策を練られた相手に対し、分かりきった攻撃を仕掛けることは無益であり、足枷としかならない。手詰まりと勝点の喪失は親密である。

一本調子と執着は紙一重の関係であるが、勝機が見出せないと判断したならば、状況に応じて別の手を打つべきだった。「真ん中に、バイタルエリアにワンクッションあればよかった。(2トップが)ラインの前で起点を作れていれば」と上野は悔い、「ボールを繋げていれば違う展開になっていた。カウンターや分厚い攻撃ができた」と、鴨志田はボールを走らせるべきだったと反省の弁。「闇雲に蹴り込んでいるから、FWにいいカタチでボールが渡らず、シュートが打てない」と続けた。

「繋いでボールを運んでから、DFラインをFWが押し込んで下げる。クロスを入れて、セカンドボールを拾っていく」

単調に前へボールを預けるだけではなく、ポゼッションしながら横方向の動きを取り入れ守備網を崩すパターンを柱谷監督は描いていた。が、ピッチに立った選手達は実行に移せなかった。トレーニング不足なのか、それとも着手できていないのか。

開幕から漂う攻撃面の閉塞感は、バリエーションの乏しさに起因している。ロングボールを放り込んでいくことを薄め、パスを回しながら打開を図っていく方向性を濃くすることが必要な時期に差し掛かっているのではないだろうか。スカウティングが成され、2順目ともなれば対戦相手も手の内を読んでくるだけに。

確たる型は存在する。それを変形、派生させる準備は整っているのだから、そろそろ次の段階へと強化を推進して行くべきである。引き出しを増やせないようでは、袋小路を彷徨いかねない。
 

『ルーキーに勝点3を』@栃木SC通信

2008年5月19日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

kamo.JPG気負いは全く感じ取れなかった。ボランチに要求される仕事、例えばボールを奪う、パスを散らす、相手の攻撃を遅らせるなど、基本的な役割を卒なくこなしていたからである。それも高次元で。

浮き足立つことなく、試合にすんなりと入り込んでいるように見えた。ちょっとやそっとのことでは揺らぎそうもない外見に、ベテランが醸し出すような雰囲気を身に纏っていることが、そう感じさせるのかもしれない。妙な安心感さえ抱かせた。

が、実際の胸の内は異なったようだ。本人の言葉を借りれば、「最初は緊張した」と言う。無理もない。リーグが開幕してから11試合、1度もピッチに立つことはなかったのだから。巡ってきた出場機会、それも初先発がリーグ屈指の実力を有するHonndaFC(以下、ホンダ)戦、しかも連敗が許されない状況では、萎縮しない方がおかしい。

鴨志田誉は計り知れないプレッシャーに晒されながら、キックオフの笛を、プロデビュー戦を迎えた。

先発を言い渡されたのは、土曜日のセットプレーのトレーニング中だった。「ビックリした」ものの、「何時も通りのプレーをすれば通用する」と言い聞かせ、「何時も通り、何時も通り」と何度も心の中で反芻しては、昂ぶる気持ちを抑えた。

今季2敗目を喫した対横河武蔵野FC(以下、横河)戦(0―1)を省み、柱谷幸一監督は落合正幸のパートナーを久保田勲から鴨志田へとチェンジした。その意図を、こう語る。

「久保田とオチを並べるとポジションが後ろになる。攻撃に人数を割けない。鴨志田は前へ出られるし、ボールに絡める。運動量が多い」

好機をほとんどこしらえられなかった前節。同じ轍は踏めない。前線にボールを入れることで強味が発揮される、栃木SCの戦術によりマッチした人材を選出したことが窺える。

大抜擢された鴨志田。自身の持ち味は「運動量。判断を速くして、素早くパスを繋ぐこと」。

前半35分、マイボールになるや否や、一目散に3列目からゴール前へと駆け上がった。その様は爽快感たっぷり。機を見た大胆不敵な攻撃参加は、ゴール前の人手不足を解消した。また、トップに近い位置でプレーし、セカンドボールを拾うことをも心掛けた。横河戦で感じた物足りなさ。果敢に仕掛けることで補足した。繰り返された上下動。支えたのは、豊富な運動量だった。

ボールを受ける角度作りの巧さも生きる。スムーズに味方からボールを引き出した。託されたボールを時に丁寧に、時にリスクを冒してさばいた。「ホンダも切り替えが速いから負けないようにした」と、瞬時に使えるスペースを見出し、パスを供給。カウンターのスイッチとなる。前半38分にはGK小針清允からのフィードを受けると、前方に走り出していた石舘靖樹に正確なパスを送り届け、決定機を演出した。FKからのクイックリスタートでは高安亮介のドリブル突破を導いた。

高い守備能力も際立った。ショートパスを繋ぐ意識の高いホンダの攻撃に戸惑うも、徐々に順応すると粘着力のある守備でボールを掻っ攫った。攻撃の芽を摘み取った。

「ボゼッションは落ち着いていた。運動量も多く、守備にも入れた。非常にいい出来だった」

柱谷監督はパフォーマンスに目を細めた。

「カモが頑張ってくれたことが周りに伝わり、チームとして結果が残せたと思う」

最後尾からプレーを見詰めていたGK小針は、鴨志田の攻守における貢献度の高さを勝因のひとつに挙げた。続けて「ルーキーで初先発、思い出に残る大事な一戦。勝点3をプレゼントしたかった。それが出来て嬉しい」と、我がことのように喜んだ。

昨夏、催された大学生を対象にしたセレクション。唯一、潜り抜けたのが鴨志田だった。自ら切り開いたプロへの道。しかし、いきなり壁にぶち当たる。中核を成す落合の隣席に座ったのは、同期入団の向慎一だった。職人肌の守備と光る攻撃センスを披露したトレーニングマッチ。アピールも空しく、ベンチにも入れない日々が続いた。欠けている部分を修正しながら、ようやくベンチにまで漕ぎ着けたが、その2試合はいずれも敗戦。直接、関与したわけではないが、「責任を感じていた」。だからこそ、ホンダ戦の勝利が堪らなく嬉しかった。

「コーチからチャンスは絶対にくる、と言われていた。トレーニングを真面目にやれば(出番は)巡ってくる。準備をした甲斐がありました」

笑顔が弾けた。

今後は久保田、向との熾烈なポジション争いが待ち受けている。「競争は大事ですから」。さらりと言い切る鴨志田。スタンドからピッチを眺める、辛く侘しい状況に逆戻りする気はさらさらない。出るからには最初から。やや出遅れたぶんだけ、その思いは人一倍強い。
  

『改良』@栃木SC通信

2008年5月11日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

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佐藤悠介がピッチに立つことを許されなかった。後悔の行き着く先は結局、そこしかない。改めてその存在感、影響力の絶大さを痛感すると同時に、本人は3試合もチームを留守にすることになった軽率な行動を猛省しなければならないだろう。柱谷幸一監督が最も嫌うカタチでゲームから離れることは、キャプテンとして褒められた行いではないのだから。

実力が伯仲したチーム同士の対戦は、スコアが容易に動かない。予想されるのは僅差の展開。それだけに1点が持つ意味、重みは計り知れないものがあった。「先制点を取れたことが非常に大きかった」と横河武蔵野FCの依田博樹監督が振り返れば、「しっかり守る相手に先制点を取られると苦しい」と、横山聡は先手を奪われたことが小さくなかったと語った。

均衡を破るには絶対的な武器が物を言う。それが栃木SCにとっては、佐藤である。これまで競ったゲームを制してこられたのは守備陣の踏ん張りもあったが、セットプレー、もっと言えば佐藤の左足が要所で輝きを放ってきたからに他ならない。いずれも1―0で勝利した対FC刈谷戦然り、対ガイナーレ鳥取戦然り。だが、裏を返せば、佐藤の技術に依存してきたからこそ難局を乗り越えられたとも言える。辛勝に終わった対MIOびわこ草津戦後(4―3)、決勝ゴールとなるFKを突き刺した佐藤は警鐘を鳴らしている。

「いつもボクのセットプレーが出るわけではない」

突出した個へ頼ることが失速の原因になることを暗に示唆している。だからこそ、「0で抑えること。1―0で勝つこと」の重要性を説いた。無失点に封じることにプライオリティを置くべきだと。

佐藤不在の歪は随所で見受けられた。

先ずはCK。都合9本も獲得することになるが、高安亮介と久保田勲の両プレイスキッカーは質の高いボールを供給できなかった。「アバウトなボールでは(ゴールをこじ開けることは)難しい」「ボールの精度が悪い」と柱谷監督は嘆き節。昨季まで欠落していた技術、パワー、精度を全て兼ね備えているのが佐藤である。久保田の左足も悪くないが、パフォーマンス同様に波があり、比較対象にするのはあまりにも酷である。

苦境を打破できる、ゴールを取り切る力を持ち合わせていない。リードを許してしまったことで、焦燥に駆られたことは想像に難くない。前半はトップにボールを預ける、ポゼッションしながらサイドを生かす攻撃の使い分けが臨機応変に出来ていたが、失点を喫してからリズムは崩れた。後半は一辺倒になる。待ち構えている相手に対してロングボールを蹴り込むだけ。変化に乏しく、攻撃にタメがなかった。起点を生み出せなかったことで、逸る気持ちを抑えきれず、無闇にボールを譲り渡す羽目になる。彩を加えられる佐藤がピッチに居ない弊害が、流れの中でもくっきりと現れていた。

劣勢に回る。抱えきれない恐怖感と不安を互いに共有しあえれば、破綻を来たす確率はグッと下がる。そのためには、単純だが声を掛け合うことが求められる。佐藤が叫ぶ姿は、もう馴染みになっている。声がかすれているのは、風邪のせいだけではないだろう。前節、押し込められて耐え忍ぶ時間帯、佐藤は落合正幸が声を出して引っ張ってくれたことに感謝していた。サイドの自分が見られる範囲は限られる。浮き足立ってしまいそうな時、バイタルエリアを守るダブルボランチとCB2人にイニシアチブをとって欲しいと考えている。重圧を反発力に変換できる稀有な才能を有していても、許容範囲は必ずある。佐藤が見えない部分を他の選手が補えるようになることが理想であり、それが可能となれば個々の責任感と挽回する力は高まる。負担を軽減するためにも、要求に応えなければならないだろう。

対ホンダFC、カターレ富山戦と佐藤の欠場は続く。強豪との2戦は正念場であり、今後のリーグ戦を見据えた試金石となる。

「ここは乗り越えなければならない。乗り越えられれば選手層は厚くなる。チーム力がつく」(柱谷監督)

佐藤が出場せずとも勝利を、勝点を1でも得る。その自信が波及することで、チーム力は飛躍的に向上するに違いない。そのためには、一人ひとりがこれまで以上にハードワークをしなければならない。殻を破り、成長するには、図抜けた個からの脱却が絶対不可欠である。残り3分の1で決定的な仕事が出来るスペシャルな存在を生かす手もあるが、それでは結局のところ現状と一緒である。

佐藤を生かすシステムではなく、佐藤も生きるシステムへと改良を進めなければならない。

『精神的なタフさ』@栃木SC通信

2008年5月 7日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

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初黒星を喫した流通経済大学戦(1―2)、腰が引けたプレーの反省を生かしたのが、ジェフリザーブズ(以下、ジェフ)戦だった。攻撃力の向上を図るために、2トップに絡む動き、タッチ数の少ないプレー、サポート意識を入念に確認したことで連動性が生じた。アグレッシブにゴールへ向かった結果として、4ゴールを奪うことになる。浮き彫りになった課題に対して、意欲的に取り組んだトレーニングがゴールラッシュに繋がった。勝点3の喪失を無駄にしなかった。

真摯に、集中してトレーニングに臨んだことが、成果として表れたことに柱谷幸一監督は頬を緩めた。他方で、釘も刺していた。

 

「それだけ(攻撃に重きを置くこと)をやるとドリブル、1対1の対応が出来なくなる。上手くトレーニングを組まなければならない」

攻守がアンバランスに、いずれか一方に偏ることがないように、比重を考える。さじ加減は慎重を要する作業であることを強調した。

 

憂慮した事態が起こる。中2日でのMIOびわこ草津(以下、ミーオ)戦。前節からの攻撃的な姿勢は失われず、だからこそ2試合続けて4ゴールを得ることができた。だが、今季ワーストとなる3ゴールを与えることにもなる。

 

上野優作は言う。

「修正した結果が出ている。トレーニングがそのままゲームに反映されている」

これまでは守備に軸足を置いていたことから、攻撃における迫力不足は否めなかった。一転して攻撃に人数を割いたことでダイナミズムを手にし、好機もたくさんこしらえることが可能となったが、引き換えに背後が手薄になるリスクを背負うことにもなった。意識が攻撃に傾斜したがために、守備への配慮は希薄となる。流通経済戦の失点は2つともセットプレーから許したもの。ミーオ戦の3つの内2つはFK、CKとセットプレーからまたしても取られたものだった。ジェフ戦は危機を招くも無失点に抑え込んだ。継続性を発揮しなければならない状況での大量失点は痛恨だった。

「少し出来ない所を修正するとよくなるが、違う所ができなくなる。積み上げていかないとチームは強くならない」(柱谷監督)

水漏れ箇所を見つけ、早急に修理する。その場所は一時的に塞がるも、しばらくすると再び同じ場所から水が滴り落ちてしまう。同じことを繰り返していてはチームとしての成長は望めない。段階的にステップを踏んでいくことは困難を極める。頭打ちになるのは時間の問題である。積み重ねてきたブロックを自ら崩すことほど無益なことはない。

柱谷監督は自身がトレーニングメニューを熟慮する必要性を感じながら、選手たちにも要望する。

「技術は落ちないし、損なわれない。(今まで出来ていたことが)上手く出来ないのは意識が入っていないから。もっと精神的にタフになって欲しい」


元々、出来ていたこと、例えば守備に関する約束事がゼロに戻ってしまうのは、技術面に起因するのではなく、精神面が脆弱だから。

「自分達で出来ることはやらなければならない」と痛感しているのは、キャプテンの佐藤悠介。ベンチからの指示が届かない場合も出てくる。戦うのは、状況に応じたプレーを選択するのは、ピッチに立っている選手たちである。言われたことだけできる。それでは、幅が広がらないし、応用が利かない。個人としての先も見えてしまう。

求められるのは自主性、自発的な行動である。改善された攻撃面が象徴的なように、アクションを自ら起こしていかなければならない。活路は己で見出すしかない。

 

流通経済戦での消極性を教材に攻撃の微調整を施せた経験があることは幸いである。ミーオ戦で3失点と高い授業料を払ったことで守備面の調整を行えるはずだから。横河武蔵野FC戦から続く昨季の上位陣との潰し合いを前にウミがでたことをポジティブに捉えたい。

『安心感』@栃木SC通信

2008年5月 4日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

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でんと構える。中盤の底に。DFラインの前に。

重心がぶれることなく、バランスを保てていれば、望むような展開に持ち込むことは困難ではない。落合正幸の復帰によりチーム全体のパフォーマンスは向上し、多少のリスクは覚悟の上でゴールを目指すことが可能となった。

自分の持ち場を離れても、穴埋めをしてくれるはず。後ろに落合が控えていてくれることから生じる安心感は、少々臆病になっていた攻撃陣の背中を押した。上野優作と横山聡の2トップは意欲的にゴールを狙い、佐藤悠介と向慎一、そして深澤幸次は盛んに上下動を繰り返し、FWにより近い位置でプレーすることができた。都合4つのゴールが誕生することになるが、その背景には機転を利かせ、引き立て役に徹した落合が居たことを忘れてはならない。影響力は甚大である。

「チーム全体が安定しましたね。落ち着いて試合を運べていた。(ボールを)跳ね返すだけではなく、シン(向慎一)のよさも引き出した。周りが活きる。オチは必要な選手」

落合の存在感の大きさを、柱谷幸一監督はそう口にした。

対流通経済大学戦、1―2の敗戦の一因に挙がったのが、落合の不在だった。対ソニー仙台FC戦で負った右足の痛みは癒えることなく、欠場を余儀なくされた。

「中盤のDFの力強さが足りなかった」(柱谷監督)

フレッシュな選手の勢いを止める術を、経験の浅い向と久保田勲のダブルボランチは持ち合わせていなかった。良好な関係を築けず、DFラインとの連携も覚束なかったことで、バイタルエリアを起点に攻撃を組み立てられてしまう。前線から中盤へ下りて来たFWを捕まえて潰すのはボランチなのか、それともCBなのか。問題は解決しないままタイムアップを迎えた。

「試合に出るからには怪我を言い訳にはしたくない。(チームメートに)失礼のないように強い気持ちで臨んだ」

万全のコンディションではなかったかもしれない。しかし、ピッチに立つ以上は責任感を持ち、故障を抱えていても与えられた役割はこなす。パスコースを消す。打ち込まれたクサビをさばかれないようにCBと呼吸を合わせながら挟み込む。空中戦で引けを取らない。強くボールを跳ね返す。基本的な仕事を落合は卒なくこなした。

「高さがあり、守備的なので凄く楽ですね。DFだけでは対応しきれないところを、前で潰してくれる」

縦の関係にある川鍋良祐は、落合が目の前に居てくれることで守り易い、と証言している。

球際では絶対に負けない。局面での強さと狡猾さも際立った。

こんなシーンがあった。左サイドからのクロスをGK小針清允が弾いた。ルーズボールに群がる両チームの選手達。逸早くボールを確保し、体を入れることで相手をブロック。ファールを誘ったのが落合だった。2次攻撃の芽を摘んだ。「ボールを隠す」プレーは秀逸である。後半、劣勢に陥った際も、相手の勢いを殺ぎ、形勢を変えるべく、意図的にファールをもらっては時間を稼いだ。 人目を引くことはない。だが、地味に映るプレーの積み重ねが、ゆっくりと手綱を引いているのである。身を粉にして職務を全うする献身的な姿勢は尊く、個性的な選手が共存するチームには不可欠である。

その存在価値は小針、佐藤に匹敵する。柱谷監督が「チームの背骨」と位置付けたことも頷ける。 

『特定の個人からの脱却』@栃木SC通信

2008年4月28日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

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流通経済大学は心血を注いだ。佐藤悠介をピッチから消し去ることに。自由を奪うことに。

対面の右ワイド細貝竜太が高位置に構えることで、佐藤を釘付けにし、守備に回る機会を増やすと同時に、攻撃に加わる回数を減らした。ボールが渡った際には、必ずワイド、ボランチ、サイドバックのいずれか一人が執拗に体を寄せることで、容易に前を振り向かせなかった。タッチラインを有効利用しながら、数的優位を作り出すことにも長けていた。鼻息が聞こえるほど相手に密着された佐藤は、常にゴールに背を向けてプレーせざるを得なくなり、バックパスに逃げるシーンが目に付く。タイトなマークに苛立ちは募り、自己制御が利かなくなった。ボールを持ち過ぎる悪癖も窺えた。

ストロングポイントを抑え込まれたことで栃木SCの攻撃力は殺がれた。右サイドは小林成光と岡田佑樹のコンビネーションから打開を図れていたが、左サイドは完全に行き詰った。初先発のボランチ久保田勲、初出場の左サイドバック入江利和との呼吸のズレも、少なからず佐藤のプレーに影響を及ぼす。良好な関係を築いていた斎藤雅也、落合正幸を共に欠いたことは小さくなかった。攻撃が一本調子になってしまったのは、佐藤のキープ力を生かしきれなかったことが一因だろう。

「左は悠介が下がり気味でゲームを作るだけ。攻撃力が足りなかった」

柱谷幸一監督は周囲のサポート意識が薄かったことを指摘した。その上で佐藤にも注文を付けた。

「ロングボール、展開のパスばかりだった。ボックスの近くで、前で、攻撃的にプレーして欲しい。うちの強味なので」

佐藤が存在感を示せたのは、後半序盤の僅かな時間帯だけだった。決定的なパスを供給するなど好機をこしらえるも、思い通りのプレーをさせてもらえなかった時間の方が圧倒的に長かった。流通経済の思惑にはまってしまう。

起点を潰された時、もっと言えば佐藤を封じられた時、いかにして攻撃を組み立てるか。栃木SCは究極の課題を突きつけられた。上野優作と向慎一は表現こそ異なるが、「リスクを負ってゴールに突き進むアグレッシブさ」をひとつの解決策として挙げた。失点を恐れるあまり、プレーが無難になっていた部分があったと感じている。個々がゴールを強く意識する姿勢こそが先ず求められる。

ここ数試合、開幕から負荷を掛けて来たことで心身両面の疲労が顕著な佐藤。今後は警告の累積、或いは怪我による戦線離脱も十分に考えられる。支柱を失った際、どう対処するのか。対応力を試されたのが、佐藤が交代で退いてからの15分間だった。後ろを削り前に人数を割き、遮二無二ゴールを目指した結果として1ゴールを得る。しかし、空転した印象は否めなかった。

「悠介が外れる。悠介の力が及ばない所で、自分達でコントロールが出来ない。ワシ(鷲田雅一)、ナベ(川鍋良祐)、勲はゲームをコントロール出来ていなかった」(柱谷監督)

誰がイニシアチブを取って試合を展開するのか。曖昧模糊としたまま、時間だけが刻々と過ぎていった。それゆえに、前のめりにもかかわらず迫力が、力強さが伝わってこなかった。相手に脅威を与えられなかったのは言わずもがな。

これまで勝点を積み立ててきたことで看過してきた絶対的な個への依存。一敗地に塗れたことで露見した。昨季の上位陣は流通経済以上に佐藤の機能を停止させる策を練り、実行に移してくることが予想される。相手の想像を遥に凌ぐプレーをしてくれれば問題はないのだが、好不調の波はつきものである。易々と事は運ばないだろう。 

核の状態次第でチームが揺らぐようでは心許ない。特定の個人に頼らずとも、勝点3を掴めるチームへと変貌を遂げなければならない。現状のままでは先行きは、暗い。  

『要らないものを無くす』@栃木SC通信

2008年4月22日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

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『2パターン』

前半は石舘靖樹、後半は松田正俊とコンビを組んだ上野優作。特長のひとつである、「フレキシブルさ」が生かされた。互いのプレーが被ることはなかった。

前半は裏へ抜け出るスピードを有する石舘の持ち味を引き出すためにクサビを受けるなど献身的なプレーを心掛けた。「ボールが収まり始め、背後をケアーされたことで石舘が飛び出せるスペースがない」と読んだ柱谷幸一監督。松田を送り出す。上野が担っていた仕事を引き継いだ松田は中央にどっしりと構えた。今度は上野がサイドに流れるなどタイミングのいい動き出しからリズムを作る。決勝ゴールは松田が潰れ、上野が押し込んで獲得した。明確な役割分担が奏功し、勝点3として実を結んだ。

上野はトレーニングマッチから松田との関係性に好感触を得ていた。空中戦に長ける両者が並び立っても攻撃は停滞することなく単調にはならずに、むしろ活性化された。前線にひとつ、選択肢が増えた。

 

『結果的に狙い通りだった』

サイドバックの守備が緩い。ソニー仙台FCの左サイドは狙い目だった。

留守にしがちなスペースへ右ワイド小林成光は再三、侵入を繰り返す。右サイドバックの岡田佑樹も加勢し、サイドの綱引きでイニシアチブを握り、突破口となった。前半、唯一の好機を演出したのも、ゴールへと繋がるロビングが供給されたのも、右サイドからだった。岡田へとボールを叩いた向慎一は言う。

「成光さん、岡さんのところでチャンスができていた。ハーフタイムに『ルーズだよ』と話し、空いていたので『突いていこう』と確認した。結果的に狙い通りだった」

執拗にウイークポイントを攻め立てたことで勝機を手繰った。

 

『要らないものを無くす』

完封勝利は連続失点が2試合で止まったことをも意味した。

「CB2人のコミュニケーションが取れていて、非常に集中していた」

柱谷監督は守備に関して合格点を与えた。

「前半はバタバタしたところが何本かあったが、後半はしっかりと修正できた」

川鍋良祐も手応えを口にする。その一方で、「終盤にサイドでのファールが多い。相手に得点機会を与えないために、要らないファールは減らさなければならない」と反省点を挙げた。これには柱谷監督も同意見で、「ファールが多く、FKを与えてしまい危ないシーンがあった」と修正すべきポイントとして指摘した。

後半33、36分とソニー仙台に肝を冷やされたのは、いずれもFKからだった。また、前節の対佐川印刷SC戦ではファールを重ね、結果的にFKから放り込まれたボールが同点弾の切っ掛けになっていた。自陣ゴール前でのファールは出来る限り減らす必要がある。特に小差の展開、残り時間が僅かの状況では。そして、抗議などによる無駄なイエローカードも。結局は自らの首を絞めることになるのだから。

『不変であり続ける』@栃木SC通信

2008年4月21日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

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足取りが重い。歩くシーンが目に付く。疲労は色濃い。ボールタッチ数は激減していた。後半の半ばから佐藤悠介には疲弊の跡が如実に窺えた。前節の対佐川印刷SC戦、へばっていることを察知しながらも、交代のタイミングを誤った。これが裏目に出る。佐藤は振り切られ、同点弾を打ち込まれる結果を招いてしまった。「攻撃面でうちにとって大きな武器」と柱谷幸一監督が全幅の信頼を寄せていたことが仇となる。途中で引っ込めていれば、勝点を分け合うことはなかったかもしれない。

 

1点のアドバンテージ、11対10、シチュエーションは、ほぼ一緒。同じ失敗は許されない。幾つかの選択肢があった中で、指揮官が切った最後のカードは深澤幸次だった。佐藤に代わり後半34分、今季初の公式戦出場を果たす。試合を閉める役割、“クローザー”として本来は同期であり、ライバルでもある高安亮介が送り出されるのだが、肉離れを起こしたことにより、お鉢が回ってきた。この機会を生かさない手はない。

 

残り時間10分少々、課せられた任務は2つ。先ずキープ力を生かし、前線でボールを保持しながらチャンスを作り出すこと。もうひとつは、斎藤雅也の守備面の負担を軽減するためにサポートを行うこと。

 

ピッチに登場する際、状況は思わしくなかった。しかし、劣悪なピッチコンディションに、下半身が安定している、馬力のある深澤は打って付けの人材だった。足元の緩さなど、ものともしない。旺盛にボールを追っ掛け回す。ポジションに捕らわれることなく、我武者羅に食らい付いた。前線で、タッチライン沿いで、自陣ゴール前で。ピッチの至る所に顔を出した。開幕から6試合、ベンチに入ることすら叶わなかった。その鬱積した思いをぶつけるように。

 

「高安が出ている時、幸次にはいろんな思いがあったはず」

 

柱谷監督が心情を代弁した。

 

後半38分にはPボックス内でドリブル勝負。引っ掛けられて倒されるも、残念ながら笛は鳴らなかった。PK獲得には至らず。それでも、獰猛に、貪欲に。持ち味を見せ付けられた。深澤の活動量が増したことで、一時的に押し込められていた展開が良化した。

 

「重馬場には効く。よくはまった」(柱谷監督)

 

激しくボールにチャレンジする姿勢に、観衆は何時しか胸を打たれ、魅了されていた。深澤の一挙手一投足に拍手が送られる。些か仰々しくなってしまうが、上野優作の先制点が決まった時を凌ぐ熱がスタジアムには充満し、興奮の坩堝と化した。タイムアップに向け、音量を増した手拍子。タクトを振ったのは、間違いなく深澤だった。

 

メンバーが大幅に入れ替わろうとも、栃木SCを見守り続けてきたふぁんが好むのは、気持ちを前面に押し出し、立ち向かっていくプレーをする選手である。

 

それは今も昔も、そしてこれからも未来永劫、不変であり続けるだろう。

『芽生えてはいけない安心感』@栃木SC通信

2008年4月14日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

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ロングボールの雨霰。絶え間なく降り注ぐ。ホームゲームで1点のビハインドを背負う。当然ながら佐川印刷SCは常套手段であるパワープレーを仕掛けてきた。何度、跳ね返してもPボックスをターゲットにボールが蹴り込まれて来る。これを上手い具合にいなし切れなかった。数的優位にもかかわらず後手に回り、圧倒される。

「一人退場してから逆に『一人少ないんじゃないか』と感じるくらい、最後は押し込まれた」

川鍋良祐はそんな感覚を覚えた。

「いいカタチで押し込まれ、結果的に最悪のカタチになってしまった。少しずつでもラインを押し上げてゲームを作らないと苦しい」

逃げ切る態勢は整えられ、プランも出来上がっていた。ダブルボランチの1枚、落合正幸を4バックの前に配置。強固なブロックを構築し、猛攻を弾き返す。相手が前線に人数を割いてきたぶんだけ後ろは薄くなり、カウンターは発動し易い、はずだった。

が、佐川印刷のシンプルな攻撃は予想以上の効力を発揮した。矢継ぎ早に繰り返されたことで、何時の間にかスタミナは削り取られていた。一人ひとりの運動量は低下し、ゴールを意識した動きは乏しくなる。推進力が働かない。DFラインは下がりきったまま。放り込まれてくるボールをクリアする。そのことだけで手一杯になってしまう。前掛かりを逆手に取る堅守速攻のプランは脆くも崩れ、好機すら作り出せない始末。

それでも、我慢の時間帯を抜け出せた。一時的に佐川印刷の攻撃はトーンダウンする。流れを変える機会を与えられるも、栃木SCには力が残っていなかった。形勢を逆転できない。

耐えに耐えて漕ぎ着けたロスタイム。最後のワンプレー、痛恨の一撃を食らう。スコアを2―2に戻された。向慎一は述懐する。

「ここのところキープして試合が終わることが多かった。ロスタイムにこのまま終われるという雰囲気がなかったといえば、嘘になる」

落合が付け加える。

「10人になってから安心しきってしまった。一人ひとりの活動量が不足し、『ここでやらなければ』と思えなかった」

危機感が希薄になり、芽生えてはいけない安心感が劇的なゴールの呼び水となってしまった。

「あと、ワンプレーでしたねぇ」。大きな溜め息をつき、上野優作は続ける。「押し込まれたら、押し込まれたなりのゲーム運びがある」。それは例えばバランスを取りながら機を窺う、例えば奪ったボールを長い時間キープする、例えば相手陣内で試合を進める。つまり、ポゼッションを高めていれば相手に付け入る隙を与えることはなく、攻撃される回数を減らすことも可能だった。しかし、マイボールを大事にせず、単純に蹴り返すことで相手に譲り渡してしまい、嵩に掛かって攻め込まれた。結果的に自分で自分の首を絞めてしまう。絶対優位を勝点3として結実させられなかった。

「失点の原因はひとつではない」と柱谷幸一監督は考えている。例え話を引き合いに出し、語る。

「例えば危険な地域では、鍵がひとつでは足りない。3つかけておく。1つ、2つ外れても3つ目で止める。あの時間帯、あの地域でプレーさせたこと、クロスへの対応。どこかひとつでも鍵がかかっていれば破られることはなかった」

突き詰めればリスクマネジメントが拙かったということになる。刻一刻と変化していく事態への対応力が不十分だった。そして、11対10のメリットが、守り切れるだろうと心に隙を生み出し、何時しかデメリットへと摩り替わっていた。

危殆に瀕しているような心構えは、試合終了の笛が鳴り響くまで、常に持ち続けなければならない。同様のケースに直面した際、2度と足をすくわれないために。 

『プレーの幅を広げる』@栃木SC通信

2008年4月 7日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

134.JPG2トップの高さ、速さ、連動性。栃木SCの強味を生かすには、周囲のサポートは不可欠である。とりわけ2列目がトップにあてたボールを拾えると、一気にゴールへの推進力は増す。

だからこそ、メンバーの選抜基準は明確である。最後尾でボールをポゼッションするよりも、前に前にボールを運ぶことで、それぞれの身上を存分に出せる選手がスタメンに名を連ねている。

「どんどん前に出て行こう。今まで後ろ向きのプレーが多かったので。アグレッシブに前へ」

攻撃面での優位性を発揮するために。果敢に中盤の底から、繰り返し飛び出したのは向慎一だった。「これまで持ち味を出し切れていなかったが、いい部分が出た」と向。向の特長とは。柱谷幸一監督の言葉を借りれば、「2トップの後ろで動ける」「読みの鋭さ」「素早いサポート」ということになる。前線の上野優作、石舘靖樹と連動しながらプレスを掛け、意欲的にセカンドボールを確保するために奔走した。ボールにも人にも粘り強く、食らい付いた。ボール狩りを行い、カウンターの芽を摘んだ。防護壁となる。ただし、前掛かりのプレーは、DFラインの押し上げが図れなかったことで、バイタルエリアを空けてしまう弊害をも生じさせてしまう。若干、前への意識が強すぎたのかもしれない。

しかし、ゴールを意識したプレーは、先制弾となる佐藤悠介のFKの足掛かりとなった。ハーフライン付近でボールを持つ。迷うことなく前方に開けたスペースへドリブルで猛突進。その勢いに気圧されたのか、相手はファウルで止めざるを得なかった。自ら得たFKだけに、「本当は蹴りたかった」と本音がポロリ。結局は佐藤に譲ることになるが、壁に対してフェイントを数回入れることでプレッシャーを掛け続け、集中力を殺いだ。隠れた好プレーである。

「他の中盤の選手は(ゴールを)取っている。交代出場の(久保田)勲さんも。自分も狙っている」

ゴールが全てではない。頭ではわかっている。「FKで貢献できた」ことに満足もしていた。ところが、自然と向の体はゴールを欲し、反応した。前半36分、GKがクリアし損ねたボールから躊躇いなく右足を振った。小林成光がフリーだと知ったのは後のことだった。視野は一点のみを捉えていた。抑えの利いたロングシュートは無人のゴールへ向かうも、クロスバーに嫌われてしまう。44分にも矢のようなミドルを放ったが、今度はGKに阻まれてしまった。

「惜しかった。感触は良かっただけに、決めたかった」

唇を噛んだ。

役割が変わる。落合正幸が後半、前に出たことで後ろに控えた。アンカーを担うことに。どちらかといえば向が前に構え、落合が後ろからフォローする縦関係の方が、チームとしての機能性は高い。長所を前面に押し出すには「黙っていても味方がカバーしてくれる」ぶんだけ前に行った方がいい。だが、「現状に満足したくない」向は言う。

「意識して飛び込み過ぎないように。アンカーとして守れるようになれば、オチさんが出て行ける。プレーの幅が広がる」

前後を固定することなく臨機応変にポジションを入れ替えることができるならば、個人としてもチームとしても引き出しが多くなる。そのためには、「シンはアンカーとして判断力、守備力を上げなければならない」と柱谷監督は補足点を指摘した。

常々、柱谷監督は「シンのところが安定すれば、チームは更に安定する」と話す。期待感は小さくない。例えば、3―0で前半45分を終えた対三菱水島FC戦(5―0で勝利)。低調なパフォーマンスと目に映った向にカミナリを落とし、敢えて交代させずに90分間使い続けた。若い選手のプレーに波があることは織り込み済みである。指導し、修正を施すことで成長することも知っているからこそ、フル出場させた。残りの45分間、指揮官から一定の評価を受ける動きをした。

一足飛びにプレー内容が向上しているわけではないが、着実に進歩は遂げている。攻守のバランスを保ちつつ、自分の色を反映させられるように。もがき苦しみながらひとつずつ階段を上がっていく。  

『チームとしての結果』@栃木SC通信

2008年3月31日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

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柱谷幸一監督は対ガイナーレ鳥取戦の勝因のひとつとして、先ず「流れ」を挙げた。

「刈谷戦のゲームみたいに皆が粘りに粘って、高安(亮介)が突破してFKをもらい、落合(正幸)が決める。そういう流れができている」

食ってやろう。栃木SCに対して敵愾心を剝き出しに襲い掛かってくる相手からゴールを、勝点を奪うことは容易い作業ではない。力量差を埋める要素は、アウェーには山のようにある。自ずとゲーム展開は難しくなる。イニシアチブを握り、アグレッシブに攻め立て、優位にゲームを押し進められる回数は、それほど多くはない。

ならば、対戦相手を勢い付かせることなど、もってのほかである。勝率を上げるためには、勝点を必ず持ち帰るには、先にゴールを与えてはいけない。先手を奪われ、追い付き、追い越すことが、アウェーで如何に困難を伴うのか。柱谷監督は経験則から分かっている。先程のコメントを補足する。

「忘れてはいけないのが小針(清允)のプレー。何本もいいセーブで助けてくれたので、こういう(勝ち)ゲームに持ってこられた」

前後半の90分を鳥取に支配された。栃木SCは特長を発揮することすら許されなかった。押し込められたのだから当然シュートを浴び、決定的なシーンを作られもした。過酷な状況下で仕事量が増えるのは守備陣である。とりわけ最後の砦となるGKは重労働を課せられる。片手では足りないほどの窮地を、しかし小針は飄々と防いだ。失点を喫しても文句が言えないシーンは、数えただけで7本(前半4、44分。後半4分×2、21分、43分、ロスタイム)もあった。時には弾き、時には微かに指先に触れるだけでコースを変えるなど、豊富な選択肢を駆使してゴールを死守した。もはや卓越した技術と俊敏な反応は、栃木SCには不可欠である。これまで消化してきた3試合でも、失点を相当数減らすことに貢献している。ビッグセーブが勝機を手繰っていることに疑いの余地はない。

「Pボックス外からのシュートならば入らない。見て分かる通り、抜けているから心配していない」

辛口で鳴るキャプテン佐藤悠介も、そのセービングに絶大なる信頼を寄せている。

「たまたまついていた。うまくボールに対処できた。コンスタントに今までやってきたことを表現できている」

「チームとしての結果。個人の力による結果ではない。各々が最低限の仕事をしているから結果が出ている」

肯定しない。前者は、神懸り的なセーブでしたね?という問いに対して、後者は、4連勝の立役者ですね?と水を向けられた際の答えである。

少しは悦に入ってもいいものだが、小針は結果が残せていることを、勝ち続けられている原因を「チームの高い意識」と捉えている。ベンチ入りメンバー、遠征に帯同できないメンバー、スカウティングを行っているスタッフなど、チームに携わっている者が高次元で自分の仕事をこなせれば、結果が出ると考えている。

「目立たない方が、僕としても楽だし、それにこしたことはない」

GKの誰しもが持ち合わせる理論を展開しながら続ける。

「でも、そういうことは逆に少ない」

窮地を救うために、優勝、J2昇格を果たすために、栃木SCに移籍してきたとの思いは強い。

「自分としてはチームのプラスになる仕事をしたい。それが多少なりともできている。持続していきたい」

リーグ戦を制覇するには、守備の安定が最優先事項になる。無失点に抑えれば負けることはない。最低でも1は手にできる。今季の栃木SCのテーマは確実に勝点を積んでいくことである。

「小針を中心に粘り強く守れているのは大きい」(柱谷監督)

一方で、小針に対する依存度が高いことは懸念材料でもある。4試合で失点は僅かに1だが、「堅守」「堅牢」などと賞賛できる内容でないことは動かし難い事実である。あまりにもシュートを打たせ過ぎている。チームとして連動した守備が出来ているとは言い難い。

「決して内容がいいわけではないので、どこかで躓くことが出てくる。その時に立て直しが出来るように、勝っているうちに修正して乗り切りたい」

守護神がしっかりと現状を把握し、危機感を持っていることは心強い。最後尾からの冷静な視点で問題点を指摘しながら改善を図り、鉄壁の守備組織と誇れるように。完成形へとより近付けたい。
  

『スタートからやりた