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『一線を退く』

2008年12月 1日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

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295.JPG最終節を控えた11月28日、クラブ側から来季の契約を結ばないことが上野優作(真岡高校出身)と小林成光(佐野日大出身)に通達された。

「今年1年、栃木をJへ上げるために頑張った。上げてからもプレーしたいとの思いでやってきたが、思いは伝わないもの。今年のパフォーマンスでは足りなかったということ。プロの世界はそういうものだと思う。来年も必要とされれば残れた」

プロの世界の厳しさを説いた上野。再びJの舞台に戻り、栃木SCのユニホームを着て戦うことは叶わぬ夢となった。

それは、小林も一緒だった。体はボロボロだった。「辞めようかな」と思っていたところに、高橋高前監督から「Jを目指しているので栃木へ来ないか」と誘われ、2年前に加入した。その思いに応えるために、懸命にピッチを駆け回った。全盛期に比べて怪我の影響もあり、プレーの質が落ちていたことは自認していた。それでも、クラブが必要としてくれるならば、来季も現役を続けるつもりでいた。しかし、提示された額は0円。つまり、来季の構想からは外れた。

請われて自分を育んでくれた地元、栃木へ帰ってきた上野と小林。その時から2人は決めていたという。「栃木に戻ってきた時点で、栃木で『要らない』と言われたら辞めよう」と。栃木以外でプレーすることは頭になかった。最終戦後のセレモニーで上野と小林は、今季限りで一線から退くことを告げた。覚悟はしていたが、いざその時を迎えると涙は止まらなかった。目は真っ赤に腫れていた。

サッカーを通じての出会い、忘れ難い思い出、突っ走ってきたプロ生活を「充実していた」「サッカーをやっていてよかった」と振り返った小林。ピリオドを地元、それも1万人を超えるサポーターが見守るスタジアムで打てたことに、この上ない「幸せを感じた」。「今日のゲームは楽しかった」。泣き顔から一転して柔和な笑みを浮かべて、上野も今季最終戦を思い出深い一戦に挙げた。ボールは自然と上野の元へと集められた。幕引きを自らのゴールで飾れる機会を、チームメイトは作ってくれた。CKから佐藤悠介はピンポイントのボールを、岡田佑樹も良質なクロスを供給してくれた。決めたかったが、無情にも放ったヘディングシュートはいずれもクロスバーに嫌われた。ゴールを奪えなかったことに悔しさが滲んだが、上野は晴れ晴れとした表情で「栃木で引退できたことを誇りに思う」と話した。

ピッチを去っても栃木のために貢献したい。恩返しをする意向を上野と小林は表明した。「これからが本当の始まりだと思う」。栃木県における栃木SCの存在感はJチームとなることで大きくなる。より一層県民に愛され、支持されるクラブとなるためには下部組織の環境整備を行い、「生え抜きの選手」の育成が必要であり、ピラミッドの頂点にあるトップチームの充実も訴えた小林。目は後進の育成に向けられている。具体的なプランを明かさなかった上野だが、栃木には「サッカーが根付く土壌がある」と感じ取っており、選手がいいプレーをすることが更なる盛り上がり、新たなファン獲得に繋がると、こちらも蓄積した経験を伝える仕事に進んでいく方向性を示した。

ゴール数こそ二桁に満たなかったが攻守に献身的だった上野のプレーは尊く、「キング・オブ・トチギ」の名に恥じない姿勢を貫き通しもした。独特のリズムから緩急をつけた、小林独特のドリブルは局面打開には効果的で、精度の高いクロスはゴールを導き出した。

栃木のために、栃木SCのために骨惜しみないプレーをしてくれた上野と小林には感謝してもしきれない。

ありがとう。そして、お疲れ様でした。  

『避けられない作業』@栃木SC通信

2008年11月24日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

fo3.JPGアウェーで勝点1を積み上げる。33戦を消化して6勝5敗6分けと12勝2敗2分け。前者がアウェー、後者がホームの戦績である。圧倒的な勝率を誇る根城と比べるまでもなく、栃木SCは不思議と敵地では分が悪い。相手が上位に位置する、昇格が懸ったファジアーノ岡山(以下、岡山)である点を考慮に入れれば、ドローは次善の結果だったともいえる。ただし、岡山がひとり退場者を出し、「数的優位」の時間帯が60分近くもあったことを差し引けば、である。

岡山は前線の選手を欠いてから、すぐさま守備に人数を割く。失点を喫しないゲームプランを採った。8人が強固なブロックを構築し、引き込んでから機を窺いつつカウンターを打ち込む策に切り替える。その徹底ぶりにPKを阻止したGK小針清允も舌を巻くほどだった。「昇格が懸ったゲーム。岡山は粘り強くやっていた」。柱谷幸一監督も、無失点で凌ぎ切り、あわよくばゴールを陥れようと画策した岡山を称えた。その一方で、厚い壁を突き崩せなかった自軍への不満も口にした。

11対10となってからボールポゼッションは必然的に栃木SCのものとなる。パスは回るが、横方向、或いは相手の2ラインの前で慎重に繋ぐことが多く、つまり縦への勝負を仕掛けるメッセージが込められたボールは数えるほどだった。冒険をしなかった。「無理をしないと点は取れない」。ハーフタイムに柱谷監督は強調したが、アグレッシブに試合を運び、アタッキングサードまでボールを持ち込めなかった。

攻めきれない事態を改善しようと、指揮官は続け様に交代カードを切る。先ず横山聡を入れることで前を松田正俊と2枚にして厚みを加えた。次に向慎一を投入。稲葉が守備における原則を順守できず、機能不全だった右サイドの攻守の活性化を狙った。最後に高さに長ける坂本勇一を送り出した。前線を3枚にして左に佐藤悠介を張り出させ、良質なクロスから1点をもぎ取ろうとした。だが、積極的な交代は実を結ばなかった。入江と向のクロスから迎えた好機。松田と横山はシュートを枠には飛ばしたが、ネットを揺さぶることは叶わなかった。松田のヘディングシュートはジャストミートするも、待ち構えていたGKの懐に収まるなど運にも見放される。

「がっちりと守ってくる相手には攻撃のクオリティが要求される。クオリティの高いプレーをしないと点を取るのは難しい」(柱谷監督)

Pボックス内で数の優位性を活かせない状況ではサイドからのピンポイントのクロスと中のポジショニングが、ゴール前を固められたら精度の高いシュートが物を言う。また、分厚い中央から攻略するためにアイディア、コンビネーション、スピードなど強烈な武器が、もっといえば個の力が要求される。「工夫も足りなかった」と柱谷監督は嘆きもした。例えば、佐藤を中央からサイドに持ち出した際、クロスを上げ易いように2トップがサイドバックの注意を引きつけるなど気配りが必要だったが、あまりにも足りなかった。

僅かな決定機を決め切る最後の部分での精度、崩し切るためのひと手間が欠如したことで、ゴールをこじ開けられなかった。2敗した“堅守速攻”が売りの横河武蔵野FC、勝点を確実に手にするために身上のアタッキングサッカーを封印したガイナーレ鳥取と、今季は自陣にこもる相手に手を焼いた。守備をガチガチに固めてくる相手に対し、いかにしてゴールを取り切ればいいのか。柱谷監督は絶対的なストライカー不在が響いた、と話したことから補強により突きつけられた課題の早期解決を図るのだろうか。それともトレーニングを積むことでゴールに至るルートを増やすのか。来季はカテゴリーが上がることで劣勢に回る展開が増えることが予想されるも、ビハインドを背負えば守備に比重を置くチームからゴールを奪わなければならない。避けられない作業に関する対策の準備は不可欠である。 

『最後の手段』@栃木SC通信

2008年11月17日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

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艱難辛苦の末にようやく手に入れた「J2昇格」へのチケット。だが、昇格条件のひとつである「年間総合順位4位以内」を確定するまでの道程は、決して平坦なものではなかった。

ホーム全勝、勝点83の獲得、優勝。次々に掲げた目標は消滅するも、4位圏内は辛うじてキープし続けた。前半戦の貯金に救われたカタチとなった。開幕から5連勝と好スタートを切ったその序盤戦を、柱谷幸一監督は「予想外」だったという。大幅な血の入れ替えを敢行して迎えた今季。勝ったり、負けたり、引き分けたりする中でチームが成長する姿をイメージしていたが、予想に反して波に乗った栃木SCは僅差のゲームを粘り強く勝ち切る。前期を首位で折り返した。このまま上手く事が運ぶわけがない。案の定、とてつもなく大きな落とし穴が口を開けて待っていた。破竹の勢いで勝点を積み上げてきたチームは、後期に入り躓き、9試合も勝利から遠ざかる。急激な失速に不安と不満の声が漏れ聞こえ始めた。

「一番、きつかった」(柱谷監督)

2―3と4連敗を喫することになったアウェーのSAGAWA SHIGA FC戦を、最も苦しい時期だったと話す。

連敗の入り口となった横河武蔵野FCには堅守速攻のプランに見事にはめこまれた。HondaFCのアタッキングサッカーに涙を飲み、リーグ戦初の連敗。自信回復を図れる期間を与えられて臨んだ対カターレ富山戦では昇格への執念で凌駕され、屈した。リーグ戦再開へ向けた猶予は約1か月。御殿場でミニキャンプを行い、4―2―3―1の新機軸を打ち出した。展開力を上げるために佐藤悠介をボランチに配し、高安亮介が負傷離脱したことで損なわれたスピードを左サイドに稲葉久人を据えることで補填しようとした。万全の準備で挑んだはずだったが新システムは機能性に乏しく、結果は付随しなかった。袋小路に迷い込んだ。

長丁場のリーグ戦では必ず落ち込む時期があることは承知していた。選手、スタッフ、フロントにも、リーグ戦の困難さを説いた。「耐えていれば波は来る」と信じて疑わなかった。一方で、何か手を打たなければ悪しき事態は改善されない、とも思っていた。

幸いにもトライする、手を加える機会が巡ってくる。リーグ戦の合間に挟まれていた天皇杯3回戦、対ロアッソ熊本戦から3―5―2を導入した。急ごしらえのシステムは、しかし望外の効果を発揮する。PK決着だったが勝利を得ることもできた。シーズン前の千葉キャンプから取り組んできた4―4―2を捨て去り、3バックへ切り替える決断を下した当時の心境を柱谷監督はこう振り返る。

「自分の中でも勇気が必要だった。やっていないことをやったので。最後の手段だった」

4―4―2のゾーンで受け渡す守り方は、密なコミュニケーションと迅速な判断力が要求される。肝心な要素に欠けていると見て取った柱谷監督は、ついに英断を下した。守備の安定を求めるために2トップに対して3人で守る、数的優位を保持し続けることを選択した。守備力向上の代償に攻撃力低下を招き、リーグ戦では3連続ドローと勝ち切れなかったものの、山崎透を中心とした最終ラインの安定感は試合を重ねる毎に増した。課題だったゴールを奪う作業は、開幕以降、眠っていた松田正俊の覚醒により解消された。下位の三菱水島FC、アルテ高崎が相手だったとはいえ、2試合で9ゴール(3―0。6―1)は上出来だった。

「負けたことを人のせいにするな。ボクも含めて選手、スタッフには『自分ができることをやることで乗り越えていこう』と話した」

選手は責任の所在がより鮮明化する3バックに短期間で適応した。戦術理解度を高めたのは的確なアドバイスを選手に伝えたコーチ陣。怪我や累積警告により出場機会が回ってきた控えの選手が、主力と遜色ないプレーが出来るようにサポートも怠らなかった。田村仁崇、入江利和の台頭が好例だろう。そして、指揮官は配置転換、数度のシステム変更など思考を巡らし、勝機を手繰れる術を探り続け、最終的に個の特長を引き出せる3バックへと行きつく(高崎戦は4バックだったが、3トップに対して一人を余らせる考え方は一緒)。柔軟な発想が奏功した。

負けが込んだ時期にも下を向くことなく、ポジティブに現状を捉えた結果として、最低限の目標であった4位以内を決めることができた。

個々が役割を全うすることが、結局はチーム力に繋がった。  

『好材料』@栃木SC通信

2008年11月10日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

mm2.JPG小林成光は勝利をじっくりと噛み締め、その味を語った。

「やっぱり最高ですね。苦しかったですから……」

短い感想に思いはギュッと凝縮された。

苦い経験が蘇る。昇格レースの過酷さを、今季も小林は感じ取っていた。「甘くはない」と。昨季、昇格を逃し、苦汁を舐めた。勝ち切れない時期がしばらく続いた。落とした勝点の半分でも手にしていれば、今頃ステージはひとつ上がっていたはずである。

スタートダッシュに成功した今季も同様に、勝利に恵まれない時期が訪れた。リーグ戦には好不調の波がつきものであるが、それにしても長かった。先が見えないトンネルを抜けるのに4ヶ月、9試合も要した。その間、前期に負った怪我から復帰した小林は戦列に復帰するも、コンディションが万全でなかったこともあり、思うような結果を残せずにいた。歯痒さと焦燥が日増しに募ったことは想像に難くない。

星大輔の負傷に始まり、小林、高安亮介、そして岡田佑樹と右サイドは一人が復帰すれば一人が怪我で離脱と、何かに祟られたかのように故障者が相次いだ。システム変更に伴い居場所を失った小林だが、岡田が傷を負ったことで先発の御鉢が回ってきた。

「守備が7、攻撃が3」とやり慣れていない3―5―2の右ウイングバックへの戸惑いは隠せなかった。対三菱水島FC(以下、三菱水島)戦の前半、小林曰く「攻め込まれるとアタフタした」。右サイドは相手の脅威と成り得なかった。チームにフィットできず、もがいていた時だった。逆サイドからのクロスが流れてきたのは。バウンドしたボールを小林は倒れ込みながら頭で押し込んだ。

このゴールには、ある助言が活かされていたと小林は話す。

これまでは左からのクロスに対して内側へ絞ることはしなかった。バランスを考え、相手選手のマークを優先させていたからである。が、阪倉裕二ヘッドコーチと話し合う中で、「詰めていけ」とアドバイスを受ける。それが実ったのが、前半43分の先制弾だった。「トレーニングの成果が出ましたね」。小林ははにかみながら続けた。「怪我をしてからチームに入っていけないと感じていた。それだけに点を取れたことは嬉しかった」。

苦境を脱する一撃を放ったのは、筆舌に尽くし難い昨季の痛みを知る男だった。

勝機を手繰った小林の先制点の足掛かりは、入江利和が供給したクロスだった。先の天皇杯4回戦、対ジュビロ磐田戦では守備に手応えを感じつつも、期待された攻撃面では存在感を示せなかった。前の試合の反省を活かす格好の機会と臨んだ三菱水島戦。入江は3ゴール全てに絡む大活躍をみせた。雌雄を決する3点目は入江自身が決めたものだった。

松田正俊からパスを受けた入江。ドリブルで対面の選手に勝負を挑み、1対1を制した。左サイドを突破した時点でクロスやパスは頭になかったという。選択肢はシュートのみ。振り抜いた左足はゴールネットを揺さぶった。小林のゴールと同じく、入江のゴールにも助言が活かされていたという。

「南(省吾GKコーチ)さんからシュート意識を持てと言われた。それで(アドバイスを活かして)得点ができた」

4バックよりも現行の3バックで特性を発揮できるのが入江。柱谷幸一監督の評価は低くない。しかし、自己採点は厳しい。口を衝いて出るのは課題ばかりである。良質なクロスを上げた前半を「リズムを壊し、ミスが多かった」と振り返り、ゴールに関しても「たまたまです。目に見えるカタチでの結果は嬉しいが、前半が良くなかった。1試合を通していいパフォーマンスがしたい」と辛口だ。

巡ってきた僅かな出場時間でのアピールを定位置確保に繋げた。だが、控えに甘んじていた時期が短くなかっただけに、ワンプレーを疎かにすれば斎藤雅也にすぐさま取って代わられるとの思いが強いのだろう。入江が自分に及第点を与えないのは、満たされることで招くパフォーマンスの低下を防ぐ手段なのかもしれない。

3―6―1におけるストロングポイントである1トップの松田に加え、左右のサイドの入江と小林も結果を出した。チームが乗って行くにはまたとない好材料である。 

『膨らんだJ2への思い』@栃木SC通信

2008年11月 3日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

002.JPG怯むことなく挑みかかり、自分達のゲームプランを愚直なまでに貫き通した。「意欲的なチームだった」。敵将、ハンス・オフト監督の栃木SC評である。

失うものなどない一発勝負の天皇杯。格上のJ1ジュビロ磐田と戦える格好の機会に喜びを見出した。9戦未勝利のチームとは思えないほどの溌剌とした、吹っ切れたプレーを披露した。相手に合わせるのではなく、これまで積み上げてきたものを、栃木SCのサッカーをピッチで表現することが出来た。最終的に1―3と地力の差を見せつられはしたものの、チャレンジャーとして恥じることのない戦いをした。

「負けてしまったのでこんなことを言うのもなんですが、楽しかった。皆もそうだと思う」

バースデイゴールを決めた佐藤悠介は、充足感に満ち満ちた表情でチームメイトの心情を代弁した。

サッカーを純粋に楽しめた。面白くなければサッカーじゃない。そう実感できたことは、昇格レースの重圧に晒され続けている栃木SCにとって、何よりの収穫だったのではないだろうか。サッカーとは本来、難しい顔をしてプレーするものではない。しかし、自然と表情が険しくならざるを得ない状況に栃木SCは身を置いている。佐藤は続ける。

「楽しいだけというのは、あまり好ましくない。でも、楽しみながらやらないと、監督も言っているように見ているお客さんにとってはつまらない。90分で必ず結果は出る。勝負事なので引き分けも負けもあるが、試合が終わった後に楽しいと思えないと」

リーグ戦の残り4試合のプライオリティは内容よりも結果である。勝点3の上乗せが求められる。例えオウンゴールだろうと手にした1点を、手段を選ばずに守り通さなければならない事態にも直面するだろう。結果重視のサッカーは興を殺ぐことと無縁ではない。ただ、退屈極りない勝利至上主義は、クオリティの高いサッカーの放棄と同義ではない。パス、クロス、シュート、ラインコントロール、マーキングと、追求できる要素はふんだんにある。ゲーム全体を通して見れば凡庸でも、細部に見るべきところがあれば満足感は提供できる。個々の意識とゲーム内容が向上すれば、見放されている勝機を手繰る可能性はグッと高まるはずである。内容に結果が付随しない些か不運な状態が、それほど長く続くとは思えない。

自己を磨く極上の喜びを再確認したのは向慎一である。

「相手がJ1なので個人の差が出るのかな、と思っていたが、そんなことはなかった。通用する部分はある。でも、ミスは多かった」

個の力で遜色なく張り合えることに好感触を得つつ、2つの失点に絡んでしまったことに唇を噛んだ。

不足していると痛感したものは、普段から高い意識でトレーニングに臨めれば決して改善は不可能ではない、と実感できた。リーグ戦では打ち切れなかったミドルを2本も放ったことは自信に繋がったと話す。そして、なによりジュビロと対峙したことで己の現在地を確認できたこと、「もっともっと(自分自身を)高めていかなければならない」と強く思えるようになったことは、小さくない。高次元でプレー出来ることは刺激的であり、更なる飛躍が望めると思い至ったからである。だからこそ、階段を駆け上がり、J2へ辿り着きたいとの思いは、これまで以上に膨らんだ。昇格への意欲は戦前と比して格段に増した。

サッカーを楽しめる幸福感。それを抱ける機会と場を失わないためには、ステージを次に移すことが絶対条件である。ジュビロ戦で得た教訓をリーグ戦に持ち込み活かすことで、11月を駆け抜けたい。

『カンフル剤』@栃木SC通信

2008年10月31日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

                       gt2.JPG             勝ち切れた前期と勝ち切れない後期。その差異を、柱谷幸一監督は端的に述べた。

「決定機を決め切れず、守り切れていないことから勝てていない」

粘着力を前面に押し出し、しぶとく戦い抜き、1点差の接戦を制してきた。パッと思い浮かぶのはFC刈谷戦(1―0)、ガイナーレ鳥取戦(1―0)。GK小針清允が好守を連発してゴールを死守。相手が痺れを切らしたところで、数少ない好機を佐藤悠介の左足がものにしてきた。期待に違わず攻守の核である佐藤と小針の活躍が光った。2人を中心に勝利を積み重ねてきたが、2順目ともなれば対戦相手も栃木SCの対策を練り込む。次第に個に依存した戦い方、単調で工夫に欠けるサッカーには陰りが見え始め、失速の一因となる。僅差の展開を勝ちに繋げる作業は容易ではなくなった。

躓きの入り口となったのは、後期第5節のジェフリザーブズ戦である。先行するも土壇場で1―1に持ち込まれた。ここから負のスパイラルに陥った。ドロー後に4連敗を喫する。が、大差での敗北はひとつもなかった。ただ、同点、或いは逆転するだけの力が欠落したことで、悪しき流れを断ち切れなくなる。好調時には取り切れていた1点が、果てしなく遠く感じるようになる。

静観を貫いたわけではない。布陣をいじり、メンバーを入れ替えるなど策を講じた。だが、一旦滞った循環は完全に回復には至らない。ボールをアタッキングサードまで運べてはいる。頼りなかったビルドアップも改善された。しかし、結果が、ゴールが伴わない。内容に乏しかった前期は勝利を得られたのに、内容が上向いた後期に勝利を掴み損ね、足踏みを続けている。「相手にプレッシャーをかけ、突き放す」2点目が強奪できないからである。

その原因を柱谷監督は列挙した。

「ラストパス、最後のクロス、(Pボックスの)中でのパワー」

この3つの条件を兼ね備えていたのは、皮肉にも対峙したガイナーレ鳥取だった。サイドチェンジ、そこからの左クロス、山崎のマークを剥がしてのヘディングシュートと、どれも精度が高かった。失点シーンを振り返り、「前の選手のクオリティが高くないと点は入らない」と柱谷監督は言い切った。

上野優作はサイドに流れて起点を作れ、横山聡はゴール前での嗅覚に優れる。稲葉久人はスピードに溢れ、松田正俊はPボックス内で逞しさを発揮できる。個々に特長を有しているが、ゴールという結果を出せていない。

「武器を持った選手が前にいないとサッカーは難しい」

打つ手打つ手が実らず、9戦も勝利に恵まれない指揮官が、戦線離脱中の高安亮介と石舘靖樹に救いを求めるのも分からないではない。

高安のシャープでスピーディなドリブル突破はいかなる状況下でも相手に恐怖心を植え付けてきた。FKやCKなどおびただし数のセットプレーを獲得し、形勢逆転の口火となってきた。ゴリゴリとゴールしか頭にないと言わんばかりの石舘の突進力は、立ち向かっていく分だけ相手DFにとっては厄介極りないものだった。前線からの激しいチェイシングも守備力向上に一役買っていた。奇しくも両者がピッチに立てなくなってから、栃木SCは低迷の一途を辿っている。

持ち駒で現状を打破できないのならば、復帰してくる選手には酷ではあるが、柱谷監督曰く欠如している「爆発力」を望むしかない。幸い“救世主”は天皇杯4回戦、対ジュビロ磐田戦を挟んで翌週に行われる次節に戻ってくる目処が立っている。

結局は個の力に頼ることになってしまうが、逼迫した状況では贅沢で悠長なことは言っていられない。兎に角、カンフル剤の注入が事態を好転させることを願おうではないか。
  

『一挙両得』@栃木SC通信

2008年10月28日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

 

051.JPG一挙両得とはいかないものである。

4―2―3―1(4―4―2)を3―5―2へシフトしてから、「安定したゲーム運び」、「守備での手応え」を、佐藤悠介を筆頭に選手は感じている。新システムの機能性は低くない。勝利は挙げられなかったが、TDK SC(以下、TDK)戦では、後期第2節の対佐川印刷SC戦以来、10試合ぶりに相手を零封した。失点を喫しなければ極端に勝率は下がらない。個々の守備意識の向上は、これまで先行を許す展開に苦しんだことを考えれば、好ましい傾向にあるといえる。ただし、守備に軸足を置き過ぎることに加えて、3バックが5バックになってしまう状況は、攻撃力が激減する危険性を孕んでもいる。

TDKは栃木SCの両ワイド、岡田佑樹と入江利和を徹底して消しにかかった。中途半端な位置を取られ、起点となられることを恐れたのである。ワイドとサイドバックがサンドすることで進路を妨害し、自軍のワイドの選手を攻撃的に構えさせることで岡田と入江をDFラインへと押し込んだ。

「ボールがうまく回らなかった。自分もボールを受けられなかった」

全く仕事をさせてもらえなかった岡田は唇を噛んだ。

サイドの綱引きに屈したことで優位性は損なわれた。次々と弊害が生じる。5バックにさせられたことで攻守交替時にスタートする位置が低くなり、相手に陣形を整える時間を与え、思うようにボールが運べなかった。攻撃に避ける人数は限られ、推進力は働かなかった。中盤は厚みをなくし、セカンドボール争奪戦でも後手を踏んだ。

サイドを囮にして、中央で2トップが相手センターバックとの2対2の攻防を制することができていればゴールを得られたかもしれない、と柱谷幸一監督は上野優作と横山聡に対する物足りなさを口にした。中央をぶち破る力強さは確かに欠けていた。しかし、前線だけの問題ではない、と佐藤は言う。

「攻撃は水もの。色んなチームが苦労する。『決定力不足』の一言では片付けられない。そこに至ってもいない」

決定力を論じる以前、つまりFWがシュートを打てるだけの機会を作れていない「中盤の未熟さ」も、ゴールを奪えなかった一因だったと話す。シンプルにプレーすればいいシーンでも、手間をかけることで機を逸していた。いい状態でトップにボールを預けられなかったのも動かし難い事実。

守備と異なり攻撃は計算が容易に成り立たない。ひとりで局面を打開できるスーパーな選手は栃木SCには存在しない。攻守の隔たりを無くし、骨惜しみせず全員で戦い抜くしかない。システムを変更したからといってゴール数が急増することはない。だからこそ、「立ち上がりの(好機)一本をしっかり決め切る」集中力と心持ちの重要性を上野は訴え、「打てば何かが起こるかもしれない」と向慎一は果敢にシュートする姿勢を持つべきだと主張する。

近道などない。だが、知恵を絞ることでゴールへ辿り着ける、栃木SCに最適な独自のルートは開拓できるはずである。

「得点力」という古くて新しい命題に挑むことを怠ってはいけない。

『勝利への過剰な意識が芽生えさせた感情』@栃木SC通信

2008年10月20日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

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アグレッシブさを殺いだのは、意外にも勝利への強い渇望だった。

「もう一度、攻撃に行きたいのに行けない。今のチーム状態を表している」

序盤から押し込み、6分にPKで先制点を得るも、嵩にかかって攻め崩せなかったことを、鴨志田誉はそう話す。一気に片を付けるならば、圧倒的に試合を支配した開始15分だった。攻勢の時間帯に追加点を取れなかった代償は、あとあと高くついた。ロスタイムの劇的な同点被弾として。

挑みかかっていく姿勢を試合開始から全面に押し出し、貫き通したことで先の天皇杯3回戦ではロアッソ熊本を葬った。120分間では仕留め切れず、雌雄を決したのはPK戦だったが、「勝ちたい気持ち」で上回れなければ、勝機は手繰れなかったはずである。真っ先に選手が勝因に挙げたのも、メンタルの部分だった。

チャレンジャーとしての気持ちを、特異なトーナメントという環境、相手が格上という条件なしに持続できるか。リーグ戦に向けた懸念は、杞憂に終わる。敵将・与那城ジョージ監督に「想像できなかった」と言わしめるほどの迫力で襲い掛かり、ゴールを奪い去ったからである。目醒めの悪い栃木SCにしては、理想的な立ち上がりだった。

しかし、悲しいかな、立ち向かっていく姿勢は継続性に乏しかった。早々のゴールが、眠っていた弱気の虫を呼び覚ましたのである。そのことを山崎透は否定しなかった。

「前半の早い時間にPKで先制した。そこから気持ちの部分で守りに入ったつもりはないが、弱気になった。『守ろう』と」

縦方向への勝負パスが入らなくなる。ゴールを意識したプレーに欠けた象徴だろう。トップにボールが収められないから、優位性が保てる両サイドが活かされない。脅威は徐々に薄れていった。

「1―0では勝てない。もう1点取りに行こう」

佐藤悠介は、そう訴えたという。おそらく芳しくない現在のチーム状況を考慮しての発言であることは想像に難くない。

だが、周囲の士気は高まらなかった。それどころか、「時間が経つに連れて勝ちがちらついた」(鴨志田)ことで、勝利への意識が過剰に働いてしまったことで、精神的に守りに入ってしまう。ニューウェーブ北九州も手をこまねいていたわけではなく、策を講じてきたが、栃木SCが拙攻を重ねてしまった、との印象が勝った。

尻上がりではなく、尻すぼみとなった展開に業を煮やした柱谷幸一監督は、ハーフタイムに選手へ伝える。

「最後まで自分達のサッカーを積極的にやり通そう」

柱谷幸一監督の思いは響かなかった。後半、引きこもった。自陣から一歩、踏み出す勇気が不足した。ラインは後退を続ける。ボールを掻っ攫っても、味方のサポートがない。出し所がなく、素早い攻守の切り替えが効かなくなる。フリーでボールを持っても、怖いから繋ぐのではなく、蹴ってしまった。ボールポゼッションができなかった。後ろ向きのプレーは、相手に付け入る隙を与えることになる。ボールの譲渡を繰り返せば、形勢が逆転するのも必然である。つまり、振り出しに戻されるのは時間の問題だったのである。

「後半は大事にいこうとした。連敗中の精神状態になっていた。強気でいかないとこの世界ではやっていけない」(柱谷監督)

自信のないプレーはロアッソ戦の勝利で払拭されたはずだったが、悪しき流れと同様に断ち切れていなかったのである。

SAGAWA SHIGA FC戦の後半スタート、天皇杯、そしてニューウェーブ戦の最初の時間帯と、イニシアチブを握ったことで持ち味を発揮するに至った。ピッチに立った選手が感情を剥き出しに、ファイトしたからである。柱谷監督の言葉を借りれば、ボールを受けない、ポジションを取らないプレーは、周りに「伝染する」。要するに、一人でも戦う気持ちを無くせば、それは終戦と同義となる。

チームとは11人の個の有機体である。組織を正常に動かすには、誰一人として気を抜くことは許されない。要求は苛酷であるが、勝者になるためには絶対に必要な条件である。困難であると感じるならば、プロとして生きていくことはできない。指揮官は当然のように考えている。  

『使い分け』@栃木SC通信

2008年10月13日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

208.JPG場当たり的と思われた今季初となる3―5―2の採用は、PK決着(5―3で栃木SC)ではあったが、結果的に吉と出た。

「相手を圧倒し、ボールを支配して、いいゲームができた」

誇らしげに柱谷幸一監督が語った通り、ロアッソ熊本(以下、ロアッソ)を試合内容で凌駕した。

「ブロックを作り、オーガナイズされ、引きだしてからのカウンターにはまった。ラインは高かったが、背後を取れなかった。上手くやられた」

敗軍の将・池谷友良監督は脱帽するしかなかった。それだけ、栃木SCが展開したサッカーはクオリティが高かったといえる。もちろん、成算はあったのだろうが、期待していた以上の効用があった。

敗れ去った先週の対SAGAWA SHIGA FC戦後、険しい表情で柱谷監督は言った。

「一人一人が強い責任感を持ってやらなければいけない」

個々の責任の所在を明確にするには、顕在化させるには4―4―2よりも、1対1の攻防が必然的に増える3―5―2の方が適していた。マークを剥がされれば失点に繋がるリスクを背負うが、一方で強い責任感と危機感が芽生えもする。ハイリスクを覚悟の上での決断は実を結んだ。

相手エース、高橋泰とマッチアップするシーンが多々あった赤井秀行は、「3バックは自分の役割がはっきりする。結構、やり易いですね」と話す。高橋と木島良輔の2トップを赤井、山崎透、鷲田雅一の3枚は抑え込むことに成功した。拙かったビルドアップでも、3人は上手くボールを味方に供給した。

「3か4にこだわる必要はない。役割を見つけ、明確にし、全員が自分の仕事をこなした。結果として+αが出た」

相の手を入れたのはトップ下に配され、推進力を働かせた向慎一。強調したのは失敗を恐れず、「自分達から仕掛ける」アグレッシブな姿勢だった。同様の趣旨のコメントを横山聡も残している。与えられた仕事を着実に遂行し、1対1の局面で、球際の競り合いで後手を踏むことがなければ、イニシアチブを握ることはそれほど難しくない。サッカーの基本を順守したことは、試合を優位に運ぶ上で小さくなかった。

3か4か。「フォーメーションは問題ではない」。表現こそ異なるが、選手は口を揃えた。 佐藤悠介もその一人である。

「3でも4でも11対11に変わりはない。12対11になるわけではない」

独特の言い回しで、システムを論じることには、意味を見出さなかった。ただ、3―5―2では宙ぶらりんとなる、両ワイドの使い方に留意すべきだと主張することは忘れなかった。重要なのはシステム云々ではなく、「ポイントの作り方」である。岡田佑樹、斎藤雅也、途中交代の入江利和と左右のワイドの選手を効果的かつ効率的に操れたことには、確かな感触を得ていた。

今後のリーグ戦に向けて未整備状態の4―2―3―1に戻すのか、それとも3―5―2を継続的に主軸とするのか。指揮官に問うた。

「(3バックに)手応えを感じられた。両方を使い分けられればいい。相手によりメンバーを変える。ゲーム中に使い分けることも出来たらいい」

システムに無理矢理はめ込むことはしない。好調な選手を上手く組み合わせ、それぞれの特長が最大限に発揮できる、プレーし易いものを状況に応じて選択する。フレキシブルに3バックと4バックを併用することを視野に入れている。3か4かの二者択一ではなく、3も4もという欲張りな指針で、残されたリーグ戦7試合を戦い抜く腹積もりでいる。

対ロアッソ戦の選手と同じく、メンバーをいじり、4―4―2から4―2―3―1、さらには3―5―2と負けが込んだ、閉塞した状況を打開すべく、積極的に動いた柱谷監督は賭けに勝った。

もがき苦しんだ末、キャンプからチームが追及してきた柔軟性を、ようやく手にできた。闇の先に光は存在した。  

『思い切れ』@栃木SC通信

2008年10月 5日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

sg1.JPGDFラインからボールを引っ張り出したボランチの佐藤悠介の顔には、困惑と苛立ちが浮かび上がっていた。

首を盛んに振り、周囲をキョロキョロと見渡す。が、ボールを受けようとする姿勢が感じ取れない。ひとつ、ふたつ先のプレーを読んでボールを預かるも、肝心の受け手がパスをもらおうとしないのである。困り果て、憤怒するのも無理はない。パスコースが存在しないことから、佐藤は両手を広げ、「出し所がないよ」と言わんばかりのジェスチャーをするが、それでも味方のリアクションは芳しくなかった。展開力の他にも、トップへとくさびを打ち込むなど、ゴールに直結する勝負パスを供給するために中央に配されたにもかかわらず、期待された効果は佐藤が“孤立”したことにより薄まってしまった。

「(怖がっていることを)プレーしていて感じていた。ボールを受けたがらない。昇格レースの中でナーバスになるのも分かるが、それをひっくるめても足りない部分がある」

佐藤は嘆くしかなかった。

アグレッシブさに乏しかった。挑みかかっていく気概がなかった。その原因を上野優作は、こう見ている。

「チームがしばらく勝てていないことで、調子が悪い選手はどうしてもプレーを怖がってしまう」

自分がミスすることで流れが一気に悪しき方へ傾いてしまうのではないだろうか。そんな恐怖心がボールを呼び込む作業を停止させたのかもしれない。ミスの連鎖に対する怯え。萎縮したことで前線へボールを運べず(運ぼうとせず)。一度はパスを受けるも、再び近付いてパスをもらう基本的な動作は皆無に等しく、だからパスコースは自ずと限定された。1トップの上野へあてたボールを拾うタイミングも、反応速度も相手が勝っていた。兎に角、出足が鈍かった。

「フリーの選手が多いのにボールが入らない。ボールを要求していない」

タイはバンコク遠征にJFL選抜の一員として参加した向慎一は、ベンチからピッチの状況を、そんな風に見詰めていた。停滞したムードを払拭するには、果敢に動き回るしかない。後半途中からピッチに立った向。実行に移そうと考えていた、「ボールを受けて、さばくことを繰り返した」。上手くいかないシーンも、当然ながらあった。だが、周りに同調して消極的に振る舞うのではなく、意欲的にボールに絡んだことで、佐藤へラストパスを通し、決定機を演出した。

「連動してパスを出して、また顔を出す」

トレーニング、或いはトレーニングマッチと異なり、小林成光や落合正幸と有機的に動けなかった岡田佑樹も痛感していた。パスを出す、受けて終わりではなく、フレキシブな対応が求められることを。パス&ゴー、パス&ムーブの必要性を。

現代サッカーは守備の充実により、一本のパスで局面を打開することは困難を極める。絶え間なく動き、ギャップを構築し、生じたスペースを使いこなすことで、ゴールをこじ開ける。肉体的なスピードだけではなく、シンキングスピードも重要とされる。休むことなく体も、頭も働かせなくてはならない。4―4―2のようにバランスが取り易いフォーメーションではなく、アンバランスな4―2―3―1などは頻繁なポジションチェンジなくして、相手を攪乱させ、ゴールを陥れる餌をまくことなど不可能である。パスが出てから動くのでは遅い。起こり得る事態を予測し、察知する。クオリティの高い予備動作こそが雌雄を決する。勝負はボールの無い所から始まっている。止まってなどいられないのである。

しかし、栃木SCの選手は、ボールを散らせる能力を有する佐藤に、ボールをつけた時点で安心してしまい、その後の状況を見守ることが多々あった。「悠介さんが第一になってしまっている。一個飛ばせれば、もっと視野が広がり、いい展開になっていた。簡単につけ過ぎている」(向)。

翻って、SAGAWA SHIGA FC(以下、佐川滋賀)の選手は、気後れするどころか、ボールに触れることに喜びを見出していた。トップ下の中村元は低い位置まで引いて、左ワイドの大沢朋也は内に絞ることで、ボールを巧みに誘引していた。惜しみなく動き回ったことで、捕まえにくいポジションを探り出し、発見した場所で己の役割に徹した。流動的な動きは、栃木SCに決定的に欠けていた要素だった。

新システムは佐藤の特異な資質を活かしきることに主眼が置かれている。が、前を向いてボールを持っていても、味方が動かなければ、突っ立ったままでは、正確無比なキックは宝の持ち腐れとなる。4―2―3―1など単なる紙の上での配置に過ぎないが、それに囚われ過ぎるあまり、動きがぎこちなくなっている。持ち場を放棄してでも、好機と見て取ったならば、大胆に攻め上がる。縮こまっていても、小さなプレーをしても、事態が改善されないならば、いっその事、思い切ってプレーした方が例え勝点を逃したとしても、心持が違ってくるのではないだろうか。

思うに任せない状況だからこそ、敢えてリスクを冒してでも前にでなければならない。活路は黙っていては、開けないのだから。
  

『稲葉の活かし方』@栃木SC通信

2008年9月27日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

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バランスの取り易い4-4-2から、歪な4-2-3-1へと移行したのは、佐藤悠介の展開力と稲葉久人の突破力を武器とした攻撃を展開する狙いからである。完全にフィットしているわけではないが、佐藤のボランチ起用は一定の効果をチームにもたらしている。翻って、左ワイドに配された稲葉は、持ち味を発揮しきれているとは言い難い。

「オカ(岡田佑樹)、成光(小林)、オチ(落合正幸)で作り、悠介を経由してイナのスピードを使う。偏った攻撃が多かった」(柱谷幸一監督)

攻撃の大半は右サイドから。好機も右サイドから生み出された。岡田、小林、落合と3人トリオは連携が出来上がっており、阿吽の呼吸でのプレーが可能である。岡田と小林のクロスの精度が上がれば、強烈なストロングポイントと成り得るだろう。機能性は高い。だからこそ、際立ってしまう、粗が目立ってしまうのである。対面の、左サイドが。

稲葉はドリブルで持ち上がるだけの力を有しているが、利き足が右であるためクロスを上げるのに難儀している。深くえぐっても、クロスが引っ掛かっていたし、切り返しを読まれてはボールを奪われもした。スピードを活かしたドリブルで勝負を挑むことが求められる第一条件なのだろうが、縦に急ぎ過ぎている感もある。周囲のサポートが少なく、孤独な戦いを強いられているともいえるのだが(試合後、マンツーマンで指揮官から指導を受けていた斎藤のパフォーマンスは低調だった)。

フォローに回ろうかと悩んだ1トップの上野優作は言う。

「イナは個人での突破から流れを変えられる。ポゼッションよりも、悠介のサイドチェンジなどで1対1を作り、いいカタチでイナが受けられるようにしなければならない」

チーム全体として稲葉の使い方を見い出せていないのが現状である。個で挑めるが、高安亮介のように1対1に抜群の強みがあるわけではない。稲葉の特長を引き出すには、トライアングルを作ることが必要なのではないか。有機的な右サイドのように。上野が近寄ってあげてもいいし、背後の斎藤雅也が追い越しをかけてあげてもいい。佐藤が前に出てもいいだろう。そうすれば、ノッキング、クロスを窮屈な体勢で上げるケースは半減するに違いない。また、縦、縦の意識が少しでも薄まれば、ボールを落ち着ける、起点になろうとする選択肢が芽生えてもくるだろう。左でボールを収められるようになれば、攻撃に幅と厚みが加わる。

逆サイドからのクロスに対して内側へ絞り込んで飛び込む。稲葉に期待されている得点力の部分での成果は垣間見られるだけに、仕掛ける時とそうでない時の使い分けが出来るようになれば、味方が使い方を理解してあげられれば、柱谷監督が思い描くイメージにより近付けるのではないだろうか。

トライしている戦術は興味を惹かれるだけに、是非ともカタチにしてもらいたいものである。悠長に構えていられるほどの時間と余裕はないのだけれど。

『上策か、下策か』@栃木SC通信

2008年9月22日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

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ボールを自陣で奪ってから、闇雲にトップへボールを蹴り込んでしまう。栃木SCは攻守の切り替え時、縦へ急ぐ嫌いがある。ワンクッションのない、単調な攻撃は前期こそ個々の能力でカバーが可能だったことでゴールを生み出し、勝点3を積み上げるに至ったが、屈強なセンターバックを擁するチームに手の内が知れ渡った途端に効力は殺がれ、失速の一因となった。

そこで、柱谷幸一監督は新たな手を打った。左ワイドからボランチへ佐藤悠介を下げたのである。

「もう少し中盤で落ち着いてゲームをコントロールする。悠介を内側へ入れることでタメが出来る。長いパスを左右に散らせるし、クサビを入れられる」

ボランチを経由地とすることで、展開力に長ける佐藤を真ん中に配することで、安易にマイボールを譲り渡す機会を減らそうとした考えたのである。トレーニングマッチの対大宮アルディージャ戦では、ロングボールを利した攻撃と、佐藤のキープ力を活かした攻撃の2パターンが見られた。まだまだ、ロングボールに頼る傾向はあるものの、些か強引にでも佐藤がボールを呼び込むことでリズムを変えることが出来ていた。ただ、何事にも功罪はあるもので、佐藤のタッチ数が増えることで遅攻に陥るシーンもあった。横山聡は言う。

「悠介さんにボールが入った時に周囲が動かなければならない。悠介さん頼りになるのもどうなのかと思う。周りが感じてあげないと」

佐藤のボランチ起用には、急いてしまう攻撃を一旦スローダウンさせ、中盤の支配力を上げる他にも、実はこんな意図もあった。

「高安(亮介)を失ったことで攻撃のスピードが落ちてしまい、チャンスを作れなくなっている」(柱谷監督)

ワイドには縦への爆発的なスピードと突破力を有したウインガータイプの選手を据えることを好む柱谷監督。佐藤のスキルは群を抜くがスピードに乏しく、小林成光もドリブラーであるが間合いで勝負するタイプである。そこで、白羽の矢が立ったのが、稲葉久人である。敗れはしたものの、アウェー都田での対HondaFC戦での奮闘は記憶に新しい。稲葉の相手ゴールへ向けて突っかけられる、上下動を惜しまない特長を発揮させるために、「攻撃に迫力とスピードを与える」ために、佐藤を後ろに配したのである。攻撃にダイナミズムを生み出すことが主目的であるからこそ、横山の言葉が重みを増してくる。周囲がフォローするタイミング、動き出すタイミングを掴まない限り、アタッキングサードで決定的な仕事が出来る佐藤を一列下げた意味がなくなってしまう。味方のサポートなしには欠如しているスピード感を生じさせることは困難である。

別メニュー調整を続ける高安の復帰は、もう少し時間を要しそうである。あくまでも試験的な、オプションのひとつに過ぎないことから、次節のSAGAWA SHIGA FC戦で佐藤がボランチ起用される可能性は、現時点で未知数である。主力組はゲーム後、輪になって意見を交換していた。当然ながら新システムの導入に戸惑いもある。展開力を高め、スピードアップも同時に図る。欲張りなシステムを、リーグ再開に向けた2週間である程度のカタチにすれば幅は広がる。シーズン前に柱谷監督が理想として挙げた、柔軟性のあるチームに変貌できる可能性はある。また、エンターテイメント性も増す。と同時にリスクも伴うことから、下策に終わるケースも十分に有り得る。

試みたはいいがお蔵入りするのか、それとも終盤戦の主戦術(あるいはオプション)と成り得るのか。後者になることを、使えないと判断した時点で切り捨てる決断を誤らないことを願う。

『精神的な摩耗が招いたパフォーマンスの低下』@栃木SC通信

2008年9月 8日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

kt2.JPG落胆の色は濃かった。溜息をつくように話し始めた。

「分かっているがやろうとする意志が足りない。凄く残念だった」

名指しこそ控えたものの、容易に想像できる。柱谷幸一監督が前半の終盤で交代を告げた深澤幸次に関して主に言及していることを。

「上手くボールが収まらなくても守備で貢献する。動き回り、ボールを追っ掛ける。他にも出来ていないことがあった。メンタル的な弱さを感じた」

キャプテン佐藤悠介と石館靖樹の出場停止により、左ワイドでの先発機会が巡ってきた深澤だが、攻守に漠然とした印象しか残せずに、42分間でピッチを去った。サイドに開ければクロス、内に絞れば2トップと絡むなど、必死に自分の特性を活かそう試みたが、空転した感は否めない。左サイドでコンビを組んだ斎藤雅也を孤立させ、自らも浮いてしまうシーンが目に付いた。持ち味を発揮できなかった。

「何人かプレッシャーを感じていた選手がいた。怖がることはない。(自分のプレーを)やればいいのだが」(柱谷監督)

プレッシャーに蝕まれた一人に、向慎一が挙がる。

「硬さがあった」

向本人の弁である。前半、ワイドの位置でボールを持てる時間があると察知した。距離の近かった深澤のサポートに回れると思った。だが、行けなかった。消極的だった自己のプレーを、こう例えた。「安全牌」。物怖じしないはずの向だが、前へ出られなかった。推進力を働かせ、攻撃に厚みを加えられなかった。ボールを失ってはいけないとの思いが、普段通りのプレーを躊躇わせ、ボールを散らしながら攻撃のリズムを作り出すことを困難にした。リスクを背負う覚悟が不足していた。稲葉久人が投入されてからは、アグレッシブにサポートを行い、前方へ飛び出すことも出来た。途中から修正が利いたのだから、最初から不可能ではなかったはずである。「不満が残る」。唇を噛んだ。

出来るはずのプレーが出来なくなる。原因は明らかである。これまで晒されたことのないプレッシャーである。それは勝利の味を忘れたことで自信を喪失していることに起因している。結果を欲するあまり、プレーが慎重になり、思い切りの良さを損なわせた。

「流れが悪く、ナーバスになっている」

柱谷監督は現在のチーム状態をそう見ている。殊に大卒新人、または2、3年目の選手が精神コントロールに欠けている、と見て取る。大学リーグでの豊富な経験を有していても、舞台が変われば、圧し掛かるものも自ずと変化する。今現在、プレッシャーを上手く処理することが出来ていない。

チームの編成上、若手を起用せざるをえない。脆弱なメンタルでは、この先の胃がきりきりするような昇格レース終盤を勝ち抜けない。そこで、メッセージを発した。開幕からセンターバックの一角を占めてきた川鍋良祐を外したのである。代わりに入ったのはベテランの照井篤だった。起用の意図は、こうだ。経験のある選手のプレーを見せることで若い選手に刺激を与える。2失点はしたものの、照井自身のパフォーマンスは及第点だった。声を張り上げ、球際では激しく当たっていた。闘志は全面に押し出されていた。しかし、カンフル剤とは成り得なかった。指揮官の思いは届かなかった。

萎縮した選手がいた一方で、溌剌とプレーした選手もいる。交代出場の稲葉である。1対1になれば果敢にドリブルで勝負を挑み、FWとポジションを入れ替えてはゴールを狙いもした。手詰まりの状況を打開し、起点を構築したのは紛れもなく稲葉だった。縦へと仕掛け続けた稲葉でさえ、「首位のプレッシャーがあると感じるし、重みを感じている」。削り合いを続けることによる精神的な消耗は、ここにきて小さくなくなってきている。精神的疲労はパフォーマンスの著しい低下を招いている。

「若い子たちにいいプレーを出させてあげたい。いい面を引き出してあげたい」

ゲームキャプテンを務めた落合正幸は、経験で劣る若手を伸び伸びプレーさせられなかったことを悔いた。だが、柱谷監督の言葉を借りれば、「大卒は(経験が)浅いではすまされない」。結束力は勝者となったカターレ富山を見れば分かるように重要ではあるが、経験値に勝る選手に頼りきりではチームとしての機能性は高まらず、個人の成長も望めない。

首位から滑り落ちたことで一戦の比重は、より一層高まった。10月に入ればノンストップで身を引き裂かれるような激戦が続いていく。常人には計り知れないプレッシャーが襲ってくる。それを力に変換できるだけの精神的な逞しさ、余裕がなければ押し潰されてしまう。幸いチームには佐藤という逆境をプラスに転換できるクラッチプレーヤーが、最高のお手本がいる。話を聞いてもいいだろうし、一挙手一投足に目を凝らすことで必要な部分を盗むのもいいだろう。決定的に欠落している自信を取り戻すには、自らがアクションを起こし、勝ち取るしか他に手はない。

対ファジアーノ岡山戦ではフィールドプレイヤーの平均年齢が低かったにも関わらず、勝利を飾ることができた。ベテランの後方支援があったにしても、若手主体でも十分に戦えることは実証されている。どんな状況であろうと縮こまることはないのである。  

右サイドの起用法@栃木SC通信

2008年9月 2日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

mt8.JPG骨惜しみない上下動、的確なカバーリング、機を見た攻撃参加。岡田佑樹の独自色は助走をつけられる適度な距離を保持していた方が、つまり最終ラインに配されることで、より濃くなる。

岡田が高位置に張り出し、ボランチの落合正幸が加わり、相手のサイドバックとセンターバックの注意を引く間にワイドの小林成光が背後を突く。トリオに2トップも絡んだ、熟成度の高いコンビネーションは幾度も右サイドを破った。対水戸ホーリーホックとのトレーニングマッチで奪ったゴールは、いずれも右からだった。

「右サイドは凄くよかった」

柱谷幸一監督は岡田と小林が盛んにポジションチェンジを繰り返したことに高評価を与えた。深澤幸次と斎藤雅也の関係性が不明確だった左サイドが機能性に乏しかったことで、右の充実度は際立った。

起点となった右サイドの起用に関して柱谷監督は、こう話す。

「マサミツ(小林)がいい状態ならば、(後ろは)オカ(岡田)かヒデ(赤井秀行)。悪ければヒデとオカ」

稲葉久人もトップ以外にワイドを務められるが、「ゲームで勝負を賭けるところで使いたい。先発もよりも、(手元に)持っておきたい」ジョーカー的な起用法を考えていることから、自動的に小林と岡田と赤井の3人が2枠を争う。

小林と岡田、岡田と赤井、小林と赤井。都合3セットできるわけだが、岡田と赤井が組むと守備の強度は増すものの攻撃力が些か落ちること、4-4-2のワイドには一芸に秀でた例えば高安亮介のスピード、例えば佐藤悠介の高性能の左足と武器を有する選手を据えることでフォーメーションの「優位性を発揮したい」と口にした柱谷監督。負傷離脱中の高安を欠く現時点では、小林と岡田の組み合わせがファーストチョイスとなる。

カターレ富山戦はゴールの大半に絡んでいる佐藤が出場停止。左の破壊力がどうしても低くなる分だけ、右の重要性が増してくる。開幕から波のない、安定したパフォーマンスを披露し続ける岡田に、コンディションが回復した小林が仕掛けるアタックが次節のキーポイントになることは言を俟たない。

『植え付けられた意識』@栃木SC通信

2008年9月 1日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

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同点弾をぶち込んだ向慎一は言う。

「打てる場面で僕等、中盤も打っていく。そういう部分を実行する。シュートだけが重要ではないが、回数が少ないゴール前へ行く意識を変えることで流れが変わると思う」

HondaFC(以下、Honda)戦ではピッチに立てなかった。外から戦況を見詰め、思った。「シュートが少ない」と。実際に記録されたシュートは僅か数本だった。リーグ戦のつもりで臨んだという水戸ホーリーホックとのトレーニングマッチ。「アタッキングサードに入ったらシュートを打ってやろう」。フィニッシュへの意欲は自信に繋がるゴールとして結実した。

「シュートは枠を外れていたかもしれない。でも、(シュートを打つ)意識があったからこそ決まった」

充実感が漂う。

向の一撃は流れを引き寄せ、反撃の狼煙となった。チームは活気を取り戻し、逆転勝利を飾ることになる。試合終盤には疲労と打撲によりパフォーマンスは落ち、ミスが目に付いた。柱谷幸一監督は「ボールへの寄せの甘さ」を指摘した。守備面では課題が残った。しかし、Honda戦で感じた物足りなさを、持ち前の推進力を生かすことで埋めることは出来た。自身とチームの問題点をひとつ克服した。

「ボランチがゴールを目指していく。結果にこだわりたい」と話す向は、「流れを変えられる原動力になれれば」とも口にした。悪しき流れを断ち切るには、「TMなので逃げるプレーよりはチャレンジする」積極的なメンタリティーを兼備した、ミスを恐れない選手が求められるのではないか。向は起爆剤に成り得る資質を有している。

意識が変わったのは個人だけではない。

「前へボールをつける。シン(向)にも言っていた。前へボールを入れるように」(上野優作)

ポゼッションを意識したトレーニングを入れたことにより、これまでのボコボコ前線にハイボールを蹴り込むだけの単調で退屈なサッカーからの出口を見い出せた。出足の鈍さに起因する失点はいただけなかったが、痛みを味わったことで目が覚めたのか、ボールはテンポよく芝の上を走るようになる。

前半、バックパスが目を引いた。相手のプレスに萎縮した部分もあったことは否定できないが、意図の乏しいロングボールを闇雲に蹴ることからの、簡単にマイボールを譲り渡すことからの脱却を図る狙いがあったと柱谷監督は話す。一旦、最終ラインで作り直し、ボールを動かすことで相手の陣形が崩れるのを窺うことを心掛けさせたという。感触は悪くなかった。まだ、自陣の深いエリアで奪ったボールを単純にトップへ放り込むシーンは見受けられるが、以前よりは減少傾向にある。

ビルドアップが滑らかになる兆しは感じ取れた。1タッチ、2タッチでボールを回してトップにボールを預けることは、屈強なセンターバックがいればクサビを潰し、カウンターを受けるリスクは伴うものの、一方で攻撃の幅は拡がる。セーフティに事を運ぶことも時には必要であるが、終盤になると一層心許無くなるポゼッションが高まれば、いなせるようなボール扱いがチームとして可能になれば、グンと勝率は上がる。

ボールを大切にする気持ちを植えつけられたのだから、水を絶やさずあげることで根を枯らさないようにしなければならない。

『ラスト15分で得たもの』

2008年8月18日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

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目の色が変わる。表情は激変した。運動量は上がり、神経は極限まで研ぎ澄まされた。ピンと張り詰めた緊張感がピッチに漂う。所謂、アラート(用心深い。機敏な)な精神状態に自分達を持ち込んだ。リードしていたはずのHonndaFC(以下、ホンダ)が怯むほどの迫力と勢いが、栃木SCにはあった。

着火役を担ったのは、稲葉久人だった。2トップの一角である石舘靖樹が退場してから前線で孤軍奮闘。味方から供給されるアバウトなボールでさえも必死に追い掛けた。「勝ちたい」。アスリートが持ち合わせていなければならない当然の飢餓感が稲葉を奮い立たせ、突き動かした。何時の間にか、「疲れは忘れていた」という。「夏場に強い」。そう豪語しただけのことはある。豊富なスタミナでじわじわと流れを引き寄せた。

一人少なくなってから暫くは攻めあぐんでいた栃木SCであるが、久保田勲は高位置でボールを掻っ攫ってからカウンターを打ち込もうと構え、岡田佑樹は内側へ絞りフォローに回りつつ持ち場であるサイドで勝負を仕掛けるなどした。ゴールへの意欲は格段に高まる。愚直にボールへと喰らいついた、稲葉の姿勢は無駄骨とはならなかった。チームに波及効果をもたらし、ゴールをも呼び込んだ。佐藤が決めた同点となるPKは、岡田と稲葉が奪ったものだった。

ロスタイムに被弾。1―2で敗れた。結果はまたしても付いてこなかった。負のスパイラルからは抜け出せていない。しかし、窮地に追い込まれたことで闘争心を剝き出しにし、ゴールを取り切った時間帯は、今後へ向けた微かな光明だった。

リスタートにおける課題を挙げながらも、GK小針清允は言った。

「今日の収穫は一人少なくなってから1点を取るまで集中してやれたこと。負けられないとの意識が高かった。評価できる」

追い付くまでスマートさとは縁遠かった。むしろ、我武者羅で不恰好だった。引けを取っていた球際で負けなくなったのは、気持ちの占める割合が大きかったことが容易に想像できる。

“しゃかりき”。そんな言葉を使えば一笑に付されてしまうかもしれない。懸命に戦っていないはずはないと激怒されてしまうかもしれない。だが、ここ数試合、薄まっていた逞しさと力強さが僅かながら窺えたのが、ホンダ戦の残り15分間だった。

思い起こせば開幕から楽な試合などひとつもなかった。戦力は充実していたものの、決して突出した存在ではなかった。実際、拮抗した展開、競ったゲームが繰り返される。0から立ち上げたに等しいチームは、苦しみ抜いた末に連戦連勝を飾った。傑出した個が他を引っ張ったとの事実は否定できないが、結束力とハードワークなくして勝利は掴めなかったはずである。

「皆がもう一度、シーズンに入ってから最初の段階でどうして勝ち続けられたのか。思い出さなければならない。ハードワークして、苦しまなければ勝てない」

GK小針は現状を打破するためには、原点に立ち戻ることが必要だと訴える。そして、ひとり削られてからではなく11人の時、ゲームのスタートから引き締まった状態で、つまり高い意識を持って臨むべきだとも話す。それが不可能であるならば、「JFLでも勝つことは難しい」とも言ってのけた。

悲しいかな閉塞空間からの突破口を探し出せたのが、ビハインドを背負った状態からではあったものの、得たものが皆無であるよりは遥にいい。

勝点を逃したことは痛かったが、勝ち切るためのヒントは手に出来た。中断後、明確な解答を選手達は提示しなければならない。
  

『体裁を取り繕う暇などない』@栃木SC通信

2008年8月10日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

165.JPG歯が立たない。今季、栃木SCが拠り所にしてきた「ホーム全勝」も「挽回力」も。はまりこんだ悪しき流れの前では。

開幕からの好循環は、ここにきてついに滞った。前節、上手く歯車が噛み合っていないことを上野優作は指摘している。前期はものに出来た接戦を勝ち切れなくなってきた、と敏感に察知したからである。ジェフリザーブズ戦では1点のリードを守りきれず、MIOびわこ草津戦(以下、ミーオ)では劣勢を覆すもその後の数的優位を活かせず、横河武蔵野FC戦(以下、横河)では引いた相手を攻め崩せなかった。

波間にある苦しい現状を象徴するかのようなシーンが、2戦連続して見受けられた。対ミーオ戦の前半11分、対横河戦の後半20分。ゴールほぼ正面。プレイスキッカーは、もちろん佐藤悠介。高性能の左足ならば射程圏内の距離である。きっちりと枠へと飛ばす。だが、2度ともクロスバーを叩いた。これまでならばゴールネットを揺らしていたはずのボールは、ゴールマウスに嫌われ、綺麗に弾かれた。佐藤は頭を抱え、思わずその場にしゃがみ込んでしまった。苦境を打破してきた絶対的な武器の効力も弱まっている。

ツキも味方に勝利を積み重ねてきたチームは、そっぽを向かれ始めた。由々しき事態である。勝ち運が尽きたわけではないが、勝機を手繰るには相当の労力を要する期間に突入してしまった。

柱谷幸一監督は痛感している。「2点以上を取らないと勝ちゲームを持ってくるのは難しい」と。偶発的な要素による失点も考えられる。今の守備力では、1点を守り切ることは困難を極める。だからといって、攻撃陣への過剰な期待は禁物である。常にゴールが奪えるほどサッカーは甘くない。2順目に入ったことで対戦相手も研究を重ね、対策を練り込んできてもいる。易々とゴールに勝利を譲り渡してはくれない。横河戦では数多くこしらえた好機も、今後は減少する傾向が予想される。今まで以上に求められるのはラスト3分の1での精度であり、絶好機を逃さないという固い意志であり、流れを掴んだ時に一気に押し切ってしまえる力強さである。

翳り出した勢いを取り戻し、再び加速させるのは簡単ではない。昨季、東京ヴェルディで昇格レースに身を置いた佐藤は、素直に力不足を認めた上で言う。

「変えていかなければならない。劇的には難しいが一人ひとりが意識を変えれば変わっていく。問題は多いが一つ一つ改善できるものからやりたい」

どん底から一足飛びに這い上がることなど出来ない。優れた効能を有する薬も存在しない。しかし、しょぼくれ、静観しているだけでは変化は起こらないし、起きるはずがない。再度、自分達が何を目指して戦っているのか。見詰め直す必要がある。

海の奥深くまで沈んでしまったのだから、この際ジタバタもがこうではないか。プロ化により手にした勝敗に対するドライな一面は今現在、不可欠な要素ではない。もっと声を出し、泥臭く、気持ちを前面に押し出していかなければならない。体裁など取り繕う暇などないのだ。誰が音頭を取ろうと構わない。徹底的に話し合い、改善点を炙り出し、突破口を見出すべきである。ズルズルと尾を引き、悲嘆した昨季と同じ轍を踏まないためにも。

『苦難は幸福』@栃木SC通信

2008年8月 5日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

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庇護する訳ではない。失点がかさんでいることは厳然たる事実であり、顕在化している。守備陣に責任転嫁してしまえば、肩の荷は幾分か軽くなるだろう。しかし、問題点を他人に押し付けることで得られるものなど多くはない。むしろ、空中分解を引き起こす種を蒔く行為に等しい。

横山聡は言う。

「失点は守備陣だけの責任ではない」

序盤の連続失点は確かに痛かった。それが最後まで響いたことは追い付くのが精一杯の状況が、ドローという結果が、如実に示している。2点差を引っ繰り返すことは容易ではない。ここ数試合、先手を取られていることも気掛かりである。それでも、守備陣を槍玉に挙げることはない。「後ろはしっかりやってくれている」という思いに加えて、振り返ってみれば「守備陣に助けられた試合が多かった」と考えてもいるからである。

瞼を閉じればGK小針清允を中心とした守備陣が踏ん張ったことで、小差のゲームを勝ち切ってきた絵が浮かぶ。攻撃陣がゴールを奪えなかった時、耐えてくれたのは後ろの選手達である。とても批判する気にはなれない。

「暑い中で3点を返すのは難しい」。横山はそう思う一方で、こんな感情も抱く。「引っ繰り返すチャンスはあった。前がチャンスを決め切れなかったのは力が足りない」。リーグ最小失点の肩書きは失われた。壊滅的な状態にあるからこそ守備陣を攻撃陣が盛り立て、リードしていく必要がある。そうすれば悪しき状況は好転するかもしれない。

上野優作も失点の原因を守備陣に限定することは、得策ではないことに同意している。

「守備陣だけではなくチーム全体、FWも含めて守備をもう一度考えたい」

具体的な改善点を上野は話す。FWは前線からのボールの追い方、ボールの失い方ひとつにしても細かく気を使うべきだと。ボランチの鴨志田誉は、ボールを奪う位置に注意を払うべきだと説く。DFラインを上げるのか、それともFWを下げるのか。明確にしなければ、失点は止まらないと言い切った。前線と中盤の助けなくして、堅固な要塞は築けない。

GK小針の好守により前期は覆い隠されていた欠点が、ここにきて浮き彫りになってきた。チームに波があるように、GK小針にも好不調はある。また、リーグ戦にはバイオリズムが付き物でもある。栃木SCとGK小針の状態は芳しくない、と言っても過言ではない。

集中力を維持できないことが失点に直結し、勝点3をものに出来ない要因なのだろうが、「上手く歯車が噛み合っていない」ことも無視できない。クロスゲームを勝ち切れた要素が薄くなった今、安定感のある試合運びをするには、やはり「今まで以上に守備意識を高める」(横山)ことが求められる。

誰もが現状に喘いでいる。何かを勝ち取る厳しさは想像を絶する。重圧は生半可なものではない。だが、苦難を乗り越える機会を与えられているクラブは、ほんの一握りに過ぎない。発想を転換すれば極上の幸福を味わっているともいえる。

困難な事態に直面してもこれまで乗り切ってきた実績を、どん底に居る時こそ活かすべきである。  

『過剰な守備意識が殺いだ躍動感』@栃木SC通信

2008年7月28日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

013.JPGFKから集中力が途切れたことより喫した失点を悔やむ一方で、「1点では試合展開は分からない。1―0の状態で取っておきたかった」と、柱谷幸一監督は次のゴールが遠かったことを嘆きもした。

栃木SCもジェフリザーブズ(以下、ジェフ)も、堅牢な守備ブロックを構築したことで、前半はゴール前の攻防が極端に少なかった。両者ともに手堅く試合を進めたことで見所に乏しかったが、35分に佐藤悠介の個人技でジェフの守備網をぶち破り、先制する。数少ない好機をゴールに結んだ。

ここ数試合の失点数、不得手のアウェーという状況を考慮すれば、僅差では勝ち切れない、との思考が働くのは道理である。2点目を狙いに後半頭から攻めに打って出る。大人しかったジェフとは対照的に、栃木SCはじわじわと圧力を掛け、雌雄を決するゴールを奪いに行った。ゴールへの意識は格段に高まったがシュートを浴びせられず、中盤に差し掛かるとペースダウンしてしまう。試合開始前からしとしと降っていた雨が上がったはいいが、止んだ途端に今度は湿気が急上昇。いくらフィジカルに分があるとはいえ運動量は落ちる。勢いは削がれた。

なるほど、体力の低下は動かし難い事実だった。足取りは重くなっていた。しかし、拙攻の原因はスタミナの消耗に限ったことではない、と落合正幸は言う。

「弱気になってしまったことで周りが下がってしまった」

スリッピーなグラウンドでしっかりとボールを止めて蹴る作業が、プレッシャーに晒されても出来なかった。メンタル面で守りに入ったことが決定機を生み出すことを阻んだ。「ボールを取った瞬間に拡がる、受けに行く、サポートに入るなどの動作が足りなかった」。

そして、落合はこうも言っている。

「守備から(攻撃に移る際)休む時間が長かった」

効率のいいカウンターを繰り出しはしたが、ゴール前に顔を出した人数は数えるほどだった。「ボールを取ることに一杯一杯」。守備一辺倒になったことで、カウンターから鋭さは失われた。つまり、守備に神経を割いたことが、攻守の切り替えに時間を要するという弊害に繋がってしまった。0に抑えよう。意思統一はいつしか強迫観念に摩り替わり、出足を鈍らせた。

途中からピッチに立った小林成光は、ボール回しから微妙な気持ちの揺れを感じ取っていた。リードしていることからセーフティに試合を押し進めるのか、それともリスクを冒して追加点を取りに行くのか。方向性が定まっていなかったことで、好機を演出するような仕掛けができなかった。「しっかり前を見ていたら起点が出来ていたはず。安全なプレーを選んでしまった」。前への推進力が働かないはずである。

連続失点を食い止めなければならない。過剰なまでの守備意識は破綻をきたしはしなかったが同時に、攻撃から躍動感を損なわせもした。

攻守におけるバランス感覚は難しい。オープンな展開から失点をしなかったとはいえ、無失点に封じられなかった。1点は手にするも、2点目は掴めなかった。現状では1点を守りきることは容易ではない。だからといって撃ち合いを挑み、大雑把な試合が続くようでは自信喪失気味の守備陣の再構築は図れない。実に悩ましい。

キャンプから取り組んできたチームコンセプト―失点をせずに僅かな好機を決め切るという原点に再び立ち返る時期なのではないだろうか。中断期間に修正を行えばいいと悠長なことはいっていられない。横河武蔵野FC、HondaFCと譲れない難敵との対戦が控えているからである。

「一人ひとり僕自身も含めて今日のゲームで学んだことを活かし、カタチにしなければならない」(佐藤)

時間は待ってくれない。

「集中しなければならないというよりも、(課題を克服するために)行動に移す姿勢を持たなければならない」(落合) 

火曜日、平出のトレーニングから正念場に向けた戦いが始まる。  

『再出発』@栃木SC通信

2008年7月13日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

sony2.JPG2ヶ月ぶりの戦線復帰は小林成光にとって、ほろ苦いものとなった。

後半17分、上野優作のゴールによりスコアは2―2のタイとなる。アウェーで勝点1を拾うのではなく、あくまでも強気に勝点3を取ることを選択した柱谷幸一監督。当初のゲームプラン通りの選手交代をする。稲葉久人と小林の2人を一挙に投入。嵩に掛かって攻め立て、逆転勝利を目論んだ。勝負に出る。

小林が配されたのは本職の右ワイドではなくトップ下だった。つまり、フラットな4―4―2の中盤は、ひし形に変更されたのである。底に落合正幸、左に佐藤悠介、右に高安亮介が入った。「守備を意識しながら2トップをサポートする」役割を小林は任される。

ゴールを得た余勢を駆り、流れは僅かに栃木SCへと傾いた。上野と「チームに入っていけなかった」とは言うものの小林が高位置でプレーをすることで、前傾姿勢をとれたことは小さくなかった。ソニー仙台FC(以下、ソニー)陣内で過ごす時間は増える。さらに拍車を掛けようと柱谷監督は最後のカードを切る。疲労の色が見て取れた岡田佑樹を下げ、斎藤雅也を送り出した。左サイドの赤井秀行は右へ回る。フレッシュな斎藤にはサイドの攻防で主導権を握って欲しいとの思惑があった。

果たして、打った手は功を奏しなかった。一時的に盛り返すも、決勝点を掴み取ったのはソニーの方だった。長身FWにハイボールを競らせ、セカンドボールから手数をかけず、カウンター気味にゴールを陥れる。講じた策は見事なまでに的中した。

小林は認識の甘さを口にする。

「もう少し守備の時にポジションを下げてから出て行けばよかったかもしれない。あそこまで簡単にDFがやられるとは思っていなかった」

1ボランチの落合と小林は話し合った。バランスを崩してでも前に残ってプレーしてもいいか、と。

「点を取りに行かなければならない。アグレッシブになるのは当然」

落合の考えである。

小林は出来る限りゴールに絡める、またはゴールを決められる位置にいようと思い至った。小林を押し出した落合であるが、実はかなりの疲労が蓄積していた。試合後、小林は落合と言葉を交わした。「厳しかったです」。落合は体力の消耗が激しかったことを告白した。それは終始、追い掛ける展開を自ら招いてしまった守備陣にも該当していた。致命的な3失点目の足掛かりとなるポストプレーを潰せなかった川鍋。踏ん張りがきかなかった。

「ロングボール1本に対応しきれなかった。なんとか修正したかったが、(1点目と)同じカタチからやられてしまった」(落合)

守備陣の口をつくのは反省の弁ばかりである。個で負けなければ失点を食らうことはなかった。シュートを打たれる際、人数は足りていた。ひとりがアタックに行き、もうひとりはカバーに回れた。だが、あと一歩が出なかった。詰めきれずに失点を喫する。

だからこそ、小林は後悔した。自分が一旦下りてから挟み込むなどしてボールを奪い、それから前に出るべきだったのではないか。サポートしてから攻撃に移る手もあったのではないかと。味方の疲労度までは読み切れなかった。

小林と稲葉で前線を肉厚にし、サイドのてこ入れに斎藤を起用。積極的な選手交代と配置転換により、アンバランスは覚悟の上で勝利を追求した。リスクを負った采配は責められないが、反撃の芽を摘んでしまった守備陣は猛省をしなければならないだろう。

「開始早々、セットプレーとしてはいけない失点だった。2―2に追い付いてからもわりと早い時間に失点をした。ボクも含めて守備はいいところがなかった」

苛立ちを押し殺しながらGK小針清允は3点も献上した拙い守備の不甲斐なさを語った。

2試合連続の零封により立て直しの兆しが窺えた守備だが、大量失点による敗戦で築き上げつつあった自信は揺らいだ。

一から出直しである。

『現実との折り合いをつけながら』@栃木SC通信

2008年7月 9日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

タッチ数の少ないパス回しは相手を寄せ付けなかった。そこには確かな“美”が存在した。

岡田佑樹が打ち込んだクサビを上野優作が処理。サイドへと叩かれたボールを受けた高安亮介が駆け上がり、供給したクロスに石舘靖樹が右足ダイレクトで合わせる。スピーディかつ連動したプレーはゴールとして結実しなかったが、先制パンチとしては十分であり、娯楽性に富んでいた。

対佐川印刷SC(以下、佐川印刷)戦、キーマンに指名されたのは上野だった。スタートからのパートナーである石舘、右ワイドの高安、途中出場した稲葉久人と、スピードを特長とする選手達を活かすには、上野がボールをしっかり前線で収めることが求められた。

「攻撃のポイントである上野にボールが入り、展開することができた」(柱谷幸一監督)

これまではロングボールを蹴り込むケースが多かった。しかし、佐川印刷戦では上下の使い分けが出来ていた。相手CBに強さと高さがあったこと、バイタルエリアが緩かったことで、序盤から栃木SCはコンビネーションを駆使し、フィニッシュまで持ち込んだ。

とりわけ目を引いたのがグラウンダーのパスだった。石舘がニアサイドに飛び込んだ前半2分のシーン以外にも、6分には落合正幸のクサビから石舘が上野との壁パスを使い左足を振り、14分には高安→石舘→佐藤と流れるようにボールが渡り最後はオーバーラップした赤井秀行が内側に切れ込みシュートを放つ、岡田から佐藤を経由したボールから石舘のGKを強襲するシュートは19分に生み出された。過去18戦を振り返っても、これだけボールが選手間を走ったことはなかった。試合の入り方こそ悪かったものの、攻撃面に関して言えば追求している理想のカタチが作り出せていた。

「紅白戦からいいイメージを継続できた」と話す上野は続ける。「珍しくボクからいいパスが何本かありましたよね。引いてボールをもらってからターン。あそこ(バイタルエリア)で受けられるとチャンスが増えますよね。怖がらずに受けるようにしたい」。

前期のカターレ富山戦後に上野は「(バイタルエリアに)ワンクッションあれば、違う展開ができる」と述べていた。相手が警戒すべきエリアへの注意を怠ったとはいえ、見逃すことなく上野を筆頭に佐藤、石舘が顔を出すことで攻撃は多彩なものとなった。タメが出来れば幅は広がる。「的を絞らせない栃木は強い」。敵将は兜を脱いだ。

細かなパス交換を軸に守備網を切り裂く。時代の潮流に乗った攻撃を繰り返せた。ワクワク感を提供するに至るも、柱谷監督の要求は高かった。厳しい注文がつけられた。

「もっとやれると思う」

中盤、DFラインからトップに入れるボールが少ない。もう少し大胆にスペースと足元へパスを出すことで起点が構築でき、さらにダイナミックな攻撃を仕掛けられたと指揮官は感じたようだ。それゆえ、先の発言に及んだ。

パス成功率、ポゼッションの高さは勝利と密接な関係性を持つとは限らない。加えて今季の栃木SCは優勝、そして昇格という目標を是が非でも果たさなければならない。プライオリティは結果に置かれる。些かの退屈さと引き換えに勝点を手にすることを選択せざるを得ないのである。

だがそれでも、観衆を魅了する作業は放棄できない。土曜日のナイトゲーム、天気予報は雨、テレビではライブ放送とスタジアムに足を伸ばすのを躊躇わせる要素はふんだんに存在した(観衆は3000人を超えた。立派な数字だが寂しさも伴ったのは事実)。そこにホーム連勝の陰に隠れた内容の乏しさが含まれていないとは言い切れないだろう。ボールを止めるという一つの動作だけを見ても昨季とスキルに格段の違いがある今季のチームが、内容でも観衆を満足させるだけのサッカーが出来ないとは思えないのである。

勝ち続けるだけでは満たされない感情もあるのではないか。だかこそ、現実との折り合いをつけながら魅せるサッカーを期待せずにはいられない。このチームは「もっとやれる」。心底、そう思う。

『熟成』@栃木SC通信

2008年7月 6日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

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不得手な足元ではなく、スペースでボールを受けた稲葉久人は快速を飛ばしてゴールへ突き進んだ。勢いそのままにPボックス内でDFとの駆け引きを制し、雌雄を決する3点目を叩き込んだ。シャープなカウンターを発動させたのは、稲葉のゴールをアシストしたのは、DFリーダーの鷲田雅一だった。

 

普段はCBのパートナーを組む川鍋良祐が入ってきたボールを潰す役割を担う。が、この日は鷲田が積極的に前に出ることで、ボールを掻っ攫うシーンが目立った。理由をこう話す。

 

「ボールの流れが読み易いパス回しを、相手がしていた。流れを読みきれた」

 

落合正幸と鴨志田誉(途中から向慎一)のダブルボランチがフィルターとなり、ボランチが前線の選手に指示を飛ばすことでコースを限定させるなどした。インターセプトを狙い易い状況が生み出されたのは、前線から連動した守備が出来ていたからである。フォアチェックを繰り返した上野優作は自身の2ゴールよりも、献身的に守備に貢献できたことを、むしろ評価した。

 

「自分のやろうしているサッカーができた」

 

試合の立ち上がりは拙かった。佐川印刷SC(以下、佐川印刷)に攻め入られた。危険なクロスを上げられもした。しかし、ピッチの選手に焦りはなかったという。押し込められても平静を保てていた。

 

「むこうはガチガチ来ていたが、90分は続かない。こっちとしては型にはめることができた。ボールを繋がせていた感じ」

 

決定的なシュートを浴びなかったことで思惑通りに事が運んだと、右サイドバックの岡田佑樹は言う。

 

「ブロックを作り、耐えることで相手がばてる。途中から体力が落ちた。暑い中でも体力を消耗せずにカウンターを打てた」

 

川鍋は前節の沖縄での経験が活かされたと考えている。

 

劣勢の時間帯に好機を作らせることなく凌ぎきれば、フィジカルコンディションで勝る後半に勝機は必ず訪れる。上野は言う。

 

「前半に失点をしなければ、いい展開に持ち込める」

 

その言葉通り後半は動きが鈍重になった佐川印刷に容赦なく襲い掛かり、3点を強奪した。対戦相手の大半はスタミナに不安を抱えている。だからこそ、序盤からフルパワーで臨み、リズムを乱すために先手を取ろうとする。佐川印刷も然り。それに屈しなかったことが、結局は大量点に結び付いた。

 

灼熱の地で身に付けた対応力は、失点せずに粘っていれば勝ち切れるとの自信を育んだ。勝点3以上の収穫をもたらした遠征だった、と改めて痛感したことは想像に難くない。現にそれは先の岡田と川鍋の発言からも窺える。

 

2試合連続の零封にも、鷲田の表情が崩れることはなかった。無失点を「これが当たり前」と言い切りもした。

 

「自分達の力が出せれば、しっかりと守れる。今までの試合の経験は無駄ではなかった。積み重ねることで熟成される」

 

能力の高い個人が1対1の局面で負けることなく、チャレンジ&カバーなどの連係を怠らなければ、格段に守備ブロックの強度は増し、自ずと結果はついてくる。失点数はただいまリーグ最小を誇る。しかし一方で時折、脆さも露見する。完成度が高いとは言い切れない。最終ラインを束ねる鷲田は言う。

 

「0に抑えられたことを嬉しいと思うのではなく、当然だと捉えなければ成長しない。満足せずにやっていきたい」

 

まだまだ個も組織も成熟できる余地が大いに存在する。糊代がある限り満ち足りることはない。鉄壁の守備ラインを築くための研鑽は、日々のトレーニングと実戦を通じて続いていく。

『実り多き遠征』@栃木SC通信

2008年6月30日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

okinawa5.JPG決断は下された。

玉のような汗が黙っていても噴き出してくる気候条件。疲労はいつも以上に早く体を蝕む。体温の上昇は脳に熱をこもらせ正確な判断を困難にする。

前線から相手を追い回せば、足が鈍るのは目に見えていた。 そこで、ラインを深く保ち、背後のスペースを消去することを選んだ。目の前でボールを動かされているぶんには構わない。ただし、個々が受け持つゾーンに相手が入ってきたら厳しく潰しに行く。例えばサイドバックにはオーバーラップを仕掛けるなど持ち場を放棄するリスクを避けさせた。マークを受け渡しながら守ることで体力の消耗を出来る限り軽減させる。攻撃参加したことで息が上がり、戻りきれずに穴を空けることを嫌ったのである。赤井秀行と岡田佑樹の両サイドバックは守りに比重を置いた。高位置に顔を出した回数は数えるほどだった。内へ絞り込みセンターバックのカバーに回るなど、専守防衛に徹する。

全体が間延びし、バランスを欠き、足を攣るなど先に悲鳴を上げたのは、地の利があるはずのFC琉球(以下、琉球)だった。自信たっぷりに柱谷幸一監督は勝因を語る。

「ここまでいい準備をしてきた。トレーニングの成果により体力が落ちなかった」

栃木では体感できない沖縄の暑さと湿度。出来ることは自ずと限られてくる。それを見越し、みっちりトレーニングを積んだ。練りこんだ戦術、守備の約束事は見事なまでにはまった。90分間コンパクトな守備ブロックは破綻することなく、球際で激しく体を寄せたことでコースを切るなど決定的なシュートを許さず、連続失点を4試合で止めることにも成功する。

序盤からリズムよくボールを回す琉球に対し、栃木SCは焦れずに我慢できた。入念な下準備がなされていたからであり、落合正幸曰く「ボールの取りどころがはっきりしていた」ことが小さくない。落合と鴨志田誉が位置する、ボランチラインで引っ掛けてから、いい状態でボールを持てた時だけ攻撃に人数を割く。ポゼッションよりもカウンターに的を絞った。

「攻め込まれていたというよりも、攻めさせていた」

佐藤悠介は前半をそう振り返る。フィニッシュに持ち込まれる回数の多さには苦言を呈しつつも、概ね内容には満足そうだった。前節、オブラートに包むことなく「何もない」と吐き捨て、会場を後にした口振りとは明らかに異なっていた。普段は味わうことのない、味わいたくもない状況で、「柔軟に頭を使いながら戦った」結果の勝利に手応えを掴みもした。佐藤は続ける。「こういう状況のゲームの対処としてはよかった」。今後に繋がる確かなものを手に入れられた充実感が窺えた。

それは指揮官も同じだった。

「栃木もこれから暑くなる。ゾーンでブロックを作って守れた、この試合をベースにしたい」

自分達のストロングポイントを前面に押し出すだけのサッカーに、相手の長所を引き出しながら体力を削いでいき、粘り強く戦うことで一瞬の隙を見逃さずに仕留める戦い方が加わった。思い出されるのは昨季の対FC岐阜戦。綺麗な3ラインが進撃を阻み、効率よく2ゴールを叩き出しての完勝だった。ニューウェーブ北九州戦では5バックを、ファジアーノ岡山戦ではあ4―1―4―1を試みるなど、少しずつ使えるオプションは増えてきている。多様性は育まれ、夏場を乗り切る下ごしらえと、終盤に向けた備蓄は滞りがない。

勝ち越しているとはいえ内容が芳しくないアウェーで、勝率を高めるには打って付けの試合運びを可能にする、
大きなヒントを獲得できた。南国で得たものは勝点3だけに止まらなかった。実り多き遠征となった。

『前期17試合から見えたこと』@栃木SC通信

2008年6月23日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

arte2.JPG沈思黙考した末に口を開いた。

「どれも厳しいゲームだった。ベストゲームはない」

前期のベストゲームとワーストゲームは。そう問われた際の柱谷幸一監督の応答である。ホームで1―0と勝利したHondaFC戦を挙げると思っていたが、予想はものの見事に外れた。

敢えて印象に残る試合を口にしなかったのは、こんな理由からである。

「競っているゲームが多い。1点差で取ってきたが、どっちに転んでもおかしくはないゲームがあった」

勝ち星13の内、実に10が1点差と僅差である。豊富な戦力を有しても、容易に勝ち抜けるリーグではないことを、数字は如実に物語る。

それでも、シーソーゲームをものにしてきたことで、「しぶとさ」が生じたことはプラスであったと考えている。対アルテ高崎(以下、アルテ)戦も小差のゲームを勝ち切れた自信があったからこそ、気持ちを切らさずに勝利を追求し、最終的に手に入れられた。激闘を潜り抜けてきたことで、開幕時よりメンタル面は相当タフになってきている。

石舘靖樹は言う。

「負けた試合がプラスに働いている。3―2で勝ち切れるのは、代償は大きかったかもしれないが、勉強したことが実になっているからだと思う」

柱谷監督は、「チーム戦術、コンセプトが攻守において全員に浸透している」ことも収穫とした。チームとしてやるべきこと、ベースが確立され、刷り込まれていることは殊の外、大きい。負傷離脱、出場停止によりリザーブだった選手が先発しても遜色ないプレーを披露したことが、それを証明している。鴨志田誉は今や確たる地位を築いている。高安亮介はゴールにより長足の進歩を遂げた。赤井秀行は守備力の高さを見せ付けた。田村仁崇は鷲田雅一と川鍋良祐を脅かす存在へと成長している。危機を好機に変換できるのは、しっかりとした約束事と規律がチーム内に存在し、選手が理解しているからである。主力が欠けても代わりの選手が一定レベルの役割を果たす。ボトムアップが図れ、薄かった選手層に厚みが加わった。

「内容を上げて結果を残さなければ後期は苦しむ」

楽観的な言葉は聞かれない。悲観的ではないものの、「気持ちを緩めない」ことなどの重要性を柱谷監督は説く。後期に入り、2順目ともなれば相手も手の内を読んでくることは明白。苦戦は前期の比ではなくなるだろう。そこで、問われるのが「対応力」である。スカウティングとは異なる戦略で臨んできた相手に対し、策略にはまり込む前にいかに手を打てるか。動じて後手を踏む時間帯、劣勢に回る機会を減らせる柔軟な姿勢と発想が必須になる。

そして、個の力量を高めることもまた不可欠である。アルテにセットプレーから2つもゴールを献上したのは、「跳ね返す力が足りない」から。それはCBの2人だけではなく、Pボックス内に入っていた選手全員に該当する。先ずは1対1で負けない。セットプレーのみならず、流れの中でも。この大前提はファーストミーティングから口を酸っぱくして指揮官が訴えてきたことである。

再び石舘。

「セットプレーから2度も失点したことで後期の勉強になればいい。『セットプレーからは失点しない』と、いい方向に考える。払った授業料は高いですが、強くなれば経験が積めればいい」

どこまでもポジティブである。攻撃的な資質を見抜いた柱谷監督。FWへのコンバートは前期最大のヒットだろう。

17試合を消化してもアバウトにボールを蹴り込み、セカンドボールから2次、3次攻撃を仕掛けてくる相手への戸惑いは消えない。そろそろJFLの水に慣れてもいい頃なのだが・・・。ポゼッションしてイニシアチブを握ろうと目論むチームは、ほんの一握りである。チーム最大の泣き所が解決できれば安定した試合運びが可能となり、手詰まりに陥った相手を支配することは、そう難しくはない。結果に内容が伴えば、完勝が増えれば、風格は備わるはずである。試合前から相手を飲み込んでしまえば、勝率はより一層高まる。

詰めなければならない細かな点は多々あるが、今後へ向けて大雑把な要求をするならば、守備では組織的な要素に個の強さが
、攻撃では前へボールを入れることで発揮される強みにポゼッション力が欲しい。   

『緩やかに成された融合』@栃木SC通信

2008年6月16日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

  
283.JPG大卒新人が5人もスタートから起用されることに対して不安は感じなかったそうだ。むしろ、頼もしかったとチーム最年長の34歳、上野優作は言う。

「大卒の5人で勝手に盛り上がっていましたからね。心配はしていなかった」

続けて初先発の赤井秀行を、こう評した。

「ヒデはいいプレーをしていた」

栃木SCでのJFLデビューはアウェーでの対佐川印刷SC戦、後半のロスタイム(流通経済大学でリーグ戦は経験済み)。守備固めで投入された赤井は、左サイドバック(以下、SB)に配された。左右のSBに加え、センターバック(以下、CB)も可能なポリバレントな選手である。1点を守り切る状況でピッチに立つも、自らの持ち場から同点被弾のクロスを上げられてしまう。応対したのは佐藤悠介であったが、悔しさは残ったはずである。その後、ベンチには辿り着くも、僅か数メートル、眼前のタッチラインを越えることは困難を極めた。攻守に卒がなく、抜群の安定感を誇る岡田佑樹が同ポジションに君臨していたからである。挽回の好機はなかなか得られなかった。

右SBのファーストチョイス、岡田が累積警告により出場停止となった。やっと巡ってきた先発機会。心の準備は既に岡田が3枚目のカードをもらった時点から出来ていた。特長である1対1の強さ、CBとの連係を意識して試合に臨む。

「弱気にならずに強気で向かって行こう」

序盤からファジアーノ岡山(以下、ファジアーノ)は赤井のサイドから攻略を図る。このゲームの鍵はサイドの攻防にあった。そのことを赤井はしっかりと認識して試合に入っていた。

「サイドにボールを散らしてくるので1対1では負けないように」

気負いはあった。が、浮き足立った時間は長くなかった。強みである対人プレーでは飛び込まず、自分の間合いに引き込んでから足を出し、進撃を阻む。後手を踏むことはなかった。持ち味の守備力は遺憾なく発揮され、守備組織の強度を強めた。カバーリングも冴え渡る。

「高安さん(亮介)が前にいたので、攻撃は高安さんがやってくれる。後ろで穴を埋める」仕事に徹したが、前半19分にはスペースがあると見定めるやドリブルで持ち上がる。最終的に高安の際どいシュートを引き出した。敵陣深くまで侵入する回数は皆無に等しく、攻撃参加は数えるほど、赤井曰く「攻撃ではちょっとミスが多かった」ものの、スピードもあるだけにえぐってからのクロスも今後は期待が持てる。

シーズン前にはフィットできなかったことで「追試」を科された。失点の大半は赤井のサイドからだった。対ファジアーノ戦も結果的に赤井のところから供給されたクロスが同点弾に繋がるも、「十何試合目で初先発。あれだけやれたのはトレーニングをしっかりやっていた証拠」と、柱谷幸一監督は高評価を与えた。岡田を右ワイドに、赤井をそのひとつ下で組ませる考えがあることも口にした。

岡田が復帰すれば取って代わられる。それでも、勝利に貢献できたこと、手応えを得られたことに充足感を抱いた。

「勝てて嬉しい。一安心」

赤井の笑顔が弾けた。

3度ピッチに立つも出場時間は、たったの29分。上野、横山聡、松田正俊に石舘靖樹の4人をローテーションするFWの位置に、稲葉久人の居場所はなかった。交代出場するも、ポジションはいずれも右ワイド。スタミナの切れた高安に代わり、後半34分に送り出された位置は今度も右ワイドだった。相手のSBが攻撃的だったこともあり、「守備から入るように」との指示を受ける。守備に神経を割きつつも、しかしスコアが1―1だったことで、こんな言葉も掛けられる。「相手のSBの裏を狙え。左からいいボールが来るから準備はしておけ」。

「直感ですかね。ここにくるだろうと」

背後を取るスピードと嗅覚で勝負するプレイヤーと自己を語る稲葉。ゴールの匂いを敏感に嗅ぎ取った。佐藤悠介のピンポイントクロスを頭で突き刺す。ワイドの選手がPボックス内でヘディングシュートを決めるカタチはトレーニングから繰り返されていた。

「金曜日の紅白戦でも決めていましたから」

ゴールはトレーニングの賜物であるが、ゴールを決められる位置に走り込むことは容易ではない。生まれ持った才能のひとつだろう。

「いいポジションにした」

FW出身の柱谷監督も手放しで褒め称えた。

今まで派手に映る外見とは異なり、稲葉は試合に出てもどこか控え目だった。覇気に乏しく、泥臭さは影を潜めた。そのギャップの真相を本人が明かした。

「これまで試合に出ていても遠慮があり、空回りの原因になっていた」

試合に入り込めていなかった。「周りに迷惑をかけていた」。そこで、一念発起する。1週間前から心に決めていた。フレッシュな状態で入るのだから皆よりも動き回ろう、貪欲さを意識したプレーをしようと。ゴールの切っ掛けは、自らが作り出した。前を向き、アグレッシブにドリブルを仕掛けた。思い切りのよさが佐藤にボールを託してから状況を傍観するのではなく、ゴール前に飛び込んでいく姿勢として結実した。攻撃的な選手は強引なくらいが程よい。高安がゴールにより脱皮したように、稲葉も結果を残したことでブレイクスルーする確率は低くない。

佐藤の不在時には石舘と鴨志田誉が特性を生かして難局を乗り切る一助となった。落合正幸と岡田を失ったファジアーノ戦も苦しいメンバー構成となったが、向慎一、赤井、稲葉とピチピチした若手が奮起し、勝点3を呼び込んだ。ただし、“背骨”となるGK小針清允、鷲田、佐藤、上野のベテラン勢の存在と、町田秀三、阪倉裕二コーチの熱血指導を忘れてはいけないと柱谷監督は付け加えた。

「ボクが何かをしなければいけないチームはよくない。皆が逞しくなっている」

現在のチーム状況を佐藤は、そう見ている。

開幕から固定メンバーで戦ってきたことで、一時はバイオリズムが落ち込んだ時期もあったが、主力が抜けるという逆境を乗り越えたことでチーム力は養われた。つまり、選手層は厚みを増し、全体の底上げが図れた。各ポジションに先発しても一定レベルのパフォーマンスができる、バックアッパーが控えていることは勝利が得難くなる今後へ向けて心強い。

昨季、続投が決まってから柱谷監督は常々大学生、しかもトップレベルでプレーする選手の質の高さを強調。資金面の問題もあるが大量に獲得する方向性を示していた。精力的に動きオフに行ったチーム編成が間違いではなかったことが、若手の台頭により証明されている。

若手とベテランの融合は緩やかに成され、強者になるための階段をまたひとつ上った。
  

『修正が図れた後半45分』@栃木SC通信

2008年6月 9日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

kyu.JPGJFLで戦うことの過酷さを柱谷幸一監督は改めて実感した。ニューウェーブ北九州戦(以下、ニューウェーブ)に限って言えば、劣悪なピッチコンディションが挙げられる。未整備の、普段とは異なる環境に順応することの難しさ。契約を結ぶ際、選手にはスタジアムとジャッジの厳しさを説明したが、整えられた状況でプレーしてきたことで、こびりついた感覚は容易に剥がれないのだろう。不慣れな部分がプレーに及ぼす影響は少なからずあり、アウェーで好成績を収められない要素のひとつになっている。指揮官は感じている。精神的な物足りなさを。

立ち上がりに脆弱さが顔を出した。

複数の事情が重なり集中力が保てない状態で試合に入ってしまう。神経が研ぎ澄まされていないから対応力は自然と落ちる。初先発、センターバック(以下、CB)に配された田村仁崇は述懐する。

「前半、最初の10分間で早く修正できればよかった」

序盤からPボックスにボールを集中させたニューウェーブの攻撃に後手を踏み続けた。石舘靖樹が先制点を奪っても、すぐさま追い付かれた。高安亮介のゴールで突き放しても、再び取り返された。自分達のペースで試合を運ぶことができず、ズルズルと劣勢の時間帯を引き摺ってしまったことが一因だろう。

「うちのCBが弱かった。情けない」(柱谷監督)

相手が2トップに素早くボールを入れ、DFが跳ね返したルーズボールから再度、攻撃を仕掛けてくることは分かりきっていた。だが、最終ラインが下がり気味だったことで蹴り込まれてきたボールをボランチラインよりも前へクリアできず、ボランチも前掛かりになっていたことでセカンドボールを拾えずに拾われた。反発力の乏しさとバイタルエリアの締めの甘さが波状攻撃を許してしまう。

「もうちょっと前に厳しく行けた。インターセプトやヘディングなど。ラインが下がったことで中途半端なクリアばかりだった」

田村の口を衝いて出るのは反省の弁ばかり。

ニューウェーブがポゼッションを放棄し、ロングボールを放り込み、圧力を掛けてくることは予想外だったという。しかし、置かれている状況は同じ。栃木SCもトレーニングを積んだポゼッションが困難だと判断し、作戦を切り替えたのだから、相手の手の内もある程度は読めたはず。前半45分が乱打戦になってしまったのは相手の出方を読み切り、適応する力が欠けていたからに他ならない。少し予想の範囲を超えただけで浮き足立つようでは心許ない。

「後ろがもたない」

そう見て取った柱谷監督。ハーフタイムに埋めきれなかったバイタルエリアへ落合正幸を残し、アンカー気味に構えるように伝える。更に落合が競った後にCBの2枚がカバーリングに入れるポジションを取ること、CBが競りに行ったらサイドバックがフォローに回り、落合がセカンドボールを拾うことも付け加えた。

結果的に守備組織の再構築は成功した。セカンドボールを先に奪い取ったことでニューウェーブは打つ手がなくなり、急激に失速した。シュート数は数えるほど、好機は皆無だった。

後半は守備の修正が図れ、勢いを断ち切るに至る。が、それは指示を仰いでのことだった。自分達で試合を構築する力の低さを如実に物語る。一方で、ポジティブに捉えれば水漏れ箇所をしっかりと修繕し、無失点に抑え込めたとも言える。

自発的に問題を解決できる力が備わっていないところが、「うちのチームは強くない」という佐藤悠介の発言に繋がるのだろう。相手が何を狙っているのかをいち早く察知し、対処していかなければ、思い通りに試合を展開できない。力強さは滲み出てこないし、恐ろしさを植え付けられないのは、言わずもがなである。 

『自己改革』@栃木SC通信

2008年6月 2日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

taka1.JPG昨季、柱谷幸一監督に才能を見出され、徐々に出場時間を増やし、ついには憧憬の対象である只木章広(現・ヴェルフェたかはら那須)からポジションを奪い去る。オフには幼き頃からの夢のひとつ、プロ契約を勝ち取りもした。様々なものを貪るように欲する思いは、アグレッシブなプレースタイルからひしひしと伝わってきた。その残像が鮮明に記憶されているからだろうか。殻を脱しきれない、足踏みをしているような停滞感が今季の開幕時から拭い去れなかったのは。対戦相手から要注意人物にリストアップされ、警戒をされているにしても。

高安亮介は思い悩んでいるのではないか。サッカーを心の底から楽しめていないのではないか。そんな疑問がむくむくと頭をもたげた。

「やらされている。プレーが受身になり、周りに合わせていた」

果敢に持ち味であるスピードを生かし、タッチライン沿いを駆け上がり、クロスを供給するも正確さに欠けた。技術的な問題もあるが、精神面が及ぼす影響は小さくなかったという。心に巣食うある思いが躍動感を損なわせ、決定的な仕事を果たすことを阻んだ。高安は偽らざる心情を吐露した。

「(小林)成光さんがいないから、自分が使われているんじゃないか」

右ワイドの位置を争うライバルは、開幕から好調をキープ。独特の、緩急をつけたドリブルは攻撃に絶妙なアクセントを加えた。アシストにゴールをマークするなど結果を残しもした。その小林が悪質なタックルを受け、戦線離脱することになる。故障した箇所のリハビリを終え、入れ替わるように先発起用されたのが高安だった。

サバイバルを勝ち抜いたわけではない。「代役」、「穴埋め」。そんな言葉が頭にこびりつき離れず、何時しか呪詛となり体を縛り付け、本来の特長を殺いでしまった。ライバル意識は足かせとしかならなかった。

「自分のいいプレーができなかったのは、そこに繋がっている」

競争原理はマイナスに働いた。ゴリゴリ対面のマーカーにドリブルを仕掛けるアタッカーが、ネガティブな感情を抱いてプレーしていては、結果がついてくるはずがない。

そこで、自己改革を断行した。対抗意識を燃やすことに神経を割くのではなく、己を見詰め直した。行き着いた思いは、シンプルなものだった。

「やってやろう」

心の中で起こった僅かな気持ちの変化が、プレーにも現れた。ポジティブに現状を、物事を捉えられるようになったことで脱皮が図れた。これまでシュートを打つ機会が巡ってきてもパス、或いはクロスを選択してきた。だが、前向きになったことが奏功し、優先順位の低かったシュートを打ち切れた。アシスト役が一転、フィニッシャーに変貌したのは前半19分のことだった。佐藤悠介からサイドチェンジのボールが届けられる。トラップでマーカーを外し、躊躇うことなく右足を振った。「気持ちを行動に移した」ことで、JFL初ゴールを2年目にして手にする。

「自分が決めてやると思わなければボールが出てこない」

痛感したのは挑んでいく姿勢の重要性だった。

後ろ向きの感情と決別する突破口となったゴールが、高安に自信を芽生えさせた。前半終了間際には左クロスからヘディングシュートを繰り出す。後半に入ると縦方向へのドリブルに、内側へ切れ込んでいく動きが加わる。カットインから左足でシュートを放ち、ゴールを脅かしもした。シュート3本は佐藤と並びチーム最多タイ。

「縦だけではなく中へ入ってシュート、ワンツー。スルーパスが出せるようになれば、レベルの高いプレーが出来る」

柱谷監督はプレーの幅が拡がる動きを見せた高安の成長を見て取った。圧倒的なスピードに付け加えられたゴールへの強い意識。引き出しが増えたことで、今まで以上に対峙するDFは対応に窮することになるだろう。危険度はより一層、高まった。

「何かを言われてやるよりも、自分の意思でやることが大切」

時間を要したがメンタル面の課題を克服できた。新たな武器を獲得もした。しかし、飢餓感を失わない。

一皮剥けた高安は決意を語る。

「ハシラさんのファーストチョイスになりたい」
  

『乏しいバリエーション』@栃木SC通信

2008年5月26日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

ochi3.JPG攻撃回数はカターレ富山(以下、カターレ)と比べても劣っていたわけではなかった。右ワイドの高安亮介を起点にサイドアタックを仕掛けられていた。好機を演出できるカタチに持ち込めていたことは事実であるが、攻め切れたとの印象が希薄であるのは、やはりシュートで攻撃を完結させられなかったからだろう。柱谷幸一監督は「クロス、ラストパス、シュートの正確性とパワー不足」を原因に挙げた。攻撃を結べなかったことは小さくなかった。

多少アバウトなボールからでもフィニッシュにまで至ってしまう。これまで質量の隔たりとは無関係に対戦相手から与えられた脅威は、ゴールを強く意識した姿勢があったからに他ならない。翻って栃木SCにはシュートを打ち切れないことから怖さ、迫力、圧迫感が感じ取れなかった。ゴールを目指す意欲が著しく欠落していた。

こんなシーンがあった。深澤幸次の右クロスをファーサイドで待ち受けていたのは稲葉久人。ゴールを得るための選択肢はたんまりとあった。ダイレクトでヘディングシュートを放つ。一旦、胸でトラップしてから縦に突っかけて自らシュート、あるいはゴールライン深くまでえぐってからのセンタリング。Pボックス内ではエゴイスチックに振舞ってもいい。FWならば。稲葉が出した答えは、内側に位置していた松田正俊へのパスだった。間違いとは言い切れない。松田のシュートが決まっていれば賢明な判断と解釈されたことだろう。しかし、松田はもたついたことでシュートのタイミングを逸し、DFに阻止されてしまった。勝負しなかったことが裏目に出た一例である。

「ゴール前で消極的に映るシーンがあった」と振り返る向慎一は、「シュートが少なかった。もっとミドルを狙っていれば」と唇を噛んだ。鴨志田誉も同じような思いを抱いていた。「ボクやシン(向)がミドルを狙い、FWは多少強引にでも打つ必要がある」。そうすれば、シュート3本という不甲斐ない数字は残らず、勝点3を得られたかもしれないとの思いは強い。綺麗に打ってゴールを決めてやろう。そんな気持ちが大胆さとアグレッシブさを殺いだ。

キャプテンマークを巻いた落合正幸は言う。

「チャンスメイクで終わっている。シュートで終わっていない。スリッピーなグラウンドコンディションだからこそ、遠目からでも打てば何かが起こるかもしれない」

言葉は熱を帯び、鋭くなる。

「局面で『ボールを持っている選手がやってやる。イニシアチブを握ってやる』と思わないと。アタッキングエリアで遠慮していても仕方がない」

クロスを上げ切る。シュートを打ち切る。「やり切る」ことが出来なかったがために、焦燥感は次第に強まり、安易な方法に逃げてしまった。悪癖が露呈する。「狙ったわけではなく、苦し紛れに蹴り込んでしまう」(鴨志田)攻撃面の課題が。

「ツインタワーへ放り込まれた際のトレーニングをした」

そう話したのは、カターレのDFリーダー濱野勇気。2トップに照準を定め、前へとボールを入れてくることは想定済みだった。CBを組んだ金明輝と共に上野と松田に制空権を譲らなかった。栃木SCにとって前線へのボールの収まり具合が、好不調のバロメーターとなる。ストロングポイントを潰されてしまっては、思うようにサッカーを展開することは難しい。対策を練られた相手に対し、分かりきった攻撃を仕掛けることは無益であり、足枷としかならない。手詰まりと勝点の喪失は親密である。

一本調子と執着は紙一重の関係であるが、勝機が見出せないと判断したならば、状況に応じて別の手を打つべきだった。「真ん中に、バイタルエリアにワンクッションあればよかった。(2トップが)ラインの前で起点を作れていれば」と上野は悔い、「ボールを繋げていれば違う展開になっていた。カウンターや分厚い攻撃ができた」と、鴨志田はボールを走らせるべきだったと反省の弁。「闇雲に蹴り込んでいるから、FWにいいカタチでボールが渡らず、シュートが打てない」と続けた。

「繋いでボールを運んでから、DFラインをFWが押し込んで下げる。クロスを入れて、セカンドボールを拾っていく」

単調に前へボールを預けるだけではなく、ポゼッションしながら横方向の動きを取り入れ守備網を崩すパターンを柱谷監督は描いていた。が、ピッチに立った選手達は実行に移せなかった。トレーニング不足なのか、それとも着手できていないのか。

開幕から漂う攻撃面の閉塞感は、バリエーションの乏しさに起因している。ロングボールを放り込んでいくことを薄め、パスを回しながら打開を図っていく方向性を濃くすることが必要な時期に差し掛かっているのではないだろうか。スカウティングが成され、2順目ともなれば対戦相手も手の内を読んでくるだけに。

確たる型は存在する。それを変形、派生させる準備は整っているのだから、そろそろ次の段階へと強化を推進して行くべきである。引き出しを増やせないようでは、袋小路を彷徨いかねない。
 

『ルーキーに勝点3を』@栃木SC通信

2008年5月19日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

kamo.JPG気負いは全く感じ取れなかった。ボランチに要求される仕事、例えばボールを奪う、パスを散らす、相手の攻撃を遅らせるなど、基本的な役割を卒なくこなしていたからである。それも高次元で。

浮き足立つことなく、試合にすんなりと入り込んでいるように見えた。ちょっとやそっとのことでは揺らぎそうもない外見に、ベテランが醸し出すような雰囲気を身に纏っていることが、そう感じさせるのかもしれない。妙な安心感さえ抱かせた。

が、実際の胸の内は異なったようだ。本人の言葉を借りれば、「最初は緊張した」と言う。無理もない。リーグが開幕してから11試合、1度もピッチに立つことはなかったのだから。巡ってきた出場機会、それも初先発がリーグ屈指の実力を有するHonndaFC(以下、ホンダ)戦、しかも連敗が許されない状況では、萎縮しない方がおかしい。

鴨志田誉は計り知れないプレッシャーに晒されながら、キックオフの笛を、プロデビュー戦を迎えた。

先発を言い渡されたのは、土曜日のセットプレーのトレーニング中だった。「ビックリした」ものの、「何時も通りのプレーをすれば通用する」と言い聞かせ、「何時も通り、何時も通り」と何度も心の中で反芻しては、昂ぶる気持ちを抑えた。

今季2敗目を喫した対横河武蔵野FC(以下、横河)戦(0―1)を省み、柱谷幸一監督は落合正幸のパートナーを久保田勲から鴨志田へとチェンジした。その意図を、こう語る。

「久保田とオチを並べるとポジションが後ろになる。攻撃に人数を割けない。鴨志田は前へ出られるし、ボールに絡める。運動量が多い」

好機をほとんどこしらえられなかった前節。同じ轍は踏めない。前線にボールを入れることで強味が発揮される、栃木SCの戦術によりマッチした人材を選出したことが窺える。

大抜擢された鴨志田。自身の持ち味は「運動量。判断を速くして、素早くパスを繋ぐこと」。

前半35分、マイボールになるや否や、一目散に3列目からゴール前へと駆け上がった。その様は爽快感たっぷり。機を見た大胆不敵な攻撃参加は、ゴール前の人手不足を解消した。また、トップに近い位置でプレーし、セカンドボールを拾うことをも心掛けた。横河戦で感じた物足りなさ。果敢に仕掛けることで補足した。繰り返された上下動。支えたのは、豊富な運動量だった。

ボールを受ける角度作りの巧さも生きる。スムーズに味方からボールを引き出した。託されたボールを時に丁寧に、時にリスクを冒してさばいた。「ホンダも切り替えが速いから負けないようにした」と、瞬時に使えるスペースを見出し、パスを供給。カウンターのスイッチとなる。前半38分にはGK小針清允からのフィードを受けると、前方に走り出していた石舘靖樹に正確なパスを送り届け、決定機を演出した。FKからのクイックリスタートでは高安亮介のドリブル突破を導いた。

高い守備能力も際立った。ショートパスを繋ぐ意識の高いホンダの攻撃に戸惑うも、徐々に順応すると粘着力のある守備でボールを掻っ攫った。攻撃の芽を摘み取った。

「ボゼッションは落ち着いていた。運動量も多く、守備にも入れた。非常にいい出来だった」

柱谷監督はパフォーマンスに目を細めた。

「カモが頑張ってくれたことが周りに伝わり、チームとして結果が残せたと思う」

最後尾からプレーを見詰めていたGK小針は、鴨志田の攻守における貢献度の高さを勝因のひとつに挙げた。続けて「ルーキーで初先発、思い出に残る大事な一戦。勝点3をプレゼントしたかった。それが出来て嬉しい」と、我がことのように喜んだ。

昨夏、催された大学生を対象にしたセレクション。唯一、潜り抜けたのが鴨志田だった。自ら切り開いたプロへの道。しかし、いきなり壁にぶち当たる。中核を成す落合の隣席に座ったのは、同期入団の向慎一だった。職人肌の守備と光る攻撃センスを披露したトレーニングマッチ。アピールも空しく、ベンチにも入れない日々が続いた。欠けている部分を修正しながら、ようやくベンチにまで漕ぎ着けたが、その2試合はいずれも敗戦。直接、関与したわけではないが、「責任を感じていた」。だからこそ、ホンダ戦の勝利が堪らなく嬉しかった。

「コーチからチャンスは絶対にくる、と言われていた。トレーニングを真面目にやれば(出番は)巡ってくる。準備をした甲斐がありました」

笑顔が弾けた。

今後は久保田、向との熾烈なポジション争いが待ち受けている。「競争は大事ですから」。さらりと言い切る鴨志田。スタンドからピッチを眺める、辛く侘しい状況に逆戻りする気はさらさらない。出るからには最初から。やや出遅れたぶんだけ、その思いは人一倍強い。
  

『改良』@栃木SC通信

2008年5月11日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

walk.JPG

佐藤悠介がピッチに立つことを許されなかった。後悔の行き着く先は結局、そこしかない。改めてその存在感、影響力の絶大さを痛感すると同時に、本人は3試合もチームを留守にすることになった軽率な行動を猛省しなければならないだろう。柱谷幸一監督が最も嫌うカタチでゲームから離れることは、キャプテンとして褒められた行いではないのだから。

実力が伯仲したチーム同士の対戦は、スコアが容易に動かない。予想されるのは僅差の展開。それだけに1点が持つ意味、重みは計り知れないものがあった。「先制点を取れたことが非常に大きかった」と横河武蔵野FCの依田博樹監督が振り返れば、「しっかり守る相手に先制点を取られると苦しい」と、横山聡は先手を奪われたことが小さくなかったと語った。

均衡を破るには絶対的な武器が物を言う。それが栃木SCにとっては、佐藤である。これまで競ったゲームを制してこられたのは守備陣の踏ん張りもあったが、セットプレー、もっと言えば佐藤の左足が要所で輝きを放ってきたからに他ならない。いずれも1―0で勝利した対FC刈谷戦然り、対ガイナーレ鳥取戦然り。だが、裏を返せば、佐藤の技術に依存してきたからこそ難局を乗り越えられたとも言える。辛勝に終わった対MIOびわこ草津戦後(4―3)、決勝ゴールとなるFKを突き刺した佐藤は警鐘を鳴らしている。

「いつもボクのセットプレーが出るわけではない」

突出した個へ頼ることが失速の原因になることを暗に示唆している。だからこそ、「0で抑えること。1―0で勝つこと」の重要性を説いた。無失点に封じることにプライオリティを置くべきだと。

佐藤不在の歪は随所で見受けられた。

先ずはCK。都合9本も獲得することになるが、高安亮介と久保田勲の両プレイスキッカーは質の高いボールを供給できなかった。「アバウトなボールでは(ゴールをこじ開けることは)難しい」「ボールの精度が悪い」と柱谷監督は嘆き節。昨季まで欠落していた技術、パワー、精度を全て兼ね備えているのが佐藤である。久保田の左足も悪くないが、パフォーマンス同様に波があり、比較対象にするのはあまりにも酷である。

苦境を打破できる、ゴールを取り切る力を持ち合わせていない。リードを許してしまったことで、焦燥に駆られたことは想像に難くない。前半はトップにボールを預ける、ポゼッションしながらサイドを生かす攻撃の使い分けが臨機応変に出来ていたが、失点を喫してからリズムは崩れた。後半は一辺倒になる。待ち構えている相手に対してロングボールを蹴り込むだけ。変化に乏しく、攻撃にタメがなかった。起点を生み出せなかったことで、逸る気持ちを抑えきれず、無闇にボールを譲り渡す羽目になる。彩を加えられる佐藤がピッチに居ない弊害が、流れの中でもくっきりと現れていた。

劣勢に回る。抱えきれない恐怖感と不安を互いに共有しあえれば、破綻を来たす確率はグッと下がる。そのためには、単純だが声を掛け合うことが求められる。佐藤が叫ぶ姿は、もう馴染みになっている。声がかすれているのは、風邪のせいだけではないだろう。前節、押し込められて耐え忍ぶ時間帯、佐藤は落合正幸が声を出して引っ張ってくれたことに感謝していた。サイドの自分が見られる範囲は限られる。浮き足立ってしまいそうな時、バイタルエリアを守るダブルボランチとCB2人にイニシアチブをとって欲しいと考えている。重圧を反発力に変換できる稀有な才能を有していても、許容範囲は必ずある。佐藤が見えない部分を他の選手が補えるようになることが理想であり、それが可能となれば個々の責任感と挽回する力は高まる。負担を軽減するためにも、要求に応えなければならないだろう。

対ホンダFC、カターレ富山戦と佐藤の欠場は続く。強豪との2戦は正念場であり、今後のリーグ戦を見据えた試金石となる。

「ここは乗り越えなければならない。乗り越えられれば選手層は厚くなる。チーム力がつく」(柱谷監督)

佐藤が出場せずとも勝利を、勝点を1でも得る。その自信が波及することで、チーム力は飛躍的に向上するに違いない。そのためには、一人ひとりがこれまで以上にハードワークをしなければならない。殻を破り、成長するには、図抜けた個からの脱却が絶対不可欠である。残り3分の1で決定的な仕事が出来るスペシャルな存在を生かす手もあるが、それでは結局のところ現状と一緒である。

佐藤を生かすシステムではなく、佐藤も生きるシステムへと改良を進めなければならない。

『精神的なタフさ』@栃木SC通信

2008年5月 7日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

yusuke.JPG 

初黒星を喫した流通経済大学戦(1―2)、腰が引けたプレーの反省を生かしたのが、ジェフリザーブズ(以下、ジェフ)戦だった。攻撃力の向上を図るために、2トップに絡む動き、タッチ数の少ないプレー、サポート意識を入念に確認したことで連動性が生じた。アグレッシブにゴールへ向かった結果として、4ゴールを奪うことになる。浮き彫りになった課題に対して、意欲的に取り組んだトレーニングがゴールラッシュに繋がった。勝点3の喪失を無駄にしなかった。

真摯に、集中してトレーニングに臨んだことが、成果として表れたことに柱谷幸一監督は頬を緩めた。他方で、釘も刺していた。

 

「それだけ(攻撃に重きを置くこと)をやるとドリブル、1対1の対応が出来なくなる。上手くトレーニングを組まなければならない」

攻守がアンバランスに、いずれか一方に偏ることがないように、比重を考える。さじ加減は慎重を要する作業であることを強調した。

 

憂慮した事態が起こる。中2日でのMIOびわこ草津(以下、ミーオ)戦。前節からの攻撃的な姿勢は失われず、だからこそ2試合続けて4ゴールを得ることができた。だが、今季ワーストとなる3ゴールを与えることにもなる。

 

上野優作は言う。

「修正した結果が出ている。トレーニングがそのままゲームに反映されている」

これまでは守備に軸足を置いていたことから、攻撃における迫力不足は否めなかった。一転して攻撃に人数を割いたことでダイナミズムを手にし、好機もたくさんこしらえることが可能となったが、引き換えに背後が手薄になるリスクを背負うことにもなった。意識が攻撃に傾斜したがために、守備への配慮は希薄となる。流通経済戦の失点は2つともセットプレーから許したもの。ミーオ戦の3つの内2つはFK、CKとセットプレーからまたしても取られたものだった。ジェフ戦は危機を招くも無失点に抑え込んだ。継続性を発揮しなければならない状況での大量失点は痛恨だった。

「少し出来ない所を修正するとよくなるが、違う所ができなくなる。積み上げていかないとチームは強くならない」(柱谷監督)

水漏れ箇所を見つけ、早急に修理する。その場所は一時的に塞がるも、しばらくすると再び同じ場所から水が滴り落ちてしまう。同じことを繰り返していてはチームとしての成長は望めない。段階的にステップを踏んでいくことは困難を極める。頭打ちになるのは時間の問題である。積み重ねてきたブロックを自ら崩すことほど無益なことはない。

柱谷監督は自身がトレーニングメニューを熟慮する必要性を感じながら、選手たちにも要望する。

「技術は落ちないし、損なわれない。(今まで出来ていたことが)上手く出来ないのは意識が入っていないから。もっと精神的にタフになって欲しい」


元々、出来ていたこと、例えば守備に関する約束事がゼロに戻ってしまうのは、技術面に起因するのではなく、精神面が脆弱だから。

「自分達で出来ることはやらなければならない」と痛感しているのは、キャプテンの佐藤悠介。ベンチからの指示が届かない場合も出てくる。戦うのは、状況に応じたプレーを選択するのは、ピッチに立っている選手たちである。言われたことだけできる。それでは、幅が広がらないし、応用が利かない。個人としての先も見えてしまう。

求められるのは自主性、自発的な行動である。改善された攻撃面が象徴的なように、アクションを自ら起こしていかなければならない。活路は己で見出すしかない。

 

流通経済戦での消極性を教材に攻撃の微調整を施せた経験があることは幸いである。ミーオ戦で3失点と高い授業料を払ったことで守備面の調整を行えるはずだから。横河武蔵野FC戦から続く昨季の上位陣との潰し合いを前にウミがでたことをポジティブに捉えたい。

『安心感』@栃木SC通信

2008年5月 4日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

ochi1.JPG 

でんと構える。中盤の底に。DFラインの前に。

重心がぶれることなく、バランスを保てていれば、望むような展開に持ち込むことは困難ではない。落合正幸の復帰によりチーム全体のパフォーマンスは向上し、多少のリスクは覚悟の上でゴールを目指すことが可能となった。

自分の持ち場を離れても、穴埋めをしてくれるはず。後ろに落合が控えていてくれることから生じる安心感は、少々臆病になっていた攻撃陣の背中を押した。上野優作と横山聡の2トップは意欲的にゴールを狙い、佐藤悠介と向慎一、そして深澤幸次は盛んに上下動を繰り返し、FWにより近い位置でプレーすることができた。都合4つのゴールが誕生することになるが、その背景には機転を利かせ、引き立て役に徹した落合が居たことを忘れてはならない。影響力は甚大である。

「チーム全体が安定しましたね。落ち着いて試合を運べていた。(ボールを)跳ね返すだけではなく、シン(向慎一)のよさも引き出した。周りが活きる。オチは必要な選手」

落合の存在感の大きさを、柱谷幸一監督はそう口にした。

対流通経済大学戦、1―2の敗戦の一因に挙がったのが、落合の不在だった。対ソニー仙台FC戦で負った右足の痛みは癒えることなく、欠場を余儀なくされた。

「中盤のDFの力強さが足りなかった」(柱谷監督)

フレッシュな選手の勢いを止める術を、経験の浅い向と久保田勲のダブルボランチは持ち合わせていなかった。良好な関係を築けず、DFラインとの連携も覚束なかったことで、バイタルエリアを起点に攻撃を組み立てられてしまう。前線から中盤へ下りて来たFWを捕まえて潰すのはボランチなのか、それともCBなのか。問題は解決しないままタイムアップを迎えた。

「試合に出るからには怪我を言い訳にはしたくない。(チームメートに)失礼のないように強い気持ちで臨んだ」

万全のコンディションではなかったかもしれない。しかし、ピッチに立つ以上は責任感を持ち、故障を抱えていても与えられた役割はこなす。パスコースを消す。打ち込まれたクサビをさばかれないようにCBと呼吸を合わせながら挟み込む。空中戦で引けを取らない。強くボールを跳ね返す。基本的な仕事を落合は卒なくこなした。

「高さがあり、守備的なので凄く楽ですね。DFだけでは対応しきれないところを、前で潰してくれる」

縦の関係にある川鍋良祐は、落合が目の前に居てくれることで守り易い、と証言している。

球際では絶対に負けない。局面での強さと狡猾さも際立った。

こんなシーンがあった。左サイドからのクロスをGK小針清允が弾いた。ルーズボールに群がる両チームの選手達。逸早くボールを確保し、体を入れることで相手をブロック。ファールを誘ったのが落合だった。2次攻撃の芽を摘んだ。「ボールを隠す」プレーは秀逸である。後半、劣勢に陥った際も、相手の勢いを殺ぎ、形勢を変えるべく、意図的にファールをもらっては時間を稼いだ。 人目を引くことはない。だが、地味に映るプレーの積み重ねが、ゆっくりと手綱を引いているのである。身を粉にして職務を全うする献身的な姿勢は尊く、個性的な選手が共存するチームには不可欠である。

その存在価値は小針、佐藤に匹敵する。柱谷監督が「チームの背骨」と位置付けたことも頷ける。 

『特定の個人からの脱却』@栃木SC通信

2008年4月28日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

shugo.JPG

流通経済大学は心血を注いだ。佐藤悠介をピッチから消し去ることに。自由を奪うことに。

対面の右ワイド細貝竜太が高位置に構えることで、佐藤を釘付けにし、守備に回る機会を増やすと同時に、攻撃に加わる回数を減らした。ボールが渡った際には、必ずワイド、ボランチ、サイドバックのいずれか一人が執拗に体を寄せることで、容易に前を振り向かせなかった。タッチラインを有効利用しながら、数的優位を作り出すことにも長けていた。鼻息が聞こえるほど相手に密着された佐藤は、常にゴールに背を向けてプレーせざるを得なくなり、バックパスに逃げるシーンが目に付く。タイトなマークに苛立ちは募り、自己制御が利かなくなった。ボールを持ち過ぎる悪癖も窺えた。

ストロングポイントを抑え込まれたことで栃木SCの攻撃力は殺がれた。右サイドは小林成光と岡田佑樹のコンビネーションから打開を図れていたが、左サイドは完全に行き詰った。初先発のボランチ久保田勲、初出場の左サイドバック入江利和との呼吸のズレも、少なからず佐藤のプレーに影響を及ぼす。良好な関係を築いていた斎藤雅也、落合正幸を共に欠いたことは小さくなかった。攻撃が一本調子になってしまったのは、佐藤のキープ力を生かしきれなかったことが一因だろう。

「左は悠介が下がり気味でゲームを作るだけ。攻撃力が足りなかった」

柱谷幸一監督は周囲のサポート意識が薄かったことを指摘した。その上で佐藤にも注文を付けた。

「ロングボール、展開のパスばかりだった。ボックスの近くで、前で、攻撃的にプレーして欲しい。うちの強味なので」

佐藤が存在感を示せたのは、後半序盤の僅かな時間帯だけだった。決定的なパスを供給するなど好機をこしらえるも、思い通りのプレーをさせてもらえなかった時間の方が圧倒的に長かった。流通経済の思惑にはまってしまう。

起点を潰された時、もっと言えば佐藤を封じられた時、いかにして攻撃を組み立てるか。栃木SCは究極の課題を突きつけられた。上野優作と向慎一は表現こそ異なるが、「リスクを負ってゴールに突き進むアグレッシブさ」をひとつの解決策として挙げた。失点を恐れるあまり、プレーが無難になっていた部分があったと感じている。個々がゴールを強く意識する姿勢こそが先ず求められる。

ここ数試合、開幕から負荷を掛けて来たことで心身両面の疲労が顕著な佐藤。今後は警告の累積、或いは怪我による戦線離脱も十分に考えられる。支柱を失った際、どう対処するのか。対応力を試されたのが、佐藤が交代で退いてからの15分間だった。後ろを削り前に人数を割き、遮二無二ゴールを目指した結果として1ゴールを得る。しかし、空転した印象は否めなかった。

「悠介が外れる。悠介の力が及ばない所で、自分達でコントロールが出来ない。ワシ(鷲田雅一)、ナベ(川鍋良祐)、勲はゲームをコントロール出来ていなかった」(柱谷監督)

誰がイニシアチブを取って試合を展開するのか。曖昧模糊としたまま、時間だけが刻々と過ぎていった。それゆえに、前のめりにもかかわらず迫力が、力強さが伝わってこなかった。相手に脅威を与えられなかったのは言わずもがな。

これまで勝点を積み立ててきたことで看過してきた絶対的な個への依存。一敗地に塗れたことで露見した。昨季の上位陣は流通経済以上に佐藤の機能を停止させる策を練り、実行に移してくることが予想される。相手の想像を遥に凌ぐプレーをしてくれれば問題はないのだが、好不調の波はつきものである。易々と事は運ばないだろう。 

核の状態次第でチームが揺らぐようでは心許ない。特定の個人に頼らずとも、勝点3を掴めるチームへと変貌を遂げなければならない。現状のままでは先行きは、暗い。  

『要らないものを無くす』@栃木SC通信

2008年4月22日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

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『2パターン』

前半は石舘靖樹、後半は松田正俊とコンビを組んだ上野優作。特長のひとつである、「フレキシブルさ」が生かされた。互いのプレーが被ることはなかった。

前半は裏へ抜け出るスピードを有する石舘の持ち味を引き出すためにクサビを受けるなど献身的なプレーを心掛けた。「ボールが収まり始め、背後をケアーされたことで石舘が飛び出せるスペースがない」と読んだ柱谷幸一監督。松田を送り出す。上野が担っていた仕事を引き継いだ松田は中央にどっしりと構えた。今度は上野がサイドに流れるなどタイミングのいい動き出しからリズムを作る。決勝ゴールは松田が潰れ、上野が押し込んで獲得した。明確な役割分担が奏功し、勝点3として実を結んだ。

上野はトレーニングマッチから松田との関係性に好感触を得ていた。空中戦に長ける両者が並び立っても攻撃は停滞することなく単調にはならずに、むしろ活性化された。前線にひとつ、選択肢が増えた。

 

『結果的に狙い通りだった』

サイドバックの守備が緩い。ソニー仙台FCの左サイドは狙い目だった。

留守にしがちなスペースへ右ワイド小林成光は再三、侵入を繰り返す。右サイドバックの岡田佑樹も加勢し、サイドの綱引きでイニシアチブを握り、突破口となった。前半、唯一の好機を演出したのも、ゴールへと繋がるロビングが供給されたのも、右サイドからだった。岡田へとボールを叩いた向慎一は言う。

「成光さん、岡さんのところでチャンスができていた。ハーフタイムに『ルーズだよ』と話し、空いていたので『突いていこう』と確認した。結果的に狙い通りだった」

執拗にウイークポイントを攻め立てたことで勝機を手繰った。

 

『要らないものを無くす』

完封勝利は連続失点が2試合で止まったことをも意味した。

「CB2人のコミュニケーションが取れていて、非常に集中していた」

柱谷監督は守備に関して合格点を与えた。

「前半はバタバタしたところが何本かあったが、後半はしっかりと修正できた」

川鍋良祐も手応えを口にする。その一方で、「終盤にサイドでのファールが多い。相手に得点機会を与えないために、要らないファールは減らさなければならない」と反省点を挙げた。これには柱谷監督も同意見で、「ファールが多く、FKを与えてしまい危ないシーンがあった」と修正すべきポイントとして指摘した。

後半33、36分とソニー仙台に肝を冷やされたのは、いずれもFKからだった。また、前節の対佐川印刷SC戦ではファールを重ね、結果的にFKから放り込まれたボールが同点弾の切っ掛けになっていた。自陣ゴール前でのファールは出来る限り減らす必要がある。特に小差の展開、残り時間が僅かの状況では。そして、抗議などによる無駄なイエローカードも。結局は自らの首を絞めることになるのだから。

『不変であり続ける』@栃木SC通信

2008年4月21日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

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足取りが重い。歩くシーンが目に付く。疲労は色濃い。ボールタッチ数は激減していた。後半の半ばから佐藤悠介には疲弊の跡が如実に窺えた。前節の対佐川印刷SC戦、へばっていることを察知しながらも、交代のタイミングを誤った。これが裏目に出る。佐藤は振り切られ、同点弾を打ち込まれる結果を招いてしまった。「攻撃面でうちにとって大きな武器」と柱谷幸一監督が全幅の信頼を寄せていたことが仇となる。途中で引っ込めていれば、勝点を分け合うことはなかったかもしれない。

 

1点のアドバンテージ、11対10、シチュエーションは、ほぼ一緒。同じ失敗は許されない。幾つかの選択肢があった中で、指揮官が切った最後のカードは深澤幸次だった。佐藤に代わり後半34分、今季初の公式戦出場を果たす。試合を閉める役割、“クローザー”として本来は同期であり、ライバルでもある高安亮介が送り出されるのだが、肉離れを起こしたことにより、お鉢が回ってきた。この機会を生かさない手はない。

 

残り時間10分少々、課せられた任務は2つ。先ずキープ力を生かし、前線でボールを保持しながらチャンスを作り出すこと。もうひとつは、斎藤雅也の守備面の負担を軽減するためにサポートを行うこと。

 

ピッチに登場する際、状況は思わしくなかった。しかし、劣悪なピッチコンディションに、下半身が安定している、馬力のある深澤は打って付けの人材だった。足元の緩さなど、ものともしない。旺盛にボールを追っ掛け回す。ポジションに捕らわれることなく、我武者羅に食らい付いた。前線で、タッチライン沿いで、自陣ゴール前で。ピッチの至る所に顔を出した。開幕から6試合、ベンチに入ることすら叶わなかった。その鬱積した思いをぶつけるように。

 

「高安が出ている時、幸次にはいろんな思いがあったはず」

 

柱谷監督が心情を代弁した。

 

後半38分にはPボックス内でドリブル勝負。引っ掛けられて倒されるも、残念ながら笛は鳴らなかった。PK獲得には至らず。それでも、獰猛に、貪欲に。持ち味を見せ付けられた。深澤の活動量が増したことで、一時的に押し込められていた展開が良化した。

 

「重馬場には効く。よくはまった」(柱谷監督)

 

激しくボールにチャレンジする姿勢に、観衆は何時しか胸を打たれ、魅了されていた。深澤の一挙手一投足に拍手が送られる。些か仰々しくなってしまうが、上野優作の先制点が決まった時を凌ぐ熱がスタジアムには充満し、興奮の坩堝と化した。タイムアップに向け、音量を増した手拍子。タクトを振ったのは、間違いなく深澤だった。

 

メンバーが大幅に入れ替わろうとも、栃木SCを見守り続けてきたふぁんが好むのは、気持ちを前面に押し出し、立ち向かっていくプレーをする選手である。

 

それは今も昔も、そしてこれからも未来永劫、不変であり続けるだろう。

『芽生えてはいけない安心感』@栃木SC通信

2008年4月14日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

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ロングボールの雨霰。絶え間なく降り注ぐ。ホームゲームで1点のビハインドを背負う。当然ながら佐川印刷SCは常套手段であるパワープレーを仕掛けてきた。何度、跳ね返してもPボックスをターゲットにボールが蹴り込まれて来る。これを上手い具合にいなし切れなかった。数的優位にもかかわらず後手に回り、圧倒される。

「一人退場してから逆に『一人少ないんじゃないか』と感じるくらい、最後は押し込まれた」

川鍋良祐はそんな感覚を覚えた。

「いいカタチで押し込まれ、結果的に最悪のカタチになってしまった。少しずつでもラインを押し上げてゲームを作らないと苦しい」

逃げ切る態勢は整えられ、プランも出来上がっていた。ダブルボランチの1枚、落合正幸を4バックの前に配置。強固なブロックを構築し、猛攻を弾き返す。相手が前線に人数を割いてきたぶんだけ後ろは薄くなり、カウンターは発動し易い、はずだった。

が、佐川印刷のシンプルな攻撃は予想以上の効力を発揮した。矢継ぎ早に繰り返されたことで、何時の間にかスタミナは削り取られていた。一人ひとりの運動量は低下し、ゴールを意識した動きは乏しくなる。推進力が働かない。DFラインは下がりきったまま。放り込まれてくるボールをクリアする。そのことだけで手一杯になってしまう。前掛かりを逆手に取る堅守速攻のプランは脆くも崩れ、好機すら作り出せない始末。

それでも、我慢の時間帯を抜け出せた。一時的に佐川印刷の攻撃はトーンダウンする。流れを変える機会を与えられるも、栃木SCには力が残っていなかった。形勢を逆転できない。

耐えに耐えて漕ぎ着けたロスタイム。最後のワンプレー、痛恨の一撃を食らう。スコアを2―2に戻された。向慎一は述懐する。

「ここのところキープして試合が終わることが多かった。ロスタイムにこのまま終われるという雰囲気がなかったといえば、嘘になる」

落合が付け加える。

「10人になってから安心しきってしまった。一人ひとりの活動量が不足し、『ここでやらなければ』と思えなかった」

危機感が希薄になり、芽生えてはいけない安心感が劇的なゴールの呼び水となってしまった。

「あと、ワンプレーでしたねぇ」。大きな溜め息をつき、上野優作は続ける。「押し込まれたら、押し込まれたなりのゲーム運びがある」。それは例えばバランスを取りながら機を窺う、例えば奪ったボールを長い時間キープする、例えば相手陣内で試合を進める。つまり、ポゼッションを高めていれば相手に付け入る隙を与えることはなく、攻撃される回数を減らすことも可能だった。しかし、マイボールを大事にせず、単純に蹴り返すことで相手に譲り渡してしまい、嵩に掛かって攻め込まれた。結果的に自分で自分の首を絞めてしまう。絶対優位を勝点3として結実させられなかった。

「失点の原因はひとつではない」と柱谷幸一監督は考えている。例え話を引き合いに出し、語る。

「例えば危険な地域では、鍵がひとつでは足りない。3つかけておく。1つ、2つ外れても3つ目で止める。あの時間帯、あの地域でプレーさせたこと、クロスへの対応。どこかひとつでも鍵がかかっていれば破られることはなかった」

突き詰めればリスクマネジメントが拙かったということになる。刻一刻と変化していく事態への対応力が不十分だった。そして、11対10のメリットが、守り切れるだろうと心に隙を生み出し、何時しかデメリットへと摩り替わっていた。

危殆に瀕しているような心構えは、試合終了の笛が鳴り響くまで、常に持ち続けなければならない。同様のケースに直面した際、2度と足をすくわれないために。 

『プレーの幅を広げる』@栃木SC通信

2008年4月 7日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

134.JPG2トップの高さ、速さ、連動性。栃木SCの強味を生かすには、周囲のサポートは不可欠である。とりわけ2列目がトップにあてたボールを拾えると、一気にゴールへの推進力は増す。

だからこそ、メンバーの選抜基準は明確である。最後尾でボールをポゼッションするよりも、前に前にボールを運ぶことで、それぞれの身上を存分に出せる選手がスタメンに名を連ねている。

「どんどん前に出て行こう。今まで後ろ向きのプレーが多かったので。アグレッシブに前へ」

攻撃面での優位性を発揮するために。果敢に中盤の底から、繰り返し飛び出したのは向慎一だった。「これまで持ち味を出し切れていなかったが、いい部分が出た」と向。向の特長とは。柱谷幸一監督の言葉を借りれば、「2トップの後ろで動ける」「読みの鋭さ」「素早いサポート」ということになる。前線の上野優作、石舘靖樹と連動しながらプレスを掛け、意欲的にセカンドボールを確保するために奔走した。ボールにも人にも粘り強く、食らい付いた。ボール狩りを行い、カウンターの芽を摘んだ。防護壁となる。ただし、前掛かりのプレーは、DFラインの押し上げが図れなかったことで、バイタルエリアを空けてしまう弊害をも生じさせてしまう。若干、前への意識が強すぎたのかもしれない。

しかし、ゴールを意識したプレーは、先制弾となる佐藤悠介のFKの足掛かりとなった。ハーフライン付近でボールを持つ。迷うことなく前方に開けたスペースへドリブルで猛突進。その勢いに気圧されたのか、相手はファウルで止めざるを得なかった。自ら得たFKだけに、「本当は蹴りたかった」と本音がポロリ。結局は佐藤に譲ることになるが、壁に対してフェイントを数回入れることでプレッシャーを掛け続け、集中力を殺いだ。隠れた好プレーである。

「他の中盤の選手は(ゴールを)取っている。交代出場の(久保田)勲さんも。自分も狙っている」

ゴールが全てではない。頭ではわかっている。「FKで貢献できた」ことに満足もしていた。ところが、自然と向の体はゴールを欲し、反応した。前半36分、GKがクリアし損ねたボールから躊躇いなく右足を振った。小林成光がフリーだと知ったのは後のことだった。視野は一点のみを捉えていた。抑えの利いたロングシュートは無人のゴールへ向かうも、クロスバーに嫌われてしまう。44分にも矢のようなミドルを放ったが、今度はGKに阻まれてしまった。

「惜しかった。感触は良かっただけに、決めたかった」

唇を噛んだ。

役割が変わる。落合正幸が後半、前に出たことで後ろに控えた。アンカーを担うことに。どちらかといえば向が前に構え、落合が後ろからフォローする縦関係の方が、チームとしての機能性は高い。長所を前面に押し出すには「黙っていても味方がカバーしてくれる」ぶんだけ前に行った方がいい。だが、「現状に満足したくない」向は言う。

「意識して飛び込み過ぎないように。アンカーとして守れるようになれば、オチさんが出て行ける。プレーの幅が広がる」

前後を固定することなく臨機応変にポジションを入れ替えることができるならば、個人としてもチームとしても引き出しが多くなる。そのためには、「シンはアンカーとして判断力、守備力を上げなければならない」と柱谷監督は補足点を指摘した。

常々、柱谷監督は「シンのところが安定すれば、チームは更に安定する」と話す。期待感は小さくない。例えば、3―0で前半45分を終えた対三菱水島FC戦(5―0で勝利)。低調なパフォーマンスと目に映った向にカミナリを落とし、敢えて交代させずに90分間使い続けた。若い選手のプレーに波があることは織り込み済みである。指導し、修正を施すことで成長することも知っているからこそ、フル出場させた。残りの45分間、指揮官から一定の評価を受ける動きをした。

一足飛びにプレー内容が向上しているわけではないが、着実に進歩は遂げている。攻守のバランスを保ちつつ、自分の色を反映させられるように。もがき苦しみながらひとつずつ階段を上がっていく。  

『チームとしての結果』@栃木SC通信

2008年3月31日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

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柱谷幸一監督は対ガイナーレ鳥取戦の勝因のひとつとして、先ず「流れ」を挙げた。

「刈谷戦のゲームみたいに皆が粘りに粘って、高安(亮介)が突破してFKをもらい、落合(正幸)が決める。そういう流れができている」

食ってやろう。栃木SCに対して敵愾心を剝き出しに襲い掛かってくる相手からゴールを、勝点を奪うことは容易い作業ではない。力量差を埋める要素は、アウェーには山のようにある。自ずとゲーム展開は難しくなる。イニシアチブを握り、アグレッシブに攻め立て、優位にゲームを押し進められる回数は、それほど多くはない。

ならば、対戦相手を勢い付かせることなど、もってのほかである。勝率を上げるためには、勝点を必ず持ち帰るには、先にゴールを与えてはいけない。先手を奪われ、追い付き、追い越すことが、アウェーで如何に困難を伴うのか。柱谷監督は経験則から分かっている。先程のコメントを補足する。

「忘れてはいけないのが小針(清允)のプレー。何本もいいセーブで助けてくれたので、こういう(勝ち)ゲームに持ってこられた」

前後半の90分を鳥取に支配された。栃木SCは特長を発揮することすら許されなかった。押し込められたのだから当然シュートを浴び、決定的なシーンを作られもした。過酷な状況下で仕事量が増えるのは守備陣である。とりわけ最後の砦となるGKは重労働を課せられる。片手では足りないほどの窮地を、しかし小針は飄々と防いだ。失点を喫しても文句が言えないシーンは、数えただけで7本(前半4、44分。後半4分×2、21分、43分、ロスタイム)もあった。時には弾き、時には微かに指先に触れるだけでコースを変えるなど、豊富な選択肢を駆使してゴールを死守した。もはや卓越した技術と俊敏な反応は、栃木SCには不可欠である。これまで消化してきた3試合でも、失点を相当数減らすことに貢献している。ビッグセーブが勝機を手繰っていることに疑いの余地はない。

「Pボックス外からのシュートならば入らない。見て分かる通り、抜けているから心配していない」

辛口で鳴るキャプテン佐藤悠介も、そのセービングに絶大なる信頼を寄せている。

「たまたまついていた。うまくボールに対処できた。コンスタントに今までやってきたことを表現できている」

「チームとしての結果。個人の力による結果ではない。各々が最低限の仕事をしているから結果が出ている」

肯定しない。前者は、神懸り的なセーブでしたね?という問いに対して、後者は、4連勝の立役者ですね?と水を向けられた際の答えである。

少しは悦に入ってもいいものだが、小針は結果が残せていることを、勝ち続けられている原因を「チームの高い意識」と捉えている。ベンチ入りメンバー、遠征に帯同できないメンバー、スカウティングを行っているスタッフなど、チームに携わっている者が高次元で自分の仕事をこなせれば、結果が出ると考えている。

「目立たない方が、僕としても楽だし、それにこしたことはない」

GKの誰しもが持ち合わせる理論を展開しながら続ける。

「でも、そういうことは逆に少ない」

窮地を救うために、優勝、J2昇格を果たすために、栃木SCに移籍してきたとの思いは強い。

「自分としてはチームのプラスになる仕事をしたい。それが多少なりともできている。持続していきたい」

リーグ戦を制覇するには、守備の安定が最優先事項になる。無失点に抑えれば負けることはない。最低でも1は手にできる。今季の栃木SCのテーマは確実に勝点を積んでいくことである。

「小針を中心に粘り強く守れているのは大きい」(柱谷監督)

一方で、小針に対する依存度が高いことは懸念材料でもある。4試合で失点は僅かに1だが、「堅守」「堅牢」などと賞賛できる内容でないことは動かし難い事実である。あまりにもシュートを打たせ過ぎている。チームとして連動した守備が出来ているとは言い難い。

「決して内容がいいわけではないので、どこかで躓くことが出てくる。その時に立て直しが出来るように、勝っているうちに修正して乗り切りたい」

守護神がしっかりと現状を把握し、危機感を持っていることは心強い。最後尾からの冷静な視点で問題点を指摘しながら改善を図り、鉄壁の守備組織と誇れるように。完成形へとより近付けたい。
  

『スタートからやりたい』@栃木SC通信

2008年3月27日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

サッカーを生業に出来るか、否か。もっといえば栃木SCのユニホームに2008年シーズンも袖を通せるのか。先発のお鉢が回ってきた高安亮介は水際に立たされていた。自身の中で「このチームに残れるか、残れないか。大事な一戦」と位置づけたのは、昨季の後期第11節、ホームでの三菱水島FC戦だった。

スタミナが切れることなど全く怖くなかった。むしろ、体力を温存して持ち味が発揮できなくなることを恐れた。足が悲鳴を上げるまで攻守に全力を尽くす。試合後、後悔しないためにも。並々ならぬ決意で臨んだ一戦。序盤から高安の群を抜くスピードにマッチアップしたDFはきりきり舞いになる。繰り返される縦へのドリブル突破。貪欲に勝負を仕掛けたことで、チームに推進力をもたらす。ゴール、アシストを記録するには至らなかったが、数多のFK、CKのみならずPKまで獲得したその存在感は際立った。不安材料に挙げていたスタミナは途中で切れてしまったが、猛烈なアピールはその後の出場時間を増やし、シーズン後の契約に結び付いた。人生を懸けたといっても過言ではない試合で見事に結果を残した。教師と並ぶ幼き頃からの夢であるプロ契約を自らの手で勝ち取った。そんな思い入れのある試合だからこそ、「スタートからピッチに立ちたかった」。誰よりも強い気持ちを抱えていた。
しかし、スタメン表に高安の名前はなかった。

今季初出場、初先発したFC刈谷戦、チームの低調なパフォーマンスと同調するように高安は埋没してしまう。右ワイドの高安を軸に攻撃を組み立てる戦術が裏目に出てしまった。

「左で作ってからボールをもらえればチャンスになっていた。個の力で行くのは難しかった」

そう振り返るとおり、個の力で打開できる以前の問題、つまりスピードを生かせるスペースが全くなかった。一発で裏を突こうするボールが高安の頭を越えていくシーンが多々見られた。こびりついたマークを外せない。常に苦しい状況でボールを受けるしかなかった。右サイドの血流は詰まってしまう。後半になると幾分かタッチライン沿いを疾駆できるようにはなるが、波に乗りかけたところで交代を告げられる。代わりに入ったのは小林成光。その小林は緩急自在のドリブルで高安とはまた違ったアプローチの仕方でリズムを変え、流れを掴む一助となった。縦に急ぐことよりもアクセントをつけることを心掛けたことが奏功した。迎えた三菱水島FC戦。スタメンに名を連ねたのは、高安ではなく小林であり、1ゴール2アシストに加えて先制点の起点にもなるなど、気を吐いた。

高安が登場したのは後半32分。ベンチからの指示は、こうだった。

「守備をしてから、チャンスがあれば勝負しろ」

アタッカーに対して守備を課したのはフィールドプレーヤーがひとり少なかったからだった。反撃を食い止めながら「行けるところは行こう。思いっきり」と35、43分にクロスを供給し、38分にはドリブルからCKを獲った。だが、当然、満たされるはずがない。もやもや感は払拭されなかった。

「2回くらいは勝負できた。でも、まだ、物足りない」

トレーニングで結果を残し、試合で使ってもらうことで更にアピールし、次に繋げる。ぶつ切りにならないように、点を線にする努力を怠らなかった。だからこそ、刈谷戦での乏しいプレー内容に歯がゆさをおぼえた。「たら」「れば」を言い出したら切りがない。もしも刈谷戦で相手にとって厄介極まりない脅威と成り得ていたならば、ベンチに控えることはなかったかもしれない。

ポジションを争う小林が先に目に見えるカタチでの結果を残した。負傷離脱している星大輔は柱谷サッカーを熟知しており豊富な経験も有している。戦線に復帰してくれば、高安に先発機会が巡ってくる可能性は低くなる。ジョーカーとして重宝はされても。

「スタートからやりたい。その思いは強い」

キックオフの笛をピッチで聞く11人に選ばれるために、サバイバルを勝ち抜くのに、猶予はそれほど残されていない。瞬間、瞬間の競争を制し、強烈なインパクトを植えつける必要がある。

『ボールの循環』@栃木SC通信

2008年3月24日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

喘ぎながらも勝点3を持ち帰ってきたFC刈谷戦から中2日。「技術、運動量の差が出た」と三菱水島FC・熊代正志監督が語ったように、力量には開きがあり、加えて小細工せずに戦ってくれたことも割り引かなければならないが、栃木SCのボールの循環は格段によくなっていた。

「相手のボランチ、ワイドの選手が(プレッシャーに)来難いところでボールを受けることが大事。食いついてきたらダイレクトでクサビを入れればいい」

拙かったビルドアップ。修正を施すことができたのは、落合正幸のポジショニング、ボールの引き出し方が絶妙だったからだ。最終ラインで味方DFがボールを持つ。スッとポジションを右寄りに移す。相手のプレスの餌食にならない、味方がボールをつけ易いアングルを作り出す。さりげないがしかし、機転の利いた動きがリズムを生んだ。

供給源がボールをくまなく散らせば、攻撃が一定のポジションに偏る弊害は生じない。前節、際立ったアンバランス、右偏重。三菱水島戦では是正されていた。ポゼッションが可能になり、両サイドにボールが振り分けられ、チーム戦術であるボールを奪ったら即座にトップへ預ける作業も滑らかに行われていた。「使い分け」「バランスが上手く取れていた」(柱谷幸一監督)ことが、5―0の圧勝として結実した。

組み立て役を担った落合。前半38分、ピンポイントの大きなサイドチェンジを佐藤悠介に通す(シュートはGK正面)。残念ながらアシストは記録できなかったが、2試合連続ゴールよりも正確なキックからの決定的なパスは強烈なインパクトを残した。展開力、そして高い守備力。攻守に卒がない。

大勝にも本人は浮かれた様子を見せない。前線からのフォアチェックが機能していたことから比較的楽にボールを奪えた。連動してうまく罠にはめることが出来た一方で、ドリブルでかわされたシーンもあった。奪い方がよければ、いい攻撃を仕掛けられることが分かっている。だからこそ、「潰しに行くところと、行かないところをはっきりさせたい」と、メリハリをつけることの重要性を口にした。

2ゴールはいずれもセットプレーから。「流れの中でゴールに絡みたい」との欲も窺わせるが、期待されている守備面できっちり仕事をこなすことが自己の存在価値を高めることを忘れてはいない。

ゴールに目が眩むことなど、ない。

「ここ3試合、オチは攻守に安定している。アンカー気味のポジションを取っているが、あそこが安定するとゲームも安定してくる」

柱谷監督は落合をそう評する。

刈谷戦の後半、パワープレーに移行した際、ボランチは2枚から1枚に削られた。ワンボランチを務めたのは落合。高さを利して蹴り込まれるボールを弾き返し、球際の強さを発揮してカウンターの芽を摘んだ。勝機を手繰れた一因として、前半はボロボロだった中盤が持ち直したことが挙げられる。落合の踏ん張りが、自身のプロ初ゴールと勝点3に結び付いた。指揮官は賛辞を惜しまなかった。

舵取り役がハンドル操作を誤らなければ、航路から外れることはない。

 

※試合開始時間ギリギリでスタに着いたために満足に写真が撮れず。今回は写真なし。味気ない。

『滞りなく準備はできている』@栃木SC通信

2008年3月24日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

077.JPG既に横山聡、高安亮介と2枚の交代カードは切られていた。スコアは4―0。残り時間を考えれば、栃木SCの勝利は動かない。控えに回った選手の中にはアップを止め、戦況を見守る者もいた。そんな中、ひとり黙々と前後左右にステップを切る。ゴール裏に配されたコーンを相手に。ベンチから呼ばれる可能性は限りなく低いかもしれない。しかし、久保田勲が、動きを止めることはなかった。汗を流し続け、その時を待った。

後半42分、佐藤悠介に代わりピッチに立つ。与えられた時間はロスタイムを含めて5分にも満たなかった。収まったポジションは本職のボランチではなく、佐藤が配されていた左ワイドだった。大量リードしているとはいえ、ひとり退場者を出していた。守備固めとして柱谷幸一監督が送り出したことは容易に想像できる。現にコーナーフラッグ付近でボールをキープして時間を潰した。それも、試合をきっちりと閉める“クローザー”に課された役割のひとつである。思惑通り時間は削られていった。

突如、好機が巡ってくる。ピッチ中央の横山聡から、左サイドのスペースへとパスが供給される。サポートに入ったのは久保田だった。トラップでマーカーを剥がし、躊躇いなく左足を一振り。強シュートはゴールネットを激しく揺さぶった。ボールを受けた際、背後から「ストップ」の声が掛かったという。

「パスを出そうかと思ったが、時間帯も考えてシュートを選択した」

これが吉と出る。鋭利なカウンターから追加点をもたらしのだから。

ゴール後、落合正幸に促され、ゴール裏に陣取ったサポーターの元へと駆け寄る。刹那、久保田の脳裏に過ぎったのは栃木SCに加入したばかり、一昨年の鳥取戦だという。ホームゲーム、土壇場で勝利をもたらしたのは左足。それも、ミドルレンジからのシュートだった。

「昨年は(ゴールが)0だったので、入ってよかった」

胸を撫で下ろし、日頃のトレーニングの成果?と問われると、「まあ、そうですね」とはぐらかした。

久保田は知っている。「出してもらった時にしっかりプレーできないと使ってもらえない」ことを、「しっかり準備をしていれば不測の事態が起きた時にチャンスを掴み取れる」ことを。昨季途中、米田兼一郎(現・徳島ヴォルティス)の加入により、ポジションを失った。出場機会を得たのは、堀田利明(現・ヴェルフェたかはら那須)が佐川急便SC(現・SAGAWA SHIGA FC)戦で負傷離脱したからだったが、それまで入念に準備を行っていたことで、一度手にしたポジションを他人に譲ることはなかった。

日々のトレーニングを大事にする姿勢は入団当初から変わることがない。常に向上心を持ち続けている。「たくさんある」という足りない部分を補うのは、もちろんトレーニング。

久保田は言う。

「短い時間の中でプレーすることは難しいが、いかに準備ができるか。準備不足で後悔はしたくない。いつ使ってもらってもいいように準備をする」

こつこつとアピールをすれば、結果を出せば、「出場時間は自ずと伸びる」「スタートから起用される」と信じている。そして、「ボランチでプレーしたい」と強く欲してもいる。レギュラーを張る落合と向慎一からポジションを奪う準備も、滞りなくできている。

『緩急』@栃木SC通信

2008年3月22日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

shin2.JPG明らかなアンバランス。戦略のひとつならば、個人のキャラクターを生かすならば、十分に合点が行く。それにしても、偏り方は顕著だった。時間を経るに連れて疑問がもたげてくる。単に意固地になり、執着してしまっているだけではないのか、と。右ワイドに先発起用された高安亮介の突破力とスピードに。右偏重は一向に是正される兆しが見えないどころか、ズブズブと泥沼にはまっていった。

「上手くビルドアップできなかったのが全て。同サイド、同サイドで行くのは難しい」
 
柱谷幸一監督は、問題点をそう分析した。例えばGK小針清允が右サイドバック岡田佑樹にボールを預ける。その時点で相手の陣形は崩れていない。高安の対面の選手も万全の準備を整えて待ち構えている。それでも、強引なまでにパスを通そうとした。いくらスピードがあっても、スペースを消されてしまっていては、抜きに掛かるのは容易ではない。目的地までの最短ルートを選択するあまり、攻撃が淡白になってしまった。進路を塞がれた高安はピッチから消去された。脅威を与えるべき場所が逆に足かせとなってしまう。
 
DFラインとボランチがポゼッションしながら機を伺い、サイドチェンジ、或いはコンビネーションを駆使して局面の打開を図っていくのが本来の栃木SCのスタイルである。一か八かのギャンブル的なパスを利すことは皆無に等しい。
 
ボールを散らす役割を担う向慎一は、「高安さんのよさを生かそうと、右、右になってしまった。相手もケアーしてくる。真ん中でボールを動かして、左にもっていくべきだった」と自ら選択肢を狭めてしまったことを激しく悔いた。続ける。「変化をつけられればよかった。ボク、(佐藤)悠介さん、(斎藤)雅也が起点になれれば、面白いサッカーになった」。

高安の速さは熟知している。それは、対戦相手のFC刈谷も同じこと。当然、警戒してくる。工夫が施されていない、安易なパスを出しても読まれてしまう。マークも剥がれない。一旦、逆サイドに振る、或いはボランチ、トップにあててから、右へはたく。単純な揺さ振りができていなかった。それどころか、一点に意識が集中してしまったことで、反対サイド、つまり左サイドは放置されたままになってしまった。佐藤は「ボールが触れないとリズムが作れない。ストレスが溜まった」とあけすけに話す。
 
高安の存在感が際立つのに45分以上を要してしまう。後半、上野優作がピッチに送り出されると、攻撃に緩急がつく。鳴りを潜めていたサイドアタックがようやく機能し始める。上野というワンクッションを挟んでから、サイドに展開したことで活性化が図れた。

直線で目的地に到達するのではなく、迂回したことが奏功する。良質なサイドからのアタックを可能にするためには、回り道も欠かせない。そして、修正能力も。「ゲーム中に、ボールが動いている時に修正するのはなかなか難しい」(柱谷監督)。だが、刻一刻と移り変わる状況に手をこまねいているわけにもいかない。「全部が全部、上手くはいかないが、悪い時間帯を減らして、いい時間帯を増やしていかなければならない」と佐藤は自省しながら、劣勢をイーブンに、更に攻勢に転じられるような能力を磨く必要性を説いた。

満遍なく両サイドからアタックを繰り出すには、能動的にサッカーを押し進めるには、コミュニケーションと連携を深め、気脈を通じ合わせることもまた、重要である。  

『強靭なメンタルを兼備したプロフェッショナル』@栃木SC通信

2008年3月17日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

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畳み掛けるように、言葉を並べていく。ストレートな物言いは誤解を数多く生み、同時にサポーターの心を鷲掴みにしてきたことが容易に想像できる。
 
2ゴール1アシスト。チームの全ゴールに佐藤悠介は絡んだ。手垢の付いた表現になることを許してもらえるならば、役者が違う、ということに尽きる。

「開幕戦をホームで勝てたことが一番」とは言ったが、キャプテンとしてチームを勝利に導くことが出来た、などとは口にしない。優等生発言を控える代わり、「とにかく自分の中で大事なゲームだった」と言い切った。
 
代表クラスの選手でもガチガチに緊張する「特別な思いがある」開幕戦。プロ生活13年目を迎える佐藤も例外ではなかった。ウォーミングアップから体に違和感を抱いた。経験があるとはいえ、纏わり付く独特の緊張感から逃れることは不可避。「僕自身、硬かった」と偽らざる本音を吐露しつつ、それでも向慎一、斎藤雅也、川鍋良祐らの若手には「思いっ切りやれ」とアドヴァイスをした。特別な試合に襲ってくる恐怖は己で乗り越えるより他に手はないからだ。壁を打破してこそプレーヤーとして一段、高みに行ける。実体験に裏打ちされた言葉には重みがあり、実行に移してしまうのだから、キャプテンシーとカリスマ性はより増していく。

「栃木SCに来た経緯もあり、いろんな思いがある。いろんな人達に『なんでJFLなんだ』と言われた。ここに来たことが間違いじゃなかったと証明したかった」
 
佐藤はチームの勝利と同等、いやそれ以上に自己証明をしなければならなかった。新入団記者会見では、最もプレッシャーを感じていると述べ、一方で期待感もあると話している。下した決断が、栃木SCに入団したことが、正しかったと周囲に思わせるには結果を残すしかない。それもスタートから、目に見えるカタチの。「とにかく自分が結果を出して勝ちたかった」。強い決意を胸に、試合に臨んだ。
 
前半の半ばまで思うように試合をコントロールできない、ナーバスな時間帯が続いた。ストレスの溜まる状況を、しかし佐藤の左足が一変させる。「蹴った瞬間に入った」と確信したボレーシュートは綺麗にゴールへ吸い込まれた。歓喜の輪の中心には佐藤がいた。チーム2点目となるお膳立てをした後は、一転してクールに振舞う。自信を持って蹴りこんだFKはゴールに突き刺さり、雌雄を決した。今度は感情を露に。恍惚の瞬間をサポーターと共有した。

敵将、ジャン・ポール・ラビエ監督は「経験」の有無を敗因に挙げ、「栃木の左の方がプッシュが効いていた」と付け加えた。印象に残った選手の具体名こそ伏せたが、佐藤を指していることは想像に難くない。

「自分でいろんな人に証明しないといけなかったので、貪欲に結果が出せた。初めて僕のプレーを見てくれた人は、佐藤悠介のプレーがよく分かったと思う。皆さんにでかい口を叩いて結果を出せてよかった」
 
よどみなく続ける。

「自分の代理人やサッカー関係者が見に来ていた。『このチームに来てよかったね』と話してもらえた。凄く大事なゲームで点をとれたのは非常に誇れる」
 
押し潰されそうな負荷を自らにかし、跳ね除け、存在価値を認めさせた。強靭なメンタルを兼備したプロフェッショナルである。

「プロ化して、責任を背負ってやっている。キャプテンとして先頭に立ち責任を持ってやっていきたい」
 
サッカーで碌を食む自覚と覚悟がひしひしと伝わってくる。

柱谷幸一監督がリーダーに指名したことが頷ける、非の打ち所がないパフォーマンスを披露した。 

『JFLの笛』@栃木SC通信

2008年3月10日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

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032.JPG試合後、挨拶に向かうチームメートを尻目に、ひとりコンクリートの壁に背を預ける。ベンチコートを羽織った斎藤雅也は俯いたままだった。顔色は優れない。ロスタイムに2ゴールを挙げて勝利したにもかかわらず、である。

落ち込むのも無理はない。先発しながら最後までピッチに立っていられなかったのだから。
 
後半22分、退場。

パフォーマンスに起因するものならばまだ救いはあるが、イエローカード2枚を提示されてのピッチ追放は、さすがに堪える。

「JFLの基準は難しい。大学時代にはとられなかった(ファール)が、とられた」
 
4年間で体に刷り込まれた感覚を他のカテゴリーに持ち込むと痛い目を見る。

同じく大卒新人の向慎一も判定基準に違和感を抱いている。序盤にカードをもらってしまった。ボディコンタクトが不可欠なボランチにとっては、致命的である。1枚カードを持っていることで、「持ち味を出し切れなかった」。厳しくいけば再びカードを出される。早々に追い出されるわけにはいかない。数的不利に陥ることを避けるために萎縮してしまった。意欲的に人とボールにチャレンジできない。際どいプレーに腰が引ける。それが硬さに繋がり、停滞していた前半の攻撃を活性化させられなかった一因でもあった。

「中盤でボールを取れた。カードをもらったシーンも、もう一歩、出足が早ければ・・・。中盤でボールを取ってチャンスを作れたはず」

向は唇を噛んだ。

リーグ戦と同様のシチュエーションで辛酸を舐めた。しかし、“JFLの笛”を肌で感じられたことは、2人にとって小さくなかったようだ。「退場したことでチームに迷惑をかけたが、これだけやったらファールになる、との線引きができた。開幕前にわかったのはよかった」と斎藤が言えば、「今日、硬さを経験したことで、次は絶対に(硬くなら)ない。思いっ切りやれる」と向もポジティブだった。
 
JFLの判定は独特であり、誰しもが受ける洗礼でもある。許容範囲を探るのは容易ではない。昨季、途中加入した上野優作も戸惑いを隠せなかったという。立て続けにカードを頂戴してしまった。判定に慣れるには多少の痛みを伴うのかもしれない。
 
だが、チームコンセプトとして「フェアネス」を掲げている柱谷幸一監督は、当然ながら不快感を露にした。

「ミーティングで選手にはイエロー(カード)をもらわないように、と言っているだけに残念。反省を求めたい。退場者を出すと厳しい、と(改めて)いえるいいゲームだった」
 
不要なファールは極力減らさなければならない。昨年、アウェーのアローズ北陸戦(0―1)を落としてしまったのは、退場者を出したからだと考えている。また、地元の人々に愛され、プロビンチャとしての地位を確たるものにするには公明正大である必要性を常日頃から訴えてもいる。
 
負傷離脱は止むを得ないが、累積警告や一発レッドにより大一番にベストメンバーを組めないような事態は回避したいし、しなければならない。定まらない笛に苛立ちをおぼえるのではなく、笑ってやり過ごせるように。郷に入れば郷に従えではないが、これまでの皮膚感覚を一度捨て去り、属するリーグに適応させなければならない。  

『得がたい感覚』『慢心せず』@栃木SC通信

2008年3月 2日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

tochgiisc4.JPG  『フィーリング』

好感触に自然と顔がほころぶ。あんなに無防備に笑う上野優作を、栃木SCに加入してから見たためしがない。

「案外いいですよ、ねえ」

2トップを組んだ松田正俊との関係性に関して問われた上野の回答である。上背があり、前線でポイントを作れ、ボールを収められる。役割としては重複する部分が多々あるものの、誤解を恐れずに言えば上野は純粋なポストプレーヤーではない。それぞれの特長を上野が語る。

「僕の方が動く。マツ(松田)が真ん中にいる感じ」

昨季はクサビを受ける仕事を主に求められたが、本人も自覚しているように左右のスペースへと流れながらボールを後方から誘引するプレーをした方が、生きるし、味方を生かしきれる。所属がアルビレックス新潟だった時、前線の僅かなスペースを上野は見出し、我が物としていた。タイプが似ていることからフィットしないのでは、との見方が強かったが、どうして、意外と様になっている。対福島ユナイテッドFC、対大宮アルディージャ、対湘南ベルマーレ戦の3試合でコンビを組んだ。記録したゴール数は松田2、上野3である。共に故障明け。万全のコンディションではないことを考慮すれば、悪くない数字である。

負傷離脱から復帰して日が浅い。攻撃のトレーニングは満足に積めていない。それでも、「案外あっさり」と呼吸が合った。「攻撃のカタチがある程度できた」。その理由を上野は「感じられる選手がいる」と表現した。それは佐藤悠介であり、岡田佑樹であり、落合正幸であり、向慎一であり、そして言うまでもなくパートナーの松田である。また、こんなことも言っている。「今年は個のレベルが上がった」。個が上澄みされたことで、感じ合えるツボを互いに共有できる。だからこそ、受け手と出し手の関係が良好になり、心地よいタイミングでのプレーが可能となっている。

「代表ではよく言われますが、誰が入ってもいいチームは寄せ集めでもいい」(上野)

仕上がりは上々、纏まりが出てきているとはいえ、新加入選手が大半を占める、言わば新チームを立ち上げたに等しい状況下にある2008年度の栃木SC。コミュニケーションが不十分な点も、当然ながら散見される。しかし、個々の能力が高いからこそ得られる感覚は易々と手に入れることはできず、だからこそ貴重であり、個性の理解度が深まれば、その強味は更に増すに違いない。フィーリングが合っている。これは最大の武器になる。

 

『慢心せず』

サテライト中心ながら大宮アルディージャ、湘南ベルマーレを無失点に封じ、それぞれ1-0、2-0と勝利することができた。だが、この時期は結果よりも、内容にウェイトが置かれる。そのことを柱谷幸一監督は十二分に理解している。だからこそ、様々なテストを敢行し、確かな手応えを得ても満足することはなく、ブラッシュアップすることが本番に向けて必要不可欠であると感じている。

「0だったからいいのではなく、(相手のミスで)助かったシーンもある。そこは突き詰めたい。もう一度、洗い直して修正する」

湘南戦の前半。ゴールを決めたのは栃木SCであるが、好機の数では相手が勝った。ドリブルへの対応の拙さ、攻守の切り換え時のもたつきが窮地に結び付いていた。「川鍋とワシ(鷲田)は強く、コンビネーションもよくて守れている」(柱谷監督)。なるほど、ボランチラインを突破されてもCBの一枚が潰しに出ることで危機を未然に防いでいた。「中盤での取られ方が悪く、厳しい部分もあったが落ち着いて対応できた」とは川鍋。カバーリングできるポジションも取れていた。1対1での強さは頼もしい。しかし、攻め込まれ、決定機を作られてしまったのも事実である。バイタルエリア(決定的な仕事ができる地域)の閉めが甘く、後手を踏んでしまう。川鍋は言う。「ボランチとの連携(を図る)。後ろはラインを下げるとボランチとの間が空くので、ボランチが落ちてくるのか、ラインを上げてFWを潰しに行くのか。オチサン(落合)とシン(向)と話し合いたい」。ドリブルで向かってこられた時にどう対処するのか。ラインが整っていない時のポジショニングはどうするのか。堅牢な守備組織を構築するために、やるべきことはまだ、ある。

「松田と上野のところでボールが収まり、2列目がボールを受けて展開できている」(柱谷監督)。坂本勇一、稲葉久人の大卒新人には難儀な作業が2人にはできている。前線にボールが入れば攻撃の幅は広がりを見せる。相変わらず左サイド偏重ではあるものの、タッチ数の少ない連動したプレーから相手守備網を混乱させることも可能になってきた。先行していた守備にようやく遅れを取っていた攻撃が追い付いて来たように映るが、指揮官の見立ては少し異なる。「個の力でやれている部分が大きい」。物足りないようだ。要求は厳しい。「2トップと係わる動き、2トップの関係性を高めれば、いい攻撃ができる。そうすれば、自ずとサイド攻撃も生きてくる」。松田と上野、佐藤などの個のクオリティに依存するのではなく、周囲を巻き込んだ肉厚な攻撃がイメージとしてあるのだろう。後方から湧き出るように複数の選手が飛び出して絡んでくる。理想である。個で相手を凌駕し、連携が図れていれば、ゴールを奪える確率が低くなるはずはない。停滞気味の右サイドの攻撃も活性化される。傍目には熟成に時間を要するのではないかと思えるコンビネーションであるが、柱谷監督は平然と言ってのけた。「コンビネーションはそんなに深く(時間が)かからない。(開幕までの)2週間で入れられる」と。

悔いを残して開幕を迎えないように。綻んだ箇所を早急に修繕していく。慢心が入り込む余地など微塵もない。

『タイミング』『危機を回避するために』@栃木SC通信

2008年2月24日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

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『始動の速さ』

淡々と。記者の質問に答える様子からは、左モモ裏の筋肉を痛めて出遅れたことによる焦りも、ポジションを確保しなければという気負いも感じられなかった。

「とりあえず試合が初めてだったので無理をせず、怪我なく試合を終われたら。自分のプレーを出せればいいかなと」

試運転となった初の実戦。FWである以上、松田正俊は「攻撃で起点になる。点を取ること」を念頭に臨んだものの、特段アピールするつもりはなかったようだ。順調に回復している患部と会話をしながら、現時点でのコンディションを確かめる。むしろ、比重はそこに置かれた。結果は二の次。しかし、対戦相手との実力差が、望外の好結果をもたらしてしまう。滑らかにボールを引き出し、上野優作のゴールに間接的に関与する。また、自らもチーム4点目となるゴールを、空中戦の強味を生かしたヘディングで決めた。ゴール前で相手に与える威圧感は強烈であり、存在感は際立っていた。

「(状況が)厳しくない中でやれたのは気持ちよかった」

汗を流した程度のプレーでも目に見えるカタチで結果を残してしまうのあたりは、さすがである。

柱谷幸一監督は言う。

「ボールを受ける動き出しのタイミングがいい。だから、いいボールが入ってくる」

パスをもらう前の下準備が滞りなく行えているから味方は松田を見つけ易い。ルックアップする。既に始動している。躊躇いなくパスを供給できる。気が付けば自然と互いの呼吸が合っている。自分の間合いに引き込める。ストライカーに必要不可欠な要素である。

30分限定の出場だったが、「患部に違和感はない。コンディションで遅れを取っているので取り戻したい」と話した松田の状態を把握できた柱谷監督は「明日、リバウンドが来ていなければ月曜日からトレーニングを入れる。岡田のように30分、45分と頭から使う。(佐藤)悠介、(小林)成光、向と合わせてやらせたい」と遅々として進んでいなかった攻撃のコンビネーションに着手する考えを示した。

松田もステップを踏む心積もりでいる。

「試合はやっていなくてもみんなのプレーを見ていたのでイメージは湧いていた」

周囲のプレーに対する具体的な映像が頭の中で出来上がっていることから、試合で使用可能なフィジカルを養いつつ、連携を深める作業も並行して行えればと思っている。

「あのへんからでもアピールできれば。期待してもらってもいい」

あのへん、とはゴール前のこと。そして、アピールするのはFKから、である。直接ゴールを狙ったFKは惜しくもポストに嫌われた。だが、感触は悪くなかった。松田は不敵に笑った。確かに、笑ったのだ。照れ笑いなどではない。十分すぎる手応えを感じ、こみ上げてくる感情を抑え切れなかったに違いない。佐藤という良質なプレイスキッカーがいるが、松田も虎視眈々と蹴る機会を狙っている。

 

『つまらない失点を回避するために』

JFLで指揮を執ったことで分かったことがある。対戦チームの狙い所が。

「しっかりと守って、中盤につけるボールをボランチから奪って前掛かりに攻撃してくる」

対横河武蔵野FC戦ではボランチにボールをつける機会が目立った。ボランチにボールを預けること自体は悪くない。ただ、柱谷監督は一辺倒になることを恐れている。状況によっては2トップの足元へもっとボールを入れてもいいのではないかと考えている。中盤で引っかかれば、それだけカウンターを食らう回数も増える。不要なリスクはなるべく減らしたい。

対福島ユナイテッドFC戦、こんなシーンがあった。CBの鷲田雅一が下りてきたボランチの落合正幸にパスを出した。自陣の深いところ。掻っ攫われれば失点を覚悟しなければならない場所である。敵は落合にプレッシャーをかけられる位置に3人もいた。にもかかわらず、鷲田はボールをつけた。果たして、ボールを喪失。事なきを得るも褒められたプレーではなかった。

柱谷監督は鷲田に問い掛けた。

「(斎藤)雅也や引いてきたボランチ、(右サイドバックの)岡田に出せるだろうと」

返って来た答えは、こうだ。

「見えているが怖かった」

前方からは猛烈な風が吹き付けた。パスの距離が長くなればなるほどスピードは殺されてしまう。コントロールも落ちる可能性が高い。そのことを鷲田は危惧したのだ。横パスを出してインターセプトされ、フィニッシュに結び付けられてしまうのではないか、と。互いの距離感が狭いことを承知で、落合のスキルを信じて出したパスは、しかし致命傷となりかねなかった。「(パスを、隣の味方を)飛ばすところは怖かったんじゃないでしょうかね」。柱谷監督は特異な状況下にあったことから、一定の理解を示した。だが、だからといって看過することはできない。

「CBと特に落合のところで2、3回からまれた。取られると真正面から攻撃を受ける。決定的なシーンを作られる可能性があるので、はっきりさせる」

具体的な修正ポイントとしては、鷲田に関してはボールをつける位置とタイミングが適切で、選択として間違っていないのか。落合に関しては、いい準備が、つまりボールを受けられる状態にいられるのかどうか。最終ラインからボランチに入るボールに噛み付かれたら、有能なアタッカーは高い確率でゴールを陥れる。それだけ、ミスが1度でもあってはならないポジションなのである。

「守備はできてきたが安心するとまたできなくなるので、もう一度確認したい」

キャンプを総括した柱谷監督のコメントである。攻撃陣の連携も深めなければならないが、キャンプで主眼を置いた守備も再度、詰めていかなければならない時期に差し掛かっているのかもしれない。つまらない失点を喫しないために。念には念を。

『優位性を保持するには』@栃木SC通信

2008年2月18日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

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横浜Fマリノス、横河武蔵野FCとの連戦で、栃木SCが記録したゴール数は0だった。松田正俊など攻撃的なポジションの負傷者が相次ぎ、駒数が不足。必然的に守備に軸足を置いたトレーニングを行わざるを得なかった。その点を考慮すれば、ゴールを割ることができなかったのは致し方のない部分がある。3人目の動き、サイドバックとの絡みなど相手を困惑させ、攻め落とすコンビネーションは不十分であり、セットプレーの確認もしていない。ゴールを奪うための道筋がしっかりと描かれておらず、整備されていないのが現状である。それでも、柔軟な発想を持ち、「優位性」を生かせていれば活路を見出すことができた、と柱谷幸一監督は考えている。

横浜は3-5-2の布陣を敷いた。栃木SCは4-4-2。優勢に試合を押し進めるには、いくつかポイントが存在する。

「3-5-2の相手ではサイドバックが起点になり易い」(柱谷監督)

相手のサイドは1枚、こちらはワイドとサイドバックの2枚。自ずと数的優位が出来上がっている。使わない手はない。堅守を誇る横浜。中央からの攻略は難儀な作業である。それならば、サイドに起点を設ければいい。数少ないながらも左サイドを担った斉藤雅也と佐藤悠介は好機を生み出せた。一方で右の赤井秀行と小林成光は機能不全に陥った。比較的プレッシャーを受けずにボールを持てるはずの赤井。味方にマークが付いているにもかかわらず、回ってきたボールをすぐさま前方に出していた。誘き出してからパスを入れる。ドリブルで持ち上がって注意を引き付け、味方のマークを剥がしてからボールをつける。選択肢はたくさん用意されていたが、前へ前へと気持ちばかりがはやる。思考は停止し、相手に対処が容易なプレーに終始してしまった。せめぎ合いの中で「優位性」を発揮するはずのポジションが、逆に付け狙われ、ウイークポイントに成り下がってしまった。

4-4-2でがっちり組み合った横河戦。2トップがボールを収められれば、ワイドを利したサイドアタック、3列目からの追い越しが可能となったのだが、先発起用された稲葉久人と坂本勇一の2トップは前に張り付いてしまったことで、ボールの循環を詰まらせた。拙攻を繰り返した要因である。幾分か後半は改善されたものの、せっかく高さと速さに長ける2枚を配したのに、その「優位性」を損なわせてしまった。

「いい物を持っているが(自分の武器の)使い方(が理解できいない)。FWはボールを持っている味方、自分、パートナーと相手の関係を見てから動かなければならない。2人はボールを持っている味方と自分しか見えていない。FWですから結果的にゴールを取れていないのだから、評価として〇ではない」

柱谷監督はバッサリと切り捨てた。平面でのイメージしか持てていないから、俯瞰して刻々と変化する状況を把握できていない。自分がどこで受けたいのか。そればかりに固執するのではく、味方の動きを敏感に察知し、対峙するマーカーのポジション移動までにも気を配り、小刻みに位置取りを修正していく。コンパクトな現代サッカーでは個で局面を打開できる選手は数えるほど。いかに周囲と連動してシュート機会を作り出せるかが肝である。

経験と実績で勝る上野優作と松田が戦列に復帰してくれば、出場機会は激減する坂本と稲葉。生き残るために与えられたチャンスは多くはない。「ここ2、3試合が勝負だからな」と柱谷監督には言われている。重圧に蝕まれたのか、結果を求めるあまり、裏を付くことばかりに目がいってしまった。例えば一人が高い位置に張り出してDFラインを下げることで味方にバイタルエリアを提供する。例えば中盤に下りてきてマーカーを引っ張り出してくればギャップを生み出せる。横並びの関係ではなく、上下の縦関係を築けるように動けていれば、相手のラインを崩すことは不可能ではなかったはず。現に途中交代した石舘靖樹は柔軟にポジションを変化させることで、停滞していた流れを一気に好転させた。ポテンシャルに疑いはないが、基本的な部分の底上げが成されなければ横山聡、松田、上野を追い越せない。柱谷監督は稲葉、坂本の才能を伸ばし、戦力として使えるようにするために、録画したビデオを教材に広い視野を確保できるイメージを植え付け、トレーニングを課していく心積もりでいる。

横浜戦ではサイド、横河戦では2トップを上手く活用できなかったことが、無得点に繋がった。結果と内容に気を揉んでしまわないといえば嘘になる。しかし、開幕まで1ヶ月を切った時期に完璧にチームが仕上がっているよりは、顕在化した課題をひとつずつクリアしていく方が照準を合わせるには適している。まだ、騒ぎ立てるには時期尚早。じっくりとチームが出来上がる過程を静観したい。どんなシチュエーション、相手であろうとも「優位性」を保持できる逞しさを兼備できるようになることを願いながら。

『追試で掴んだ手応え』@栃木SC通信

2008年2月18日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

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心中穏やかなはずがない。

横浜Fマリノスとのトレーニングマッチ。右サイドバックとして90分フル出場するはずが、赤井秀行は前半45分で引っ込められてしまう。周囲との良好な関係性を築けなかったことで、持ち場を荒らされ、全ての失点に絡んでしまった。交代出場したのは右ワイドが本職である高安亮介。その高安は身上であるスピードを生かしてタッチライン沿いを疾駆、守備では1対1の強さを発揮してアピールに成功する。柱谷幸一監督に「最大の収穫」と言わしめたほどの出来だった。

プライドは傷ついた。赤井は胸中を吐露する。「ショックでした」。

2試合続けての低調なパフォーマンスは許されない。高安に取って代わられる事態は回避しなければならない。柱谷監督から追試を言い渡された赤井。スタートから右サイドバックとして対横河武蔵野FC戦に臨んだ。

「前半はワイドと連携が図れず、今ひとつ。後半はできた」

前半13分。思い切って前に出るもクロスを供給するには至らない。その後、ビルドアップがスムーズにいかなかったこと、2トップにボールが入らなかったことで、オーバーラップを仕掛けるタイミングを見出せなかった。ただ、苦渋を舐めさせられた横浜戦とは打って変わり、レベルの違いこそあれ守備は安定していた。

「守備からしっかり入る。先ずは目の前の相手にやられない。マリノスは3-5-2のワイドが中途半端で捕まえ難かった。(横河は)4-4-2でのマッチアップだったので、整理して入れていた」(柱谷監督)

拙さが露呈した守備に関しては合格点をもらえた。破綻をきたすことはなく、一安心といったところだろうか。

しっかりと持ち場を守ることにプライオリティを置いた。それ以外にも試合前、心に決めていたことがあった。

「(横浜戦では)攻撃ができなかったので、攻撃の意識を高めた」

守備的と評される赤井だが、本人は攻め上がることも持ち味のひとつであると語る。横浜戦ではボールが回ってきたら兎に角、前にパスを出した。パートナーを組んだ小林成光とプレーで重なる部分があることが一因だそうだ。闇雲にパスを出しているだけでは味気ないし、敵にインターセプトを狙われる確率が高い。なにより、怖さがない。そこで一工夫、加えたという。

「ドリブルを入れたり、トラップしてから前へ(ボールを)入れたり、内側に切れ込んだ」

後半、チームがリズムを掴み始めると、赤井が敵陣に侵入する回数も比例するように増えた。一本調子だった攻撃に彩をもたらす。後半8分、外側から内へとカットイン。大胆にもドリブルでゴール前にまで顔を出した。プレーの選択肢と幅が広がった。

「昨日よりは上がることができたし、ボールにも絡めた」

攻撃でもある程度の手応えを得た。感触は悪くない。しかし、「相手のプレッシャーに慌ててしまう。最後のDFの仕方が悪い」と詰めるべき点もある。

岡田佑樹、高安とのポジション争いは熾烈だが、むしろ大歓迎だという。競い合える環境に身を置くことで自己を磨けるからだ。

「岡田さんも高安さんもスピードがあるが、自分もタイプは似ている。スピードとDFの1対1で負けないようにしたい」

自身の特長を武器に定位置を掴み取る。怪我から岡田が復帰しても、高安が存在感を示そうとも、易々とスタメンの座を譲るきは更々ない。

『追試』@栃木SC通信

2008年2月17日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

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赤井秀行は俯きながら悔しさを滲ませた。

「左は嵌っていたのに、右はそうではなかった。自分のサイドからやられてしまった」

対横浜Fマリノス戦、右サイドバックに配された。立ち上がりは無難に応対するも、チームの旗色が悪くなるに連れて、必然的に仕事量が増えた。試合は一方的な展開になり、前半45分だけで3失点を喫する。許したゴールは全て赤井のサイドからだった。非が赤井ひとりだけにないことは付記して置く必要があるだろう。ただ、斎藤雅也と佐藤悠介が組んだ左サイドは攻撃面で柱谷幸一監督から一定の評価を得たことから、余計に拙さが際立ち、心象を悪くしたのは事実だろう。

「こっちの右サイドがルーズになっていたところを、うまくやっていないところを、(相手の)左サイドから作られた」と右寄りに構えていたボランチ向慎一は横浜の試合巧者ぶりを認めながら、他方で「喋って、コーチングで改善できた。右に寄り赤井、(小林)成光さん、FWを動かせれば、もう少し防げた」と臍を噛み、「CB、ボランチもひっくるめて声を掛けてやりたい」と続けた。

互角に渡り合えたのは最初の20分間だけだった。出方を窺いつつ綻びを見つけた横浜は容赦なく、徹底的に栃木SCの右サイドを突いてきた。前線から引いてきた大島秀夫が安定感のあるポストプレーで起点を構築し、リターンパスをボランチがサイドへと叩く。スピードに乗った左ワイドの小宮山尊信はいとも簡単に背後を突いた。オートマチックに事が運ぶ。このトライアングルが、崩れることはなかった。シンプルな攻撃だが、破壊力は抜群であり、かつ効果的だった。

「サポートの位置が的確だった」

赤井は連動した動きとポジショニングに、ただ脱帽するしかなかった。

スムーズな連携が図れていた横浜。対照的に栃木SCはコミュニケーションが不十分だった。頭に思い描いている図を共有できているか否か。その差が如実に現れたのがサイドでの攻防だった。

赤井は突破された原因を探り、語った。

「コミュニケーションがとれていない」

具体的には「マークのずらし方」ということになる。CBとワイド、さらにはボランチを含めた周囲との歯車が、まだ噛み合っていない。無理もない。チームは始動して日が浅く、パートナーが変わることも多々ある。

柱谷監督は異なる視点から問題点を分析する。

「照井のところがやられた。赤井をリードしてやらないと」

赤井の対面の小宮山にボールが渡る以前、つまりクサビに対して照井が「がっと」潰しに行っていれば、大島のポストプレーは安定感を欠いたはずである。しかし、それが思うようにできなかった。照井の「準備不足から」である。それでも、向が指摘したように、声を掛け合えれば幾分か事態は好転したかもしれない。横浜が選手間で主張しながらプレーしていたのに比べて、栃木SCは総じてあまりにも大人しかった。キャンプを経て、打ち解けてきているとはいえ、まだ遠慮している部分があるのかもしれない。要求が少な過ぎた。もっと、意見をぶつけ合ってもいいはずである。

対横河武蔵野FC戦では横浜戦から大幅なメンバーの入れ替えをすると断じた柱谷幸一監督だが、「45分しかやっていない。スタートから(使う)」と赤井には“追試”を受けさせる。

「今日の反省を生かして、ガンガン行きます」

気持ちを切り換えて横河戦に臨む決意を述べた赤井。足早にバスへと歩を進めた。

『コミュニケーションを深め、柔軟な発想を持つ』@栃木SC通信

2008年2月10日 大塚秀毅 | | コメント(0) | トラックバック(0)

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『ベクトルを合わせることの重要性』

キャンプを振り返り、佐藤悠介が言う。

「方向性は見えていると思うので、いいキャンプだったと思う」

収穫はフォーカスした守備面だろう。アタッカー陣が怪我を負ったことで必然的にキャンプは守備を中心としたトレーニングにならざるを得なかった。連日、ビデオを見ながらトレーニングで浮き彫りとなった課題を修正した。入念にチェックを繰り返したことで、柱谷幸一監督が守備のキーファクターとする「チャレンジ&カバー、ラインコントロール、スクリーン、ボールへのアプローチ、サンド」などの共通理解が図れた。例えばDFは鷲田雅一、ボランチは落合正幸が軸であるが、パートナーが変わろうともベースの部分がしっかりと構築されたことで守り方にブレが生じない。ジェフリザーブズ(1-0)、国際武道大学(2-0)、ソニー仙台(3-0)とのトレーニングマッチ3試合を完封できたのは、守備組織が段階を踏んで仕上がってきているなによりの証拠だろう。天候に恵まれなかったキャンプだったが、「予定通りやれた」と柱谷監督が口にしたのは、「守備はかなりやれている」との手応えを掴んだからに違いない。

「どうやって11人で守るのか。どこでプレッシャーを掛けるのか。ファーストDFのコースの限定の仕方など、当たり前のことだがチームが同じ方向を向く。ひとりが取りに行っているのに、周囲が動かないのでは意味がない。皆が同じ方向を向くことが今回のテーマだった」

佐藤は何度も「同じ方向を向く」ことの重要性を説いた。ベクトルが同じということは、つまりコミュニケーションが取れているということ。この時期、トレーニングマッチの勝敗よりも、攻守におけるイメージがどれだけシンクロできているか。その点に重きを置くべきだと強調する。それは柱谷監督の目指すサッカーにどれだけ近付けているのかを測るバロメーターを知っているからこその発言なのかもしれない。

佐藤は言う。

「ボクは昔、監督とやっているので(志向する)サッカーが理解できている。完成度とか。これをやれば、これくらいの状態になることが分かっている」

指揮官の理念を叩き込まれている選手が、佐藤以外にも在籍していることはチームの完成度を促進する。個が突出していてもユニットとして機能しなければ過酷なリーグを勝ち抜き、テッペンになど辿り着けない。新加入選手が大半を占めるチームが、一致団結して目標を達するには目線を合わせなければならないのは言わずもがなである。

他方で、先送りになってしまった攻撃に関しては個のレベルアップの必要性を感じてもいる。

「J1、2のチームもそうだが点を取るところですね。いいトレーニングを監督がしてくれてもPボックス内での個人のアイディアとかクオリティは選手が持っているもの(が関係してくる)。シュートが枠に飛ばない、シュートが入らないのは僕自身も含めて個人の練習になってくる。11人でボールを運んで攻めて守るが、最後の部分は個人的な問題になってくるので、そこの精度を上げていきたい」

 

『柔軟な発想力』

昨季と体質的に似通った部分があるのかもしれない。

「真面目で言われたことはしっかりやるが、そればっかりになるのは困る」

佐藤は現在のチーム状態をそう把握し分析した上で、「自分で考える必要がある。局面、局面で色々なことが起こるので個々で修正をする。グラウンドで起こっていることを自分達で考え、対応していく。その力を付けていかなければならない」。そのために、上野優作と共にこれまでの経験を若手に還元していきたいと考えている。

表現こそ違うが、柱谷監督も対応力について言及している。

「ゲームでの90分の使い方。相手のやり方に対してどう戦っていくのか。極端に固めた戦術で戦うのではなく、柔軟に考えてやっていく。それが90分のペースを作る。ひとつのカタチしかなく、相手が対応してきたら、相手のペースで終わってしまう。いろんなことを自分達が使えるようにならないと」

臨機応変に戦わなければならない。その一例としてショートパスを持ち味とするヴァンフォーレ甲府を引き合いに出した。細かいパスを繋いで引っかかって逆襲を食らうのでは意味がなく、大きなサイドチェンジや大胆に背後を突くパスを混ぜるなど、その場の状況を読みきる力を養うことを求める。ひとつのことを突き詰めて徹底的にやるのではなく、バランスよく試合を運び、相手が守り難いサッカーを展開する。ソニー仙台戦を見た限りでは、高いラインを押し下げるのに長いボールを、サイドから意識的に使った。浅いラインが深くなれば中盤が空き始め、バイタルエリアから崩せるし、トップがボールを受けられるようにもなる。ボールを付け難い中央から侵略するのではなく、サイドを有効活用する。分かり易いビビットな単色ではなく、色彩に富んだサッカーを理想系として掲げる。

言われたことをただ単に忠実に実行するのではなく、頭を柔らかくしておくことで刻々と変化する局面で思考を停止させることなく正しい判断ができるようにする。今年も攻守両面で「アラート(用心深い。敏感な)」な状態を持続させることがポイントになってくるだろう。